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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第二章 宝石の街と透明な石

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第22話 罠か、手掛かりか

西に続き、北採掘場にも現れたブラックゴーレム。


偶然とは思えない状況に、総一も違和感を覚え始めます。


ビジュールの採掘場で、いったい何が起きているのか。


少しずつ異変の裏側が動き始めます。


今回もよろしくお願いします!

北採掘場にもブラックゴーレムが現れた。


 その報告を受けた総一たちは、西採掘場の入口でしばらく動けずにいた。


 夕方の風が山肌を抜け、砕かれた黒い石の粉を転がしていく。少し前まで戦闘の音が響いていた場所には、今は鉱夫たちのざわめきだけが残っていた。


「すぐ北へ向かいましょう」


 シンが真っ先に言った。


 剣を収めたばかりだというのに、その目にはもう次の戦いへ向かう覚悟がある。


 ナバルも大盾を背負い直した。


「距離は?」


「ここからなら馬で急げば、それほどかからないはずよ」


 モネが答える。


 総一は返事をせず、地面に転がったブラックゴーレムの残骸を見下ろしていた。


 西。


 次は北。


 同じ魔物。


 偶然と考えるには出来すぎている。


「総一さん?」


 サリーに呼ばれ、総一はようやく顔を上げた。


「北には行く。ただ、急いで全員で突っ込む必要はないかもな」


「どういうことです?」


「こいつらの目的が分からんからな」


 総一は足元の黒い石を軽く蹴った。


「人を殺したいなら、採掘場で待ってる必要はない。街道でも街でも襲える」


 シンの表情が変わる。


「つまり、採掘場そのものが狙われている?」


「たぶんな」


 モネが腕を組んだ。


「でも、どうして?」


「それを今から調べるんだよ」


     ◇


 その頃。


 ビジュールから離れた山中。


 岩山の裂け目を抜けた先に、人間には知られていない巨大な空間があった。


 天然の洞窟を削って造られた広間には、青白い魔法灯が並び、その中央に巨大な影が座っている。


 身長は三メートル近い。


 薄紫色の肌。


 頭髪はなく、太い首から肩にかけて岩のような筋肉が盛り上がっていた。


 その前に、一人の魔族が膝をついている。


「西採掘場へ送り込んだブラックゴーレムは、すべて破壊されました」


 巨大な魔族は動かなかった。


「一体誰にだ」


「勇者シン一行です」


 その言葉で、初めて男の目が動いた。


「ほう、勇者が来たか」


「はい。数日前までライラック方面にいたはずですが、現在はビジュールに滞在しているようです」


 巨大な指が、椅子の肘掛けをゆっくり叩く。


「偶然なのか?」


「確認中です」


「北は」


「すでにブラックゴーレムを投入しています」


「止めろ」


 魔族が顔を上げた。


「ベルガ様?」


 ベルガは低い声で続けた。


「北に送った分はもう遅い。だが、それ以降は止めろ」


「しかし、このままでは人間が採掘を続けます」


「ゴーレムごときでは勇者を止められん」


 声は静かだった。


 怒鳴る必要などない。


 その一言だけで、部下は口を閉じた。


「それと」


 報告役の魔族が少し迷う。


「妙な男が一人います」


「妙?」


「勇者ではありません。三十代ほどの人間の男です」


「何をした」


「ブラックゴーレムを……素手で破壊しました」


 ベルガの指が止まった。


「素手?」


「二体をほぼ一撃で」


 しばらく沈黙が落ちる。


 やがてベルガは立ち上がった。


 三メートル近い身体が動くだけで、広間の空気が重くなる。


「ライラックから報告のあった男かもしれんな」


「例の、勇者以上の可能性があるという?」


「まだそう決まったわけではない」


 ベルガは壁に掛けられた地図へ歩み寄った。


 ビジュール。


 そして周囲に四つある採掘場。


 太い指が西をなぞり、北で止まる。


「勇者がなぜここへ来た」


「魔物の討伐では?」


「それだけならここへ来る理由が弱い」


 ベルガの目が細くなる。


「何か探している可能性がある」


 部下が息を呑む。


「まさか……」


「決めつけるな」


 ベルガは地図から手を離した。


「だから調べる」


「どのように?」


「餌を撒け」


     ◇


 翌日。


 北採掘場へ向かった冒険者たちから、ブラックゴーレムは討伐できたという報告が入った。


 シンたちは一度、ビジュールへ戻っていた。


 王家専用の宿の食堂で、総一は遅めの朝食を食べながら報告を聞いていた。


「北も西とほぼ同じ状況だったそうです」


 シンが言う。


「鉱夫が逃げると追ってこなかったみたいです」


「やっぱりか」


 総一はパンをちぎる。


「何がです?」


「殺すことが目的じゃない」


 ナバルが腕を組んだ。


「採掘を止めたいだけってことか」


「今のところはな」


 サリーが首を傾げる。


「では次は、東か南でしょうか?」


「普通に考えれば」


 総一がそう答えたところで、食堂の扉が開いた。


「総一」


 モネだった。


 朝から外へ出ていたらしく、肩には小さな鞄をかけている。


「おはよう。朝から美人を見ると一日が」


「今はそういうのいいから」


「冷たいな」


 モネは構わずテーブルへ近づいた。


「ちょっと気になる話を聞いたの」


 総一の手が止まる。


「何?」


「南採掘場」


 シンたちも顔を上げた。


「魔物ですか?」


「違うわ」


 モネは椅子を引いた。


「石よ」


「石?」


「昨日、見たこともないくらい透明な石が出たって噂になってる」


 総一の表情が変わった。


 懐には、ダイアから渡されたレベルストーンがある。


 ほとんど色のない透明な石。


「どれくらい透明なんだ?」


「話だけなら、水みたいに透き通ってるって」


 ナバルが総一を見る。


「まさか」


「分からん」


 総一は椅子から立ち上がった。


「実物を見ないことにはな」


 モネが口元を少し上げる。


「行くと思った」


「美人の誘いは断れないんだよ」


「石の話でしょう?」


「両方大事だ」


 サリーがくすりと笑う。


 シンはもう立ち上がっていた。


「僕たちも行きます」


「決まりだな」


 総一は懐のレベルストーンを指先で確かめた。


 もし本物なら、薫へ近づく大きな手掛かりになる。


 だが、その胸の奥に小さな違和感が残っていた。


 昨日まで何もなかった南採掘場から、突然都合よく透明な石が出た。


 少し出来すぎている。


     ◇


「動きました」


 暗い広間で、魔族が頭を下げる。


 ベルガは椅子に座ったまま、ゆっくり目を開いた。


「誰がだ」


「勇者シン。それと、例の男です」


「そうか」


「南採掘場へ向かう準備をしています」


 ベルガは短く息を吐いた。


「やはり、透明な石に食いついたか」


 巨大な手が肘掛けを掴む。


「見極めろ」


「何をでしょう」


「奴らが、どこまで知っているのかだ」


 青白い灯りの下で、ベルガの薄紫色の顔に小さな笑みが浮かんだ。


 次に試されるのは、勇者たちではない。


 彼らが持っている情報そのものだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


ブラックゴーレムを送り込んでいた魔族、ベルガが登場しました。


そして突然出てきた、南採掘場の「水のように透き通った石」。


総一も怪しさを感じていますが、薫につながる可能性がある以上、確かめないわけにはいきません。


果たして南採掘場にある石は、本当に総一が探しているものなのか。


次回もよろしくお願いします!

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