第20話 モネという女
ビジュールでの調査を始めた総一。
昨日出会ったモネと一緒に宝石の仕入れ先を回ることになります。
美女との街歩きに浮かれる総一ですが、もちろん目的は忘れていません。
品薄になっている透明な石。
その原因を追っていくと、どうやら街の外で異変が起きているようです。
翌朝。
総一は王家専用の宿を出ると、正面玄関の前で少しだけ伸びをした。
ビジュールの朝は早い。
大通りではすでに商人たちが店を開け、荷車が行き交っている。宝石店の窓には朝日が差し込み、磨かれた石が昨日よりも強く輝いて見えた。
「総一さん、本当に一人で行くんですか?」
後ろからシンの声がする。
「一人じゃない。モネと一緒だ」
「それを聞いて余計に心配になりました」
「何が?」
「いろいろです」
総一は肩をすくめた。
シンたちは今日は冒険者ギルドへ向かう予定だった。
ビジュール周辺で魔王軍らしい動きがないか、最近の依頼や目撃情報を調べるためだ。
一方、総一は昨日知り合ったモネについて、宝石の仕入れ先を回ることになっていた。
もちろん目的は透明な石について調べること。
そのはずだった。
「お待たせ」
聞き覚えのある声に振り返る。
モネが歩いてきた。
昨日とは少し違う服装だった。
動きやすそうな細身のパンツに、身体へ沿う薄手の上着。派手ではないのに、長い脚と細い腰が自然に目に入る。
総一は数秒黙った。
「……今日もいい街だな」
「街を見て言ってる?」
「もちろん」
「今、私しか見てなかったけど」
モネが呆れたように笑う。
シンは何も言わず、総一の肩を軽く叩いた。
「頑張ってください」
「何をだよ」
「いろいろです」
昨日と同じ言葉を残し、シンはサリーたちの方へ向かっていった。
◇
「まずは西側の商会からね」
モネは迷いなく大通りを歩いていく。
総一はその隣についた。
「毎日こんな感じ?」
「だいたい。石を見て、値段を交渉して、買ったものを店へ卸す」
「結構歩くんだな」
「宝石は向こうから来てくれないもの」
「美人なら向こうから男が寄ってくるけどな」
「朝から元気ね」
「褒め言葉?」
「好きに受け取って」
一軒目の商会では、店主がいくつかの石を並べた。
赤。
青。
淡い緑。
どれも総一には綺麗な宝石にしか見えない。
モネは一つずつ手に取り、光へかざしていく。
「これは駄目」
「え?」
店主が眉を上げる。
「表面は綺麗だけど、中に細い傷がある」
総一も覗き込む。
「どこ?」
「ここ」
指先で示されても分からない。
「……見えん」
「でしょうね」
モネは少し楽しそうだった。
「こっちは?」
「悪くない。でもこの値段では買わないわ」
そこから交渉が始まった。
総一は横で黙って聞いていたが、思っていた以上に容赦がない。
店主が値段を上げれば、その理由を一つずつ潰していく。
石の大きさ。
傷。
最近の相場。
他店の仕入れ値。
最後には店主の方が苦笑していた。
「相変わらず厳しいな、モネ」
「商売ですから」
店を出ると、総一は感心したように口笛を吹いた。
「強いな」
「何が?」
「交渉」
「私の顔しか見てないと思ってた」
「失礼だな。ちゃんと仕事も見てたぞ」
「それは意外ね」
「俺を何だと思ってるんだ」
モネ思わずが吹き出した。
◇
午前中だけで三軒の商会を回った。
四軒目へ向かう途中、モネが足を止める。
「少し休まない?」
「賛成」
二人が入ったのは、大通りから外れた小さな食堂だった。
高級店が多いビジュールでは珍しく、値段も比較的まともだった。
総一は料理表を見て安心した。
「この街にも良心ってあったんだな」
「昨日から値段ばかり気にしてるわね」
「金は大事だぞ」
「分かるけど、あなた見た目より細かいのね」
「褒められてる気がしないな」
料理が運ばれてくる。
煮込んだ肉と野菜。
焼きたてのパン。
総一は一口食べて頷いた。
「うまいな」
「ここは昔から来てるの」
「モネの行きつけか」
「そう」
「それ聞いたらもっと美味く感じてきた」
「あなたって本当に分かりやすいわね」
モネは笑いながら水を飲んだ。
しばらく食事を続けていると、モネがふと総一を見る。
「そういえば」
「ん?」
「あなた、どうして透明な石を探してるの?」
総一の手が少し止まった。
「仕事?」
「まあ、そんなところ」
「昨日から見てると、商売には見えないけど」
「鋭いな」
「これでも人を見る仕事もしてるから」
総一は少し迷った。
レベルストーンのことまで話す必要はない。
ただ、全部隠す必要もない気がした。
「人を探してる」
「人?」
「薫っていう女だ」
モネの目が少し変わる。
「恋人?」
「相棒」
「相棒ね」
妙に含みのある言い方だった。
「何だよ」
「別に」
「顔が別にじゃないぞ」
「長い付き合い?」
「まあな」
総一はパンをちぎった。
「仕事もずっと一緒だった。腐れ縁みたいなもんだよ」
「それで、その人を探すために石が必要なの?」
「直接じゃない。でも、手掛かりになるかもしれない」
「大切な人なのね」
総一は一瞬だけ黙った。
「面倒な女だよ」
「答えになってないわね」
「そういうところも鋭いな」
モネはそれ以上聞かなかった。
ただ、さっきまで総一を見る目とは少し違っていた。
「モネは?」
「何が?」
「男」
「随分急ね」
「俺だけ聞かれたら不公平だろ」
「いないわよ」
総一の顔が明るくなる。
「本当?」
「その反応、失礼じゃない?」
「嬉しくて」
「仕事ばかりしてるから、長続きしないの」
「じゃあ俺なら」
「あなたはまず女性を見る回数を減らした方がいいわね」
「厳しいな」
「仕事柄、人を見る目はあるつもりだから」
「俺、結構いい男だぞ」
「自分で言う人は信用しないことにしてる」
また軽くあしらわれる。
それでも総一は楽しそうだった。
◇
午後も何軒か仕入れ先を回った。
総一はモネの横で話を聞きながら、少しずつ違和感を覚えていた。
透明な石。
昨日の店でも話に出ていた。
今日訪れた商会でも、扱いが少ない。
だが、まだ判断するには材料が足りない。
夕方。
最後に訪れたのは、街の外れにある小さな卸商だった。
「悪いな、モネ」
店主は申し訳なさそうに頭をかいた。
「今日も透明なやつはない」
「また?」
モネの表情が曇る。
「少しでもいいのよ」
「無理だ。入ってこないんだから仕方ない」
「他の商会も似たようなことを言ってたわ」
「そりゃそうだろうな」
店主はため息をついた。
「例の採掘場が止まったままなんだから」
総一の視線が上がった。
「採掘場?」
店主が初めて総一を見る。
「誰だ?」
「知り合いよ」
モネが答える。
「採掘場がどうしたの?」
「聞いてないのか?」
「詳しくは」
店主は周囲を気にするように声を落とした。
「少し前から魔物が出るようになったらしい」
モネの眉が寄る。
「魔物?」
「それも一匹や二匹じゃない。採掘に入れなくなってるって話だ」
総一は黙ったまま聞いていた。
透明な宝石の品薄。
そして、その石が採れる場所で起きている異変。
偶然かもしれない。
だが、総一の中で二つの話がゆっくりとつながり始めていた。
店を出ると、モネが隣を歩く総一を見る。
「急に静かになったわね」
「ちょっと考えてた」
「何を?」
総一は夕暮れの街並みへ目を向けた。
「その採掘場」
モネも足を止める。
「気になる?」
「かなりな」
宝石の街で起きている小さな異変。
どうやら、ただの品薄では終わらなさそうだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
モネと仕入れ先を回る中で見えてきた、透明な石の品薄。
そして最後に出てきた「魔物が現れ、採掘できなくなった採掘場」。
ただ石が手に入らなくなっただけなのか。
それとも、そこには何か別の理由があるのか。
総一の探偵としての勘も、少しずつ動き始めています。
次回、採掘場の異変をさらに追っていきます!




