第21話 採掘場の異変
透明な石の手掛かりを求め、総一たちは西採掘場へ向かいます。
そこで総一たちを待っているものとは。
そして、透明な石につながる手掛かりは見つかるのか。
今回もよろしくお願いします!
翌朝。
総一たちは、ビジュールの西門から馬車で街を出た。
御者台にはナバル。
荷台には総一、シン、サリー、そしてモネが乗っている。
モネは昨日よりも動きやすそうな服装で、長い髪を後ろでまとめていた。普段の華やかな雰囲気とは少し違い、仕事に向かう顔になっている。
「西採掘場までは?」
総一が尋ねる。
「馬車なら一時間くらいね」
モネが答えた。
「この辺りには採掘場が四つあるの。東、西、南、北」
「随分分かりやすい名前だな」
「昔からそう呼ばれてるのよ。下手に洒落た名前をつけるより便利でしょう?」
「俺は好きだぞ。覚えやすい」
総一は荷台の壁にもたれた。
昨日最後に訪れた卸商から聞いた話では、西採掘場はここ数日、魔物の出現によって採掘が止まっている。
ビジュールで透明な宝石が品薄になっている原因の一つ。
そして、ダイアから聞いたレベルストーン。
透明に近いほど純度が高い魔石。
この採掘場に本物がある保証はない。
それでも確認する価値はあった。
「モネは西採掘場にはよく行くのか?」
「何度も。透明度の高い石が比較的出やすい場所だから」
「じゃあ期待できそうだな」
「あなたが探してる石と同じかは分からないけどね」
総一は懐に入れたレベルストーンへ軽く触れた。
「それを確かめに行く」
モネが横目で総一を見る。
「今日は真面目なのね」
「いつも真面目だぞ」
「昨日、私の脚ばかり見てた人が?」
「……仕事と趣味は分けてる」
「分けられてなかったと思いますけど」
サリーが柔らかい声で口を挟む。
シンまで小さく笑った。
「味方いないな、俺」
◇
西採掘場へ着くと、空気が変わった。
山肌を削って造られた広い採掘場。
本来なら鉱夫たちが行き交い、石を積んだ荷車が並んでいるはずだった。
しかし今は静かだった。
入口付近に数人の男たちが集まっているだけで、坑道へ入ろうとする者はいない。
「モネさん!」
一人の男がこちらに気づき、駆け寄ってきた。
「来てくれたんですか」
「状況は?」
「変わりません。むしろ増えてます」
男の視線がシンへ向く。
次の瞬間、目を見開いた。
「ゆ、勇者様?」
「シンです」
「ほ、本当に……」
シンが軽く頭を下げる。
男は慌てて姿勢を正した。
「これなら何とかなるかもしれない……」
「魔物はどこに?」
「坑道の中です。それと、入口近くにも何体か」
「種類は?」
ナバルが聞く。
「ブラックゴーレムです」
モネの表情が曇った。
「ブラックゴーレム?」
総一が聞き返す。
「黒い岩みたいな身体をした魔物よ。かなり硬いの」
男が大きく頷く。
「普通の剣じゃほとんど傷がつきません。冒険者にも頼んだんですが、複数相手では無理だと」
「何体くらい?」
「中まで確認できていません。ただ、少なくとも十体以上は」
シンが剣の柄へ手を置いた。
「行きましょう」
「シン」
総一が声をかける。
「無理すんなよ」
「大丈夫です」
「俺もいる」
ナバルが大盾を肩へ担ぐ。
「後ろは任せろ」
サリーも杖を握った。
「怪我をしたらすぐ言ってくださいね」
総一は三人を見てから、モネへ向き直った。
「モネは俺から離れるな」
「あら」
モネが口元を上げる。
「随分頼もしいこと言うのね」
「惚れてもいいぞ」
「生きて帰ったら考えるわ」
「脈ある?」
「ないと思いますよ」
サリーの声が後ろから聞こえた。
「お前ら聞こえてるぞ」
◇
坑道へ入ると、ひんやりした空気が肌を撫でた。
壁に取りつけられた魔法灯が、一定間隔で薄暗い通路を照らしている。
少し進んだところで、重い音が響いた。
ズン。
ズン。
「来ます」
シンが剣を抜く。
暗闇の向こうから、大きな影が姿を現した。
二メートルを軽く超える巨体。
黒い岩を無理やり人型に組み上げたような身体。
目の位置だけが赤く光っている。
「ブラックゴーレム」
モネが小さく呟く。
一体。
二体。
さらに奥から三体目。
「まず僕が行きます」
シンが駆けた。
ゴーレムの腕が振り下ろされる。
ブンッ!
シンは身体を滑らせるようにかわし、脇腹へ剣を叩き込んだ。
ギィン!
金属を打ったような音が坑道に響く。
「硬い……!」
刃は浅く食い込んだだけだった。
「シン、下がれ!」
ナバルが前へ出る。
ゴーレムの拳を大盾で受け止める。
ドンッ!
衝撃でナバルの足が半歩下がった。
「重いな!」
「右側、空いてます!」
サリーの声。
シンが回り込み、今度は膝の関節部分を狙う。
ガンッ!
何度か斬りつけると亀裂が入り、ゴーレムの身体が傾いた。
「そこだ!」
剣を深く突き込む。
黒い巨体が崩れ落ちた。
「やるな」
総一が感心する。
だが同時に、別の二体が迫ってきた。
「総一!」
モネが声を上げる。
「大丈夫」
一体が総一へ拳を振り下ろす。
総一は避けなかった。
拳を軽く握る。
「ちょっと硬そうだな」
ゴーレムの拳より先に、総一の拳が胸部へ届いた。
ドンッ!
一撃。
黒い岩の身体に亀裂が走る。
次の瞬間、上半身が砕け散った。
「……」
モネが固まった。
もう一体が総一へ向きを変える。
「お前も?」
軽く踏み込み、腹へ拳を入れる。
バキッ!
二体目もその場で崩れた。
モネはしばらく何も言わなかった。
「何?」
「あなた……冒険者なのよね?」
「一応」
「それ、一応で済む強さ?」
「よく分からん」
「本当に?」
「俺も最近知った」
モネは納得していない顔だったが、今は追及しなかった。
◇
その後も坑道内にはブラックゴーレムがいた。
だが、シンたちが連携して倒し、危険な数がまとまっている場所だけ総一が片づけた。
それほど時間はかからなかった。
「これで最後ですね」
シンが剣についた石片を払う。
サリーも周囲を確認した。
「怪我人もいません」
「俺の盾には傷が増えたけどな」
ナバルが苦笑する。
モネはようやく緊張を解き、奥の坑道へ進んだ。
「透明な石が多く出るのはこの辺り」
採掘された壁を指差す。
総一たちは鉱夫から借りた道具を使い、すでに掘り出されている石も確認した。
透明。
半透明。
水晶に似た石がいくつもある。
総一はダイアからもらったレベルストーンと見比べる。
「違うな」
「分かるの?」
モネが聞く。
「なんとなくな」
レベルストーンは透明度だけではない。
見ているだけでも、どこか違う。
だがここにある石には、それがなかった。
「外れか」
「残念ね」
「まあ、最初から当たるとは思ってない」
総一は石を戻した。
西採掘場の魔物も排除した。
これで採掘は再開できる。
少なくとも一つ問題は片づいた。
そう思った時だった。
坑道の外から、慌ただしい声が響く。
「大変だ!」
総一たちは顔を見合わせ、入口へ戻った。
一頭の馬が砂煙を上げて止まる。
乗っていた男が転がるように降りた。
「どうした!」
採掘場の責任者が駆け寄る。
男は肩で息をしながら叫んだ。
「北だ!」
「北?」
「北採掘場にも魔物が出た!」
モネの顔色が変わる。
「まさか……」
「何が出た?」
シンが尋ねる。
男は息を整えながら答えた。
「ブラックゴーレムだ!」
総一の表情から笑みが消えた。
西。
そして北。
同じ時期に、同じ魔物。
総一は坑道の奥へ一度視線を戻した。
「……偶然じゃなさそうだな」
まだ無事なのは、東と南。
この騒ぎは、西採掘場だけでは終わらないのかもしれなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ようやく採掘場までたどり着いた総一たち。
しかし、どうやらビジュールで起きている異変は一か所だけではないようです。
西に続いて北。
同じことが続けば、さすがに偶然とは考えにくくなってきます。
総一はこの異変の正体にたどり着けるのか。
次回もよろしくお願いします!




