第31話 追いついた男
モネのあとを追う、怪しい男たち。
嫌な予感を覚えた総一は、急いで彼女のもとへ向かいます。
果たして男たちの目的は何なのか。
そしてモネが持っているという透明な石は、本当にレベルストーンなのか。
今回もよろしくお願いします!
モネが自宅へ戻った頃には、ビジュールの街もすっかり夜に包まれていた。
昼間は宝石商や貴族たちで賑わう通りも、この時間になると人影は少ない。街灯の魔石が等間隔に並び、白い石造りの建物を淡く照らしている。
モネの家は、そんなビジュールの中でも比較的裕福な者たちが暮らす一角にあった。
二階建ての大きな屋敷で、さらに地下にも一階分の空間がある。
玄関を開けたモネは、そのまま中へ入った。
「ただいま……って、誰もいないんだけど」
一人で呟き、扉を閉める。
いつもの静かな家だった。
けれど今夜は、のんびりしている暇はない。
「確か、まだ残してたはずなのよね」
モネは灯りを手にすると、廊下の奥にある階段へ向かった。
地下へ降りた先には、頑丈な扉がある。
鍵を開け、中へ入る。
壁一面に棚が並び、その上には大小さまざまな箱が置かれていた。
中に入っているのは宝石だけではない。
変わった色をした鉱石や、奇妙な模様の入った石。売るつもりもないのに、気になって買ってしまったものまである。
モネが長年かけて集めてきた個人的なコレクションだった。
「どこだったかしら……」
記憶を頼りに棚を探していく。
かなり前に手に入れたものだ。
透明度が高く、傷もほとんどない。
売ろうと思えば、それなりの値段になったはずだった。
それでも、なぜか手放す気になれなかった。
宝石として扱っていいものなのか、自分でも判断できなかったからだ。
「この辺だったと思うんだけど」
いくつか箱を開け、違うと分かれば元へ戻す。
やがて棚の奥から、小さな木箱を見つけた。
「あった」
蓋を開ける。
布の上に、一つの透明な石が置かれていた。
モネはそれを手に取った。
「これが本当にレベルストーンだったら……」
そのときだった。
ドンッ!
頭上から大きな音が響いた。
「……何?」
モネが天井を見上げる。
何か重いものを叩きつけたような音だった。
続いて、かすかに物が倒れる音が聞こえる。
モネの表情が変わった。
透明石を握ったまま保管部屋を出ると、地下から一階へ続く階段を上がっていく。
そして一階へ顔を出したところで、足を止めた。
玄関の扉が壊されている。
その前に、見知らぬ男が二人立っていた。
「……誰?」
二人の視線が、一斉にモネへ向く。
そのうち一人が、彼女の手元を見た。
「それだ」
「え?」
「その石を渡せ」
モネは透明石を握りしめた。
「人の家の扉を壊しておいて、ずいぶんなお願いね」
「渡せば危害は加えない」
「信用できると思う?」
男たちの表情が険しくなる。
モネは少しずつ後ろへ下がった。
相手は二人。
逃げるなら地下ではなく、二階か裏口。
だが、その前に男の一人が動いた。
距離が一気に縮まる。
「っ!」
モネが身を引いた、そのときだった。
「そこまでにしとけ」
男の動きが止まった。
壊れた玄関の向こうに、一人の男が立っていた。
「総一……?」
「間に合ったみたいだな」
総一は家の中へ入ると、モネを見た。
「怪我は?」
「ないけど……どうしてここに?」
「その話はあとだ」
総一の視線が男たちへ移る。
「とりあえず、そいつら片付ける」
一人の男が腰から短剣を抜いた。
だが、総一は気にした様子もなく近づいていく。
「来るな!」
短剣が振り上げられる。
総一が拳を握った。
その瞬間。
「総一!」
モネの声が飛んだ。
背後から別の男が飛び込んできた。
店に残り、総一たちを監視していた三人目だった。
短剣が総一の背中を狙う。
総一は振り返らなかった。
身体をわずかに横へずらす。
刃が服のすぐ脇を通り過ぎた。
「危ねえな」
「なっ……」
振り向きざまの拳が男の腹へ入った。
「ぐっ!」
男の身体が浮き、そのまま床へ転がる。
一撃だった。
総一はすぐに前を向く。
「三人いたのか」
最初から家にいた二人の表情が変わった。
一瞬で仲間を倒された。
それでも一人が総一へ向かってくる。
拳が振り抜かれる。
総一はそれを片手で受け止めた。
「悪いな」
軽く引き寄せる。
体勢を崩した男の腹へ拳を入れた。
男は声を上げる間もなく床に崩れ落ちた。
残った一人が後ずさる。
総一がそちらを見る。
「あと一人だな」
男の顔が引きつった。
勝てない。
そう判断したのだろう。
次の瞬間、男は総一ではなくモネへ向かった。
「きゃっ!」
モネの身体を背後から抱え込み、短剣を首元へ突きつける。
「動くな!」
総一の足が止まった。
「動けば、この女を殺す!」
モネの顔から血の気が引く。
総一は黙って男を見た。
先ほどまでの軽い雰囲気が消えている。
「……それ、やめた方がいいぞ」
「黙れ!」
「俺を狙うのは好きにしろ」
総一の声が低くなる。
「でも、その女を傷つけるのはやめとけ」
「そこを動くな!」
男は短剣をモネの首元へ押しつけたまま、じりじりと後ろへ下がっていく。
「俺たちはこの女を連れていく。追ってくれば殺す」
総一の目が細くなる。
「……連れていかせると思うか?」
「動くなと言っている!」
男の意識が総一へ集中する。
その瞬間だった。
総一の気配が、消えた。
「……な?」
男が目を見開く。
総一は目の前にいる。
いるはずなのに、意識から抜け落ちたような奇妙な感覚。
男の注意が一瞬だけ乱れた。
それで十分だった。
総一の姿が消える。
次の瞬間には、モネの横にいた。
「遅い」
短剣を持つ手首を掴む。
「ぐっ!」
男の手から短剣が落ちた。
総一はモネを自分の方へ引き寄せると、そのまま男の腹へ拳を叩き込んだ。
男が崩れ落ちる。
「……終わり」
総一は息一つ乱していなかった。
腕の中にいたモネが、ゆっくり顔を上げる。
「怪我してないか?」
「……大丈夫」
「ならよかった」
モネはしばらく総一を見つめていた。
「総一」
「ん?」
「……ありがと」
いつものからかうような調子ではなかった。
総一も少しだけ笑う。
「どういたしまして」
そのとき、床に倒れていた男の身体が淡い光に包まれた。
「なに……?」
モネが振り返る。
男の肌の色が変わっていく。
顔立ちも、人間とは違うものへと変化した。
他の二人も同じだった。
「魔族か」
総一が呟く。
どうやら気を失ったことで、変身魔法を維持できなくなったらしい。
三人とも息はある。
総一が加減したため、気絶しているだけだった。
ほどなくして、シンたちも屋敷へ到着した。
「総一さん!」
シンが壊れた玄関から飛び込んでくる。
その後ろからサリー、ナバル、マリンも続いた。
「遅かったな」
「総一さんが速すぎるんですよ」
サリーが倒れている魔族を確認する。
「三人とも生きています。気を失っているだけです」
「一応、加減したからな」
マリンが倒れている三人を見た。
「これで加減なのね……」
「死んでないだろ」
「そういう問題なの?」
ナバルは倒れていた短剣を拾い、三人を順番に見た。
「話は起きてから聞けばいい。今は縛っておいて」
シンも頷き、三人を拘束する。
衛兵にはあとで引き渡すことになった。
そこでマリンがモネの手元を見た。
「それが言ってた石?」
「ええ」
モネは透明石を差し出した。
「たぶん、これだと思う」
マリンが受け取る。
全員の視線が集まった。
マリンは目を閉じると、指先から慎重に魔力を送り込んでいく。
大量の魔力を、ただ流すのではない。
一点へ集め、石の中心へ。
しばらく何も起こらなかった。
やがて。
透明な石の内部に、小さな光が灯った。
「……本物よ」
マリンが目を開ける。
「レベルストーン。間違いない」
「これが……?」
モネは驚いたように石を見る。
長い間、自宅の地下で眠っていた石。
それが魔族たちの狙っているものだったとは思いもしなかった。
総一が石を見る。
「これで四つか」
「ええ。これだけあれば、あの結界を破れると思う」
マリンが答えた。
モネは少し考えてから、石を総一へ差し出した。
「持っていって」
「いいのか?」
「必要なんでしょ?」
「かなり価値があるかもしれないぞ」
モネは壊された玄関と、床に転がっている魔族たちを見た。
それから総一へ視線を戻す。
「これを持ってたせいで殺されかけたのよ。それに……」
少しだけ笑う。
「命を助けてもらった代金だと思えば、安いでしょ」
「俺、そんなに高い男だったのか」
「調子に乗らないで」
いつものモネに戻った。
総一は笑いながら、石を受け取った。
マリンが集めた二つ。
ダイアから総一が手に入れた一つ。
そして、モネが持っていた一つ。
これで四つ。
ベルガたちのものと思われる拠点を守る、強力な結界。
その壁を打ち破るための準備が、ついに整った。
最後までお読みいただきありがとうございます!
モネを襲った男たちの正体は、やはり変身魔法を使った魔族でした。
そして何より大きいのが、モネの持っていた透明な石。
長い間、地下で眠っていた石は本物のレベルストーンでした。
これで総一たちの手元には四つ。
マリンでも破れなかった強力な結界を突破するための準備が、ついに整いました。
いよいよ、結界の向こう側へ。
次回もよろしくお願いします!




