第28話 それぞれの目的
マリンの家で見つけた、見覚えのある透明な石。
総一が追い続けてきた手掛かりは、思わぬ場所へとつながりました。
謎の多かったマリンは、いったい何を知っているのか。
そして、彼女が透明な石を集めていた理由とは。
今回もよろしくお願いします!
「これ……レベルストーンじゃないのか?」
総一が指差した先を見て、マリンの表情が変わった。
机の上にはいくつもの透明な石が置かれている。その中でも、二つだけは柔らかな布の上に並べられ、他の石とは明らかに扱いが違っていた。
マリンは石を隠そうとはしなかった。ただ、総一を見る目にわずかな警戒が混じる。
「……あなた、どうしてその名前を知ってるの?」
「レベルストーンのことか?」
「そうよ。人間の間では、ほとんど知られていない名前のはずなんだけど」
後ろにいたシンとサリーも顔を見合わせる。
総一は机から手を離し、何でもないことのように答えた。
「ダイアって魔族から聞いたんだ」
「魔族?」
「前にちょっと揉めてな。そいつが教えてくれたんだ。魔王軍がこの石を大量に集めてるって」
マリンの眉がわずかに動いた。
「それなら名前を知っていても不思議じゃないわね」
「そんなに珍しいもんなのか?」
「石も珍しいけど、名前を知っている人間はもっと珍しいわ」
マリンは机の上から一つを取り上げた。
陽の光を透かして見れば、上質な水晶か宝石にしか見えない。ビジュールの店先で何度も見てきた透明な石と、総一には違いが分からなかった。
「俺には普通の石にしか見えないけどな」
「それが普通よ。見ただけで判別するのは難しいもの」
マリンは石を指先で挟むと、目を細めた。
しばらく何も起こらない。
だが次の瞬間、透明な石の中心に小さな光が灯った。
「おお」
総一が身を乗り出す。
光は石の内側だけで静かに揺らめいていた。
「レベルストーンは普通の魔石とは違うの。魔力を流せば反応する、なんて単純なものじゃない。かなりの魔力を一か所に集めて、石の中心へ正確に送り込まないと反応しないのよ」
「難しいんですか?」
シンが尋ねると、マリンは石から魔力を抜いた。光がすっと消える。
「普通の魔法使いにはまず無理ね。魔力の量だけじゃなくて、細かく制御する技術も必要だから。できるとしたら、高位の魔族か、かなり魔法に長けたエルフくらいじゃない?」
「だから人間は、これが魔石だと気づかなかったんですね」
サリーが納得したように石を覗き込む。
「そういうこと。人間が魔力を流しても反応しない。だからただの透明な宝石だと思われてるの」
総一は感心しながら聞いていたが、ふと自分を指差した。
「ちなみに俺、魔力ゼロなんだけど」
「……は?」
「ゼロ」
マリンが固まった。それから確認するようにシンを見る。
「本当?」
「本当です」
「じゃあ、あなた絶対に使えないじゃない」
「やっぱり?」
「やっぱりじゃないわよ」
マリンが呆れた顔をする。
総一は肩をすくめたところで、ふと思い出した。
「そういや、俺も一個持ってたな」
「何を?」
「レベルストーン」
今度こそマリンの目が大きくなった。
「持ってるの?」
「ダイアからもらった」
「ちょっと見せて」
急に距離を詰められ、総一は一歩のけぞった。
「近い近い。美人に迫られるのは嬉しいけど」
「いいから出して」
「はいはい」
総一は荷物を探り、布に包んでいた透明な石を取り出した。
ライラックを発つ前、ダイアが逃げ際に投げ渡してきた石だ。本物だと言われて受け取ったものの、魔力を持たない総一には確かめる方法がなかった。
マリンは石を受け取ると、すぐに意識を集中させた。
やがて、透明な石の中心に先ほどと同じ光が灯る。
「……本物ね」
「やっぱり嘘じゃなかったか」
「これ、どうやって手に入れたの?」
「だからダイアにもらった」
「どうして魔族があなたにレベルストーンをくれるのよ」
「俺が捕まえたから」
「……捕まえた?」
「情報を聞こうとしたら、こいつを投げてきてな。受け取った隙に煙幕を張って逃げた」
マリンはしばらく黙って総一を見た。
「あなたと話してると、魔族との関係がよく分からなくなるわ」
「俺も仲良くしてるつもりはないぞ」
横でシンが苦笑している。
マリンは手の中の石と、机の上の二つを見比べた。
「私は半年かけてやっと二つ見つけたのに……」
「大変だったな」
「あなたは?」
「もらった」
「……なんか腹立つ」
「なんでだよ」
サリーが口元を押さえて笑った。
マリンは石を総一へ返すと、机の端に腰を預けた。
「それで? 魔王軍がレベルストーンを集めているから、あなたたちも探してるってこと?」
総一の顔から、ふっと軽さが消えた。
「俺は攫われた相棒を探してる」
マリンが黙って続きを待つ。
「薫っていう女だ。俺と一緒にこの世界へ来たんだけど、どうやら普通じゃない回復の力を持ってるらしい」
「その人が攫われたの?」
「目の前でな。連れていったのは魔王ダグラスだ」
マリンの表情が変わった。
「……魔王本人が?」
「シンの話じゃ、間違いないらしい」
マリンの視線がシンへ向かう。
「僕も魔王本人を見たことはありませんでした。ただ、あのとき感じた魔力は、王国に伝わっている魔王の情報と一致します。まず間違いないと思います」
部屋から先ほどまでの軽い空気が消えた。
総一は手の中に戻ってきた透明な石へ目を落とす。
「魔王が薫を連れていって何をするつもりなのかは分からない。ただ、そのあとで魔王軍がレベルストーンを大量に集めてるって聞いた。関係があるかどうかは分からねえが、追える手掛かりがこれしかないなら追う」
「……それでビジュールまで来たのね」
「そういうことだ」
マリンは少し考え込んだあと、机の上の二つの石へ視線を落とした。
「私の場合はもっと単純よ」
「何に使うんだ?」
「あいつらを追い出すため」
「あいつら?」
「半年くらい前から、この山の近くに妙な連中が住み着いたの。それから魔物が増え始めた。最初は放っておいたんだけど、最近は森の奥まで荒らされるようになってきた」
総一は今朝の光景を思い出した。
種類の違う魔物が、異常な数で集まっていた。
「今日の奴らもか?」
「あんな数は今回が初めて。明らかにおかしいわ」
「それでレベルストーンを集めてる?」
「私一人の魔力じゃ足りないからね」
マリンは窓の向こうに見える山へ目を向けた。
「あの連中の拠点を、跡形もなく消すつもり」
シンの顔が引きつる。
「拠点ごとですか?」
「その方が早いでしょ?」
「お前、見た目より物騒だな」
「半年も家の近くで好き勝手されたら腹も立つわよ」
総一は苦笑しながら腰のギルドカードに触れた。
そのとき、何気なく表示された文字が目に入り、眉を寄せる。
「……ん?」
「どうしました?」
「俺、レベル上がってる」
シンが呆れたように総一を見た。
「いつからです?」
「知らんけど」
「普通、確認しません?」
「忘れてた」
カードには相変わらず、筋力、体力、敏捷の欄に《ERROR》が並んでいる。
その下に、以前はなかった文字が増えていた。
《追跡 Lv1》
マリンが横から覗き込み、まず別の場所で目を止めた。
「……ERROR?」
「壊れてるらしい」
「三箇所も?」
「俺に聞くなよ」
マリンは何か言いたそうだったが、結局カードから顔を上げた。
総一は新しく増えた《追跡》の文字を指でなぞる。
そして窓の向こう、深い森に覆われた山へ目を向けた。
「ちょうどいいな」
「何が?」
マリンの問いに、総一は口元をわずかに上げた。
「そいつらのところまで、跡を辿ってみるか」
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回はレベルストーンについて、かなり重要なことが分かりました。
半年かけて二つを見つけたマリンに対して、魔族から一つもらっていた総一。
そりゃ「なんか腹立つ」と言いたくもなります(笑)
そして、マリンがレベルストーンを集めていた理由も判明。
どうやら総一たちが追っている相手と、マリンが追い出したい相手は無関係ではなさそうです。
さらに総一には、新しく《追跡 Lv1》が追加されていました。
探偵だった総一には、なんとも似合いすぎるスキル。
次回、いよいよ山に潜む者たちの痕跡を追います。
引き続きよろしくお願いします!




