第27話 炎の向こうの女
集めた情報を頼りに、ビジュール北西の山へ向かう総一たち。
これまで別々に見えていた手掛かりが重なった場所。
果たして山の奥には何があるのか。
総一たちは、さらに調査を進めていきます。
今回もよろしくお願いします!
翌朝、総一たちは馬車でビジュールの北門を出た。
御者台にはナバルが座り、その隣には総一がいる。荷台にはシンとサリー。昨日、御者仲間から聞き出した道を確かめながら、馬車は北西へ向かっていた。
街を離れるにつれて建物は減り、やがて窓の外を流れる景色は畑から深い緑へと変わっていく。
「もうすぐだ」
手綱を握ったナバルが前方を見た。
「仲間が荷物を運んだのは、この先の山の手前らしい」
「そこから先は?」
「知らん。荷物を降ろしたら帰れって言われたそうだ」
「それは怪しいですね」
荷台からシンが顔を出す。
「怪しいから来たんだろ」
「それもそうですね」
しばらく進んだところで、ナバルが馬車を止めた。
道はそこで細くなり、その先には木々の生い茂る山が広がっている。
総一たちは馬車を降りた。
「ここだな」
ナバルが地面を指す。
土の上には古い轍が残っていた。かなり薄くなっているが、何度も馬車が入った形跡がある。
総一はしゃがみ込み、その跡を見る。
「向こうに続いてるな」
「分かるんですか?」
「まあ、昔こういうのを追う仕事もしてたからな」
総一は立ち上がると、山へ目を向けた。
「まあとにかく行ってみよう」
四人は徒歩で山へ入った。
木々が陽射しを遮り、空気が一気に冷たくなる。湿った土と草の匂いが鼻をかすめ、遠くから鳥の声が聞こえていた。
しばらくは何も起こらなかった。
轍は途中で消えていたが、人が荷物を運んだような跡がところどころ残っている。
その時、先頭を歩いていたシンが足を止めた。
「待ってください」
剣の柄に手をかける。
茂みが揺れた。
一頭の狼型の魔物が姿を現す。
続いて二頭、三頭。
「魔物です」
「このくらいなら俺がやります」
シンが剣を抜いた。
飛びかかってきた一頭をかわし、横薙ぎの一撃を叩き込む。返す剣でもう一頭を斬り、最後の一頭へ左手を向けた。
火球が走る。
魔物が地面へ転がった。
「やるじゃん、勇者」
「これくらいはやらせてください」
シンが剣についた血を払う。
総一が倒れた魔物へ近づこうとした時だった。
再び茂みが揺れた。
「まだいるみたいですね」
サリーが杖を握る。
今度は狼だけではなかった。
猪のような魔物が木々の間から現れ、その後ろにはゴブリンらしき小型の魔物もいる。
さらに奥でも枝の折れる音が続いていた。
シンの表情が変わる。
「おかしい……」
「何が?」
「種類が違います。普通、こんな魔物たちが一緒に群れることはありません」
言っている間にも数が増えていく。
十体。
二十体。
その奥にもまだいる。
「話は後だ!」
ナバルが剣を抜いた。
魔物の群れが一斉に動いた。
シンが正面から飛び込む。剣を振り抜いてゴブリンを倒し、迫る猪型の魔物を魔法で弾き飛ばした。
ナバルもサリーの前へ立ち、近づいてくる魔物を次々と斬っていく。
総一の横から狼型の魔物が飛びかかった。
「邪魔だ」
拳が顔面を捉える。
ドンッ!
魔物の身体が吹き飛び、後方の木へ叩きつけられた。
さらに二体。
総一は一頭の首を掴んで地面へ叩きつけ、そのまま振り返ってもう一頭を蹴り飛ばす。
一体一体は問題にならない。
だが、倒した先から次が来る。
「総一さん、右!」
シンの声に反応して振り向く。
三体。
総一が一体を殴り飛ばしている間に、残り二体が左右へ散った。
「ちっ」
片方を追い、蹴り倒す。
もう一体はサリーへ向かっていた。
「サリー!」
シンが割って入り、剣で受け止める。
総一は周囲を見回した。
まだ増えている。
いくら殴っても終わらない。
総一には剣もなければ魔法もない。一対一ならどんな魔物が来ようと怖くないが、腕は二本しかなかった。
「総一! まだ来るぞ!」
ナバルが叫ぶ。
「見りゃ分かる!」
斜面の上から新たな魔物の群れが姿を現した。
数える気にもならない。
シンの呼吸も少しずつ荒くなっている。ナバルの額には汗が浮かび、サリーも回復と援護を繰り返していた。
総一は迫ってきた魔物を殴り飛ばし、舌打ちする。
「……キリがねえな」
その時だった。
「全員、そこから離れて!」
女の声が山に響いた。
総一が顔を上げる。
「下がれ!」
シンたちが反応して後退する。
直後、頭上に光が広がった。
「なっ……」
シンが息を呑む。
木々のさらに上。
巨大な赤い魔法陣が空を覆っていた。
空気が急激に熱を帯びる。
魔物たちが一斉に騒ぎ始めた。
次の瞬間。
轟ッ!
炎が山肌を走った。
総一は腕で顔を庇う。熱風が髪を揺らし、視界が真っ赤に染まった。
炎は無秩序に森を焼いているわけではない。
まるで意思を持っているかのように魔物の群れだけを飲み込み、木々の間を駆け抜けていく。
数十体いた魔物が次々と倒れていった。
やがて炎が消える。
さっきまでの騒ぎが嘘のように静かになった。
「……何ですか、今の」
シンが呆然としている。
「俺に聞くなよ。魔法使えないんだから」
総一は炎が飛んできた方向へ目を向けた。
木々の間から、一人の女が歩いてくる。
長い髪が風に揺れている。
そして何より目を引いたのは、人間とは明らかに違う長い耳だった。
総一は女の顔をじっと見た。
「……マリン?」
女の足が止まる。
「なんで分かるの?」
「なんとなく」
「今まで全部違う姿だったのに?」
総一は改めてマリンを眺めた。
そして素直に感想を口にする。
「今の方が美人じゃねえか」
「……今それ言う?」
マリンが呆れたように眉を寄せた。
「総一さん、この方がマリンさんですか?」
シンが恐る恐る尋ねる。
「たぶん」
「たぶんって何よ」
マリンの目が細くなる。
張りつめていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。
しかしマリンはすぐに周囲を見渡した。
「それにしても……おかしい」
「やっぱり?」
「こんな数の魔物、この辺りにはいなかった」
マリンの表情から笑みが消える。
「ここ、私の家の近くなの」
総一が反応した。
「家?」
「ここじゃ落ち着いて話せないわ。ついてきて」
マリンは山の奥へ歩き出した。
四人は顔を見合わせ、その後を追う。
しばらく進むと、マリンが何もない森の前で立ち止まった。
片手を上げる。
空間が水面のように揺れた。
「入って」
総一がそこを抜けると、景色が一変した。
森の中にぽっかりと開けた空間があり、その奥には古い石造りの家が建っている。周囲には見たことのない草花が育ち、壁には蔦が絡んでいた。
「すごい……」
サリーが小さく声を漏らす。
家の中へ入ったシンも言葉を失った。
壁一面を埋める本棚。
古びた魔導書や見たことのない魔法道具が所狭しと並んでいる。
「マリンさん、あなたはいったい……」
「その話は後でいいでしょ」
マリンが答えた時、総一は部屋の隅に置かれた机へ目を留めた。
「……ん?」
透明な石が置かれている。
ビジュールで何度も見てきた透明な宝石。
だが、その中に一つだけ、妙に目を引く石があった。
総一が近づく。
「マリン」
「なに?」
総一は石から目を離さなかった。
「これ……」
マリンの表情が変わった。
「レベルストーンじゃないのか?」
最後までお読みいただきありがとうございます!
ついに姿を見せたマリンの本来の姿。
変身魔法を使っていた彼女ですが、どうやらまだまだ秘密を抱えていそうです。
そして最後に見つけたのは、総一が探し続けていたレベルストーンらしき石。
なぜマリンが持っているのか。
彼女は何のためにレベルストーンを集めているのか。
ここから、マリンが隠していた事情も少しずつ明らかになっていきます。
次回もよろしくお願いします!




