第32話 魔王軍四天王会議
今回は少し視点を変えて、魔王軍側のお話です。
各地で進められているレベルストーンの収集。
その状況を確認するため、魔王ダグラスのもとに四天王が集められます。
総一たちの知らないところで、魔王軍は何を進めているのか。
今回もよろしくお願いします!
同じ頃。
ビジュールから遠く離れた地に、巨大な城がそびえていた。
人間の国では、正確な場所すら知られていない魔王軍の本拠地。
魔王城。
その最奥にある広間には、普段とは違う緊張した空気が流れていた。
長い石造りのテーブル。
その最奥に座っているのは、魔王ダグラス。
そして今日、その前には魔王軍を率いる四天王が集められていた。
ベルガもその一人だ。
巨大な身体を椅子へ預け、腕を組んでいる。
その近くにはマリア。
そして、残る二人の四天王も席についていた。
滅多に一堂に会することのない者たちだ。
「揃ったな」
ダグラスの声が広間に響く。
それだけで、それまでわずかにあった物音が消えた。
「今日、お前たちを呼んだ理由は分かっていると思う」
ダグラスがテーブルの上へ視線を落とす。
そこには、一つの透明な石が置かれていた。
「レベルストーンだ」
ベルガたちの視線が集まる。
「各地で回収を進めさせているが、予定していたほど集まっていない」
ダグラスが顔を上げた。
「現在の状況を聞こうか」
それぞれから報告が始まった。
各地で少しずつ回収されてはいるものの、そもそもレベルストーンそのものが希少だ。
さらに人間たちの間では、普通の透明な宝石として扱われている。
見つけるだけでも時間がかかっていた。
やがてベルガの番になる。
「私の担当する地域では、ビジュールを中心に回収を進めております」
「宝石の街か」
「はい。あの街には周辺の採掘場から大量の宝石が集まります。透明な石も他の街より多い」
ベルガは淡々と続ける。
「採掘場にも手を入れ、流通量を抑えました。そのうえで街に出回っている透明な石をこちらで買い集めています」
「成果は?」
「まだ十分とは言えません」
ベルガの声がわずかに低くなった。
「それと、一つ問題が起きています」
「問題?」
「勇者シンがビジュールへ来ています」
広間の空気がわずかに変わった。
だがベルガは続けた。
「ただ、私が気になっているのは勇者ではありません」
ダグラスの目が細くなる。
「田端総一という男です」
その名前を聞いた瞬間だった。
「……総一か」
ダグラスが即座に反応した。
今度はベルガが僅かに眉を動かす。
「ご存じなのですか?」
「知っている」
ダグラスは椅子へ深く腰を預けた。
「薫をここへ連れてくる際に会っている」
四天王たちの視線がダグラスへ向く。
「妙な男だった。魔力は感じなかった。それにもかかわらず、私を前にしてほとんど怯えていなかった」
ベルガが静かに頷く。
「こちらでも調べました。ブラックゴーレムを素手で破壊したとの報告があります」
「素手で?」
マリアが反応する。
「それだけではありません。私の部下が何度か監視していますが、尾行にも気づいているようです」
ダグラスは少し考え込んだ。
そして四天王を見渡す。
「田端総一を甘く見るな」
低い声だった。
「勇者シンだけを警戒していればいいと思うな。あの男がどれほどの力を持っているのか、私にもまだ分からん」
魔王本人がそう評価したことで、広間の空気が変わった。
ベルガが口を開く。
「現在、総一たちは私の拠点周辺を探っているようです」
「お前がここへ来て問題ないのか?」
「留守はジャネストに任せております」
ベルガに迷いはなかった。
「私の右腕です。私が不在でも、あれなら問題ありません」
「ジャネストか」
ダグラスもその名を知っているようだった。
「それに諜報についてはキャナルが指揮しております。総一たちの動きも引き続き監視させています」
「ならばいい」
ダグラスは再びテーブルのレベルストーンへ目を向ける。
「ただし、無用な損害は出すな。目的は人間との戦争ではない」
「承知しております」
「今はレベルストーンの回収を優先しろ」
ベルガが頭を下げた。
会議はその後もしばらく続いた。
回収した石の管理。
各地の状況。
人間側にレベルストーンの存在を知られた場合の対応。
そして、これからの収集方針。
やがて一通りの報告が終わる。
ベルガが席を立とうとした。
「待て」
ダグラスが止めた。
「今日はもう一つある」
四天王たちが再びダグラスを見る。
「お前たちに会わせておきたい者がいる」
ベルガが眉を寄せた。
ダグラスが扉へ目を向ける。
「入れ」
重い扉がゆっくりと開いた。
そこから入ってきた人物を見て、ベルガの目が細くなる。
人間の女だった。
年齢は三十代半ばほど。
魔族に囲まれているというのに、怯えた様子はない。
むしろ広間へ入るなり、並んでいる四天王を順番に眺めていた。
「……何よ、この集まり」
薫が呟く。
「ずいぶん物騒なのが揃ってるじゃない」
「口を慎め」
ベルガが低い声を出す。
薫はベルガを見上げた。
「大きいわね」
「……」
「何食べたらそんなに育つの?」
ベルガの眉間に皺が寄った。
「薫」
ダグラスが名前を呼ぶ。
「何よ」
「少し黙っていろ」
「そっちが呼んだんでしょうが」
ダグラスは小さく息を吐いた。
そのやり取りを見ていた四天王たちにも、目の前の女が普通の捕虜ではないことだけは伝わった。
「紹介しよう」
ダグラスが告げる。
「花咲薫だ」
ベルガの表情が変わる。
先ほど聞いたばかりの話と、一つの名前がつながった。
「まさか……」
「そうだ」
ダグラスが頷く。
「田端総一が探している女だ」
薫の目が僅かに動いた。
「総一?」
久しぶりに聞いた名前だった。
ダグラスはその反応を見ながら続ける。
「この女は特殊な回復能力を持っている。通常の回復魔法とは明らかに異なる力だ」
マリアが薫を見る。
ベルガも黙って観察していた。
こんな人間の女一人を、なぜ魔王自ら連れてきたのか。
ようやく理由の一端が見えた。
「今後、この女の力について調べる」
「先に言っとくけど」
薫が割り込んだ。
「私はあんたたちの仲間になったつもりはないから」
「分かっている」
ダグラスは怒らなかった。
「今すぐ協力しろとも言わん」
「じゃあ帰して」
「それはできん」
「でしょうね」
薫は呆れたように肩をすくめた。
ベルガはそんな薫を見ながら、別のことを考えていた。
この女を探して、田端総一は動いている。
そして今、その男は自分の拠点へ近づいている。
「魔王様」
「何だ?」
「田端総一は、この女がここにいることを?」
「知らない」
ダグラスは短く答えた。
「私がどこへ薫を連れていったのかも知らないはずだ」
薫の表情から、わずかに笑みが消えた。
ダグラスは四天王を見渡した。
「だが覚えておけ」
広間に低い声が響く。
「田端総一は薫を探している」
誰も口を挟まない。
「奴は必ず、我々へ近づいてくる」
ベルガは静かに目を細めた。
その頃。
総一がまさにベルガの拠点へ続く糸を掴みかけていることを、ここにいる者たちはまだ知らなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は久しぶりに魔王軍側からのお話でした。
ビジュールで動いていたベルガも四天王の一人。そして魔王軍全体でレベルストーンを集めていることも分かってきました。
さらに、ダグラスとベルガの間で名前が挙がった田端総一。
本人の知らないところで、どうやら魔王軍からも少しずつ警戒される存在になっているようです。
そして久しぶりに登場した薫。
総一はまだ彼女の居場所を知りません。
果たして総一が掴みかけている手掛かりは、薫のもとまでつながっていくのでしょうか。
次回もよろしくお願いします!




