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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第二章 宝石の街と透明な石

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第25話 また会ったな

あれから二日。


透明な石について調べ続ける総一ですが、大きな手掛かりは掴めないまま。


そんな中、宝石街を歩いていた総一は、ふと一人の女性に目を留めます。


何かが引っかかる。


探偵だった総一の目が、思わぬところで働き始めます。


今回もよろしくお願いします!

二日後。


 総一は一人でビジュールの宝石街を歩いていた。


 朝から何軒か店を回り、透明な石について話を聞いている。


 あれから目立った動きはない。


 ベルガという名すら、総一はまだ知らない。


 ただ、採掘場に魔物を送り込んだ者と、透明な石を大量に買い集めている者がつながっている可能性は高いと見ていた。


 そして、もう一人。


 二日前に出会った謎の女。


 大量に買い漁る者とは違い、透明な石を一つずつ確かめるように選んでいた。


「結局、名前も分からなかったな」


 総一はそんなことを呟きながら、通りを歩く。


 石の目的も気になる。


 正体も気になる。


 それ以上に、かなりの美人だった。


「もう一回くらい会えないもんかね」


 不純な理由が少し混ざっていることについては、本人も否定する気はなかった。


 そんなことを考えながら、一軒の宝石店の前を通り過ぎた時だった。


 中から一人の女性が出てくる。


 総一は何気なく視線を向け、そのまま数歩進んだ。


 若い女だった。


 二十代前半くらいに見える。


 濃い栗色の髪を肩ほどで切り揃え、背はそれほど高くない。二日前に会った女とは顔立ちも体格もまるで違う。


 当然、別人。


 そのはずだった。


 総一の足が止まった。


「……ん?」


 振り返る。


 女は総一に気づく様子もなく、人混みの中を歩いていく。


 歩幅は小さい。


 けれど、足を運ぶ時の重心の置き方。


 店の前を通る際、一瞬だけ中を見る癖。


 人とすれ違う直前に、わずかに肩を引く動き。


 どこかで見た。


 総一は少し早足になった。


 女との距離を詰める。


 そして横を通り過ぎた瞬間、微かに甘い香りが鼻をかすめた。


 総一の口元が緩む。


「また会ったな」


 女の足が止まった。


 ゆっくりとこちらを見る。


「……私ですか?」


「他に誰がいるんだよ」


「人違いじゃないですか?」


「二日前はもうちょっと背が高かったよな」


 女の表情は変わらない。


「何の話でしょう」


「髪も長かった。顔も違ったし、年も少し上に見えた」


「それなら、完全に別人ですね」


「そうなんだよなあ」


 総一は腕を組み、わざと困ったような顔をした。


「でも匂いは同じなんだよ」


「……匂い?」


 初めて女の表情が崩れた。


「あなた、女性の匂いを覚えてるんですか?」


「特徴を覚えるのは得意なんだ」


「気持ち悪い」


「そんな真顔で言う?」


 女が呆れたように総一を見る。


 その反応を見て、総一は確信した。


「やっぱりあんただ」


「何を根拠に?」


「歩き方。それと、人とすれ違う時に左肩を引く。店を見る時もちょっとだけ首を傾けるだろ」


 女の目がわずかに細くなった。


「あと匂い」


「それはもういい」


 冷たく切られた。


 総一は笑う。


 これまで人間の姿を変える魔族を見たことはある。


 だから変身魔法そのものに驚きはない。


 ただ、この女が魔族なのかどうかは分からない。


 少なくとも、二日前に透明な石を大量に買っていた連中とは動き方が違う。


「それで?」


 女が聞いた。


「私だと分かったから何?」


「飯でも食わない?」


「……どうしてそうなるの?」


 今度こそ、女は完全に呆れた顔になった。


「聞きたいこともあるし」


「それが本当の目的でしょ」


「美人と飯を食いたいのも本当」


「両方言わなくていいから」


     ◇


 しばらくして。


 二人は通りから少し外れた食堂にいた。


 昼前ということもあり、店内にはまだ空席が多い。


 女は総一の向かいに座り、出された水を一口飲んだ。


「あなた、警戒心ないの?」


「あるよ」


「変身魔法を使う正体不明の女と二人で食事してるのに?」


「でも美人だし」


「それは警戒心がないって言うの」


 総一は料理を注文してから、改めて女を見る。


 今目の前にある顔も本物ではない。


 そう思うと妙な感じだった。


「名前くらい教えてよ」


「どうして?」


「二回会ったんだから、そろそろ知り合いだろ」


「勝手に知り合いにしないで」


「俺は総一」


「知ってる」


 総一が少し笑った。


「覚えてたんじゃん」


「忘れたかったけどね」


 女は少し黙ったあと、諦めたように息を吐く。


「……マリン」


「マリンか」


「名前だけだから。それ以上は聞かないで」


「じゃあ年齢は?」


「聞かないでって言った直後よね?」


「気になった」


「女性に年齢を聞く?」


「見た目じゃ分からないからな」


 マリンの目が一瞬だけ鋭くなった。


「……あなた、本当に変なところだけ勘がいいわね」


 総一には、その言葉の意味までは分からなかった。


 やがて料理が運ばれてくる。


 二人が食べ始めて少ししたところで、総一は本題へ入った。


「透明な石、何で探してる?」


「言わない」


「即答かよ」


「あなたは?」


 返される。


 総一は少しだけ考えた。


「人を助けるため」


 マリンの手が止まった。


 それまでの軽い空気が、ほんの少し変わる。


「誰かが病気なの?」


「そんなところかな」


 薫が攫われたことまで話す必要はない。


 レベルストーンが薫を取り戻すための手掛かりになるかもしれない。


 今はそれで十分だった。


「だから、俺はあの石が欲しい」


 総一の声から、先ほどまでの軽さが消えていた。


 マリンはしばらく彼の顔を見る。


「……じゃあ、私たち競争相手ね」


「やっぱりマリンも探してるんだな」


「今ので聞き出したつもり?」


「半分くらい」


「本当に嫌な人」


 そう言いながらも、マリンは少し笑っていた。


「次に見つけても譲らないから」


「美人には弱いんだけどな」


「じゃあ譲って」


「それは無理」


 迷いのない返事だった。


 マリンが目を瞬く。


「即答なんだ」


「人の命がかかってるからな」


 総一は料理へ視線を戻した。


 マリンは何も言わなかった。


 ただ、先ほどまでとは少し違う目で総一を見ていた。


     ◇


 食事を終え、二人は店の前で別れた。


「じゃあな、マリン」


「もう会わないと思うけど」


「二日前も聞いた気がするな、それ」


 マリンが小さく肩をすくめる。


「次は見つからないようにする」


「楽しみにしてる」


「普通は諦めるところでしょう?」


「美女を見つけるのは得意なんだ」


「それ、絶対に昔の仕事と関係ないでしょ」


 マリンは呆れながら歩き出した。


 総一はその背中を見送る。


 名前は分かった。


 透明な石を探していることも分かった。


 だが、それだけだ。


 なぜ変身しているのか。


 何のために石が必要なのか。


 まだ何も分かっていない。


「マリン、ねえ……」


 総一は小さく呟き、宿へ戻るため歩き出した。


 その背後。


 人混みの向こうから、一人の男が総一を見ていた。


 薄い外套を着た、ごく普通の商人風の男。


 総一が歩き出すと、男も静かに動き始める。


     ◇


「女?」


 薄暗い部屋で、ベルガが低い声を出した。


 報告に来た魔族が膝をついている。


「はい。総一が宝石店の近くで接触しました」


「仲間か?」


「分かりません。ただ、その後二人で食事をしています」


 ベルガは巨大な腕を組んだ。


「女は何をしていた?」


「宝石店へ出入りしていました。確認したところ、透明な石を見ていたようです」


 その言葉で、ベルガの視線が変わった。


「透明な石を?」


「はい」


 総一たちとは別に、自分たちと同じものを探している者がいる。


 偶然とは考えにくい。


「女の素性は?」


「まだ掴めておりません」


「調べろ」


 短い命令が落ちる。


「総一だけではない」


 ベルガはゆっくりと顔を上げた。


「あの女も監視しろ」


 それまで誰にも知られず動いていたマリンの存在が、この日初めてベルガの目に留まった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


謎の女性の名前が、ようやく「マリン」だと分かりました。


姿を変えても歩き方や仕草、さらには匂いまで覚えていた総一。


探偵として鋭いのか、女好きが極まっているのか……たぶん両方です(笑)


そしてマリンも、何らかの目的で透明な石を探していることが分かりました。


一方で、そんな彼女の存在はベルガにも知られることに。


総一、マリン、そしてベルガ。


透明な石を巡るそれぞれの動きが、少しずつ交わり始めています。


次回もよろしくお願いします!

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