第22話 罠か、手掛かりか
西に続き、北採掘場にも現れたブラックゴーレム。
偶然とは思えない状況に、総一も違和感を覚え始めます。
ビジュールの採掘場で、いったい何が起きているのか。
少しずつ異変の裏側が動き始めます。
今回もよろしくお願いします!
北採掘場にもブラックゴーレムが現れた。
その報告を受けた総一たちは、西採掘場の入口でしばらく動けずにいた。
夕方の風が山肌を抜け、砕かれた黒い石の粉を転がしていく。少し前まで戦闘の音が響いていた場所には、今は鉱夫たちのざわめきだけが残っていた。
「すぐ北へ向かいましょう」
シンが真っ先に言った。
剣を収めたばかりだというのに、その目にはもう次の戦いへ向かう覚悟がある。
ナバルも大盾を背負い直した。
「距離は?」
「ここからなら馬で急げば、それほどかからないはずよ」
モネが答える。
総一は返事をせず、地面に転がったブラックゴーレムの残骸を見下ろしていた。
西。
次は北。
同じ魔物。
偶然と考えるには出来すぎている。
「総一さん?」
サリーに呼ばれ、総一はようやく顔を上げた。
「北には行く。ただ、急いで全員で突っ込む必要はないかもな」
「どういうことです?」
「こいつらの目的が分からんからな」
総一は足元の黒い石を軽く蹴った。
「人を殺したいなら、採掘場で待ってる必要はない。街道でも街でも襲える」
シンの表情が変わる。
「つまり、採掘場そのものが狙われている?」
「たぶんな」
モネが腕を組んだ。
「でも、どうして?」
「それを今から調べるんだよ」
◇
その頃。
ビジュールから離れた山中。
岩山の裂け目を抜けた先に、人間には知られていない巨大な空間があった。
天然の洞窟を削って造られた広間には、青白い魔法灯が並び、その中央に巨大な影が座っている。
身長は三メートル近い。
薄紫色の肌。
頭髪はなく、太い首から肩にかけて岩のような筋肉が盛り上がっていた。
その前に、一人の魔族が膝をついている。
「西採掘場へ送り込んだブラックゴーレムは、すべて破壊されました」
巨大な魔族は動かなかった。
「一体誰にだ」
「勇者シン一行です」
その言葉で、初めて男の目が動いた。
「ほう、勇者が来たか」
「はい。数日前までライラック方面にいたはずですが、現在はビジュールに滞在しているようです」
巨大な指が、椅子の肘掛けをゆっくり叩く。
「偶然なのか?」
「確認中です」
「北は」
「すでにブラックゴーレムを投入しています」
「止めろ」
魔族が顔を上げた。
「ベルガ様?」
ベルガは低い声で続けた。
「北に送った分はもう遅い。だが、それ以降は止めろ」
「しかし、このままでは人間が採掘を続けます」
「ゴーレムごときでは勇者を止められん」
声は静かだった。
怒鳴る必要などない。
その一言だけで、部下は口を閉じた。
「それと」
報告役の魔族が少し迷う。
「妙な男が一人います」
「妙?」
「勇者ではありません。三十代ほどの人間の男です」
「何をした」
「ブラックゴーレムを……素手で破壊しました」
ベルガの指が止まった。
「素手?」
「二体をほぼ一撃で」
しばらく沈黙が落ちる。
やがてベルガは立ち上がった。
三メートル近い身体が動くだけで、広間の空気が重くなる。
「ライラックから報告のあった男かもしれんな」
「例の、勇者以上の可能性があるという?」
「まだそう決まったわけではない」
ベルガは壁に掛けられた地図へ歩み寄った。
ビジュール。
そして周囲に四つある採掘場。
太い指が西をなぞり、北で止まる。
「勇者がなぜここへ来た」
「魔物の討伐では?」
「それだけならここへ来る理由が弱い」
ベルガの目が細くなる。
「何か探している可能性がある」
部下が息を呑む。
「まさか……」
「決めつけるな」
ベルガは地図から手を離した。
「だから調べる」
「どのように?」
「餌を撒け」
◇
翌日。
北採掘場へ向かった冒険者たちから、ブラックゴーレムは討伐できたという報告が入った。
シンたちは一度、ビジュールへ戻っていた。
王家専用の宿の食堂で、総一は遅めの朝食を食べながら報告を聞いていた。
「北も西とほぼ同じ状況だったそうです」
シンが言う。
「鉱夫が逃げると追ってこなかったみたいです」
「やっぱりか」
総一はパンをちぎる。
「何がです?」
「殺すことが目的じゃない」
ナバルが腕を組んだ。
「採掘を止めたいだけってことか」
「今のところはな」
サリーが首を傾げる。
「では次は、東か南でしょうか?」
「普通に考えれば」
総一がそう答えたところで、食堂の扉が開いた。
「総一」
モネだった。
朝から外へ出ていたらしく、肩には小さな鞄をかけている。
「おはよう。朝から美人を見ると一日が」
「今はそういうのいいから」
「冷たいな」
モネは構わずテーブルへ近づいた。
「ちょっと気になる話を聞いたの」
総一の手が止まる。
「何?」
「南採掘場」
シンたちも顔を上げた。
「魔物ですか?」
「違うわ」
モネは椅子を引いた。
「石よ」
「石?」
「昨日、見たこともないくらい透明な石が出たって噂になってる」
総一の表情が変わった。
懐には、ダイアから渡されたレベルストーンがある。
ほとんど色のない透明な石。
「どれくらい透明なんだ?」
「話だけなら、水みたいに透き通ってるって」
ナバルが総一を見る。
「まさか」
「分からん」
総一は椅子から立ち上がった。
「実物を見ないことにはな」
モネが口元を少し上げる。
「行くと思った」
「美人の誘いは断れないんだよ」
「石の話でしょう?」
「両方大事だ」
サリーがくすりと笑う。
シンはもう立ち上がっていた。
「僕たちも行きます」
「決まりだな」
総一は懐のレベルストーンを指先で確かめた。
もし本物なら、薫へ近づく大きな手掛かりになる。
だが、その胸の奥に小さな違和感が残っていた。
昨日まで何もなかった南採掘場から、突然都合よく透明な石が出た。
少し出来すぎている。
◇
「動きました」
暗い広間で、魔族が頭を下げる。
ベルガは椅子に座ったまま、ゆっくり目を開いた。
「誰がだ」
「勇者シン。それと、例の男です」
「そうか」
「南採掘場へ向かう準備をしています」
ベルガは短く息を吐いた。
「やはり、透明な石に食いついたか」
巨大な手が肘掛けを掴む。
「見極めろ」
「何をでしょう」
「奴らが、どこまで知っているのかだ」
青白い灯りの下で、ベルガの薄紫色の顔に小さな笑みが浮かんだ。
次に試されるのは、勇者たちではない。
彼らが持っている情報そのものだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ブラックゴーレムを送り込んでいた魔族、ベルガが登場しました。
そして突然出てきた、南採掘場の「水のように透き通った石」。
総一も怪しさを感じていますが、薫につながる可能性がある以上、確かめないわけにはいきません。
果たして南採掘場にある石は、本当に総一が探しているものなのか。
次回もよろしくお願いします!




