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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第二章 宝石の街と透明な石

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第24話 透明な石を選ぶ女

透明な石を探している者は、一人ではない。


そう考えた総一は、今度は自分から仕掛けることにします。


探偵らしく、地道な張り込みから始める総一。


果たして、透明な石を求めている人物は現れるのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

翌日。


 総一は朝から、モネの知り合いが営む宝石店の二階にいた。


 窓際の椅子に座り、通りの向かい側を眺めている。


 テーブルには冷めかけた茶。


 その隣では、モネが頬杖をついていた。


「張り込みって、もっと面白いものかと思ってたわ」


「現実はこんなもんだよ」


「ずっと店を見てるだけなの?」


「基本はな」


「地味ね」


「派手な張り込みなんて聞いたことない」


 総一は窓から視線を外さない。


 昨日、透明な石を買い集めている人間が複数いることが分かった。


 しかも、半年ほど前から動いている者と、最近になって大量に買っている者では、どうも動き方が違う。


 そこで総一はモネに頼み、何軒かの宝石店へ情報を流してもらった。


 透明度の高い石がまとまって入荷した。


 ただ、それだけ。


 餌としては十分だ。


「本当に来ると思う?」


「来なかったら飯でも食いに行こう」


「それが目的じゃないでしょうね?」


「半分くらい」


「半分もあるんだ」


 モネが呆れたように笑う。


 その時だった。


「来たぞ」


 総一の声が低くなる。


 店の前に一人の男が立った。


 四十代くらい。


 恰幅がよく、上等な服を着ている。商人というより、裕福な地主か貴族の使用人にも見えた。


 男は左右を一度確認してから店へ入る。


 モネも窓へ近づいた。


「あの人?」


「まだ分からん」


 二人はしばらく待った。


 やがて店主が二階へ上がってくる。


「買ったぞ」


「何を?」


 モネが聞く。


「透明な宝石を全部だ。多少傷があるやつもな」


「値段は?」


「ほとんど交渉しなかった」


 総一が立ち上がる。


「追う」


「私も?」


「モネはここにいて」


「あら、珍しくまともね」


「美女を走らせる趣味はない」


「やっぱりいつも通りだった」


     ◇


 男は人通りの多い大通りを歩いていた。


 総一は十分に距離を取り、その後ろを追う。


 相手は時々立ち止まり、店先の商品を見る。


 だが総一の目は顔を見ていなかった。


 歩幅。


 右肩のわずかな下がり方。


 曲がり角へ入る直前に、必ず一度だけ後ろを確認する癖。


 そして荷物を持つのは左手。


「警戒してるな」


 小さく呟く。


 男はやがて細い路地へ入った。


 総一も少し間を空けて角を曲がる。


 いない。


「……早いな」


 路地は一本道だった。


 横道もない。


 建物へ入った気配もない。


 その代わり、向こう側から若い男が一人歩いてくる。


 二十代くらい。


 細身。


 髪も服装も、先ほどの中年男とはまるで違った。


 総一は何気ない顔で横を通り過ぎる。


 そして数歩進んだところで止まった。


「そういうことか」


 振り返る。


 若い男はもう大通りへ出ようとしている。


 歩幅。


 右肩。


 曲がる前の視線。


 そして左手に荷物。


「ダイアと同じだな」


 変身魔法。


 ライラックでは、魔族が人間社会へ紛れ込むために使っていた。


 ならビジュールにも同じことをしている魔族がいても不思議ではない。


 総一は追わなかった。


 今ここで捕まえても、その先にいる者へは届かない。


 顔も姿も簡単に変えられる相手なら、なおさらだ。


「面倒な奴らだな」


     ◇


 店へ戻ると、モネが腕を組んで待っていた。


「どうだった?」


「逃げられた」


「総一が?」


「嬉しそうに言うな」


「ちょっと意外だっただけ」


 総一は椅子へ座る。


「たぶん変身魔法だ」


「変身?」


「ライラックでも魔族が使ってた。さっきの男、路地に入ったあと別人になって出てきた」


 モネの表情が変わった。


「魔族ってこと?」


「可能性は高い。でも決めつけるのはまだ早い」


「変身魔法って、人間でも使えるの?」


「俺に聞くなよ。こっちの魔法事情はまだ素人だ」


 その時、階下から店主の声がした。


「モネ!」


 二人が顔を上げる。


「また客だ!」


 総一とモネは窓際へ戻った。


 今度、店へ入ってきたのは若い女性だった。


 総一の目が止まる。


「……美人だな」


「総一」


「分かってる。仕事中」


「今の顔、完全に仕事じゃなかったけど」


 女性は二十代後半ほどに見えた。


 淡い茶色の髪。


 整った顔立ち。


 派手な服ではないが、立ち姿に品がある。


 総一は窓から身を少し乗り出した。


「さっきの奴とは違うな」


「顔が違うでしょう?」


「そこじゃない」


 総一は女性の手元を見る。


 先ほどの男は、透明な石ならまとめて買った。


 だが今度の女性は違う。


 一つ手に取る。


 光へかざす。


 戻す。


 次の石。


 それも戻す。


 何個も確認したあと、ようやく一つだけ横へ置いた。


「選んでる」


「宝石を買うなら普通じゃない?」


「普通ならな」


 総一の目が細くなる。


「でもあの女、傷とか大きさを見てない」


「じゃあ何を?」


「それが知りたい」


 総一は立ち上がった。


「行ってくる」


「また尾行?」


「聞き込み」


「その顔は?」


「美女に話しかける時の顔」


「やっぱり」


     ◇


 女性が店を出たところで、総一は後ろから声をかけた。


「ちょっといい?」


 女性が振り返る。


「……私?」


「他にこんな綺麗な人いないだろ」


 一瞬、女性が目を丸くした。


 すぐに冷静な表情へ戻る。


「そういう声のかけ方、いつもしてるの?」


「今日は初めて」


「今日は、なんだ」


「そこ拾う?」


「分かりやすいから」


 総一は笑った。


 受け答えが速い。


 モネとはまた違うタイプだ。


「俺は田端総一」


「聞いてないけど」


「これから聞こうとしてただろ?」


「全然」


「手厳しいな」


 女性は立ち去ろうとする。


「透明な石」


 総一が言った。


 女性の足がほんの少し止まった。


「探してるんじゃない?」


「宝石店にいたんだから、石くらい見るでしょ」


「透明な宝石だけ随分念入りだったけど」


 女性が振り返る。


「まさか、ずっと見てたの?」


「そりゃあ、あなたが美人だから」


「……最低」


「褒められた?」


「どう聞いたらそうなるの?」


 女性は呆れたように息を吐いた。


 だが総一を見る目は、さっきまでより少し鋭くなっていた。


「あなたこそ、透明な石を探してるんじゃない?」


「何で?」


「私を見てたなら、あなたも同じ店をずっと見てたでしょう?」


 今度は総一が少し驚く番だった。


「よくわかったね」


「あなたほどじゃないと思うけど」


 総一は笑う。


「名前くらい教えてよ」


「嫌」


「じゃあ次に会った時に聞く」


「もう会わないと思うけど」


「俺は会う気がするな」


 女性は一瞬だけ総一を見つめ、それから小さく笑った。


「変な人」


「よく言われる」


 そう言って女性は人混みへ消えていった。


 総一は少し距離を置き、あとを追う。


 角を曲がる。


 いない。


「……またかよ」


 通りには何人もの人間がいる。


 老人。


 商人。


 子供を連れた女性。


 どれが先ほどの美女なのか。


 あるいは、もうここにはいないのか。


 総一は周囲を見渡し、苦笑した。


「変身魔法って便利すぎるだろ」


     ◇


 その日の夜。


 人里から遠く離れた山中。


 一人の人物が小さな家へ入った。


 扉が閉まる。


 身体を覆っていた魔法が静かに解けていく。


 だが、その本来の姿を見せる者は誰もいない。


 机の上へ、今日買った透明な石が置かれた。


 指先から微かな魔力が流れる。


「……これも違うか」


 石は端へ置かれた。


 その隣。


 布の上には、ほとんど無色透明の石が二つだけ並んでいる。


 他の石とは、明らかに違う輝きを放っていた。


 窓の向こう。


 遠い山の一角へ視線が向く。


「あと少しなんだけど」


 静かな声が部屋に落ちる。


「揃ったら、あそこを消せるのに」


 夜の山には、その言葉を聞く者はいなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回は久しぶりに、総一の「探偵」としての部分を少し強めに描いてみました。


そして現れた、二つの異なる動きをする者たち。


特に気になるのは、透明な石を一つずつ確かめていた謎の女性です。


彼女が最後に口にした「あそこを消せる」という言葉。


いったい何を消そうとしているのか。


そして、彼女が集めている石は総一の探すレベルストーンと同じものなのか。


次回もよろしくお願いします!

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