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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第一章 攫われた相棒

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18/33

第18話 豪華な檻

第18話です。


今回は少し時間を戻して、魔王に連れ去られた薫のお話です。


総一が手掛かりを追っている頃、薫はどこで何をしていたのか。


そして、彼女の前に現れた一人の女性。


魔王軍が薫を攫った理由も、少しずつ見えてきます。


それでは、お楽しみください。

柔らかな朝の光が、薄いカーテン越しに差し込んでいた。


 薫は大きなベッドの上で目を覚ますと、しばらく天井を見つめた。


 白い壁。

 丁寧に磨かれた家具。

 厚手の絨毯。

 壁際には小さな暖炉まである。


 食事も毎日きちんと運ばれてくる。


 水もある。浴室も使える。寝具も上等だ。


 どう考えても牢獄ではない。


「……誘拐された人間の部屋じゃないわよね」


 薫は身体を起こした。


 待遇だけ見れば、高級宿の客室と言われても信じる。


 ただし、扉は自由には開かない。


 外には常に見張りがいる。


 窓も開くが、そこから逃げられるような造りにはなっていなかった。


 そして何より、ここがどこなのか分からない。


 魔王に攫われてから、どれだけ移動したのかも把握できていない。


 薫はベッドを降り、自分の荷物が置かれていたはずの場所を見る。


 もちろん何もない。


 財布。


 ギルドカード。


 異世界へ来てから手に入れた物。


 すべて取り上げられている。


「そうちゃんに連絡する方法もない、か」


 小さく呟いてから、薫は眉を寄せた。


 連絡手段があったとしても、総一が今どこにいるのか分からない。


 それでも、彼なら探している。


 その確信だけは妙に揺らがなかった。


「どうせ無茶してるんでしょうね」


 本人が聞いたら笑って誤魔化すだろう。


 そんな顔まで簡単に想像できた。


 コンコン、と扉が鳴った。


「どうぞ」


 鍵が外れる音がして、一人の女性が入ってくる。


 銀の盆に朝食を載せていた。


 長い金髪。


 透き通るような白い肌に、淡い色の瞳。


 二十代後半ほどに見える整った顔立ちは、この世界でも目を引くだろう。


 背も少し高い。


「おはようございます」


「おはよう」


 女性はテーブルへ朝食を並べていく。


 パン。


 温かいスープ。


 卵料理。


 果物まで添えられていた。


「今日も豪華ね」


「あなたは大切に扱うよう命じられていますから」


「嬉しくない大切さだけど」


 女性の手が一瞬止まった。


 ほんのわずかな変化だった。


 薫はそれを見逃さない。


「あなた、魔族じゃないわよね?」


 女性が薫を見る。


「どうしてそう思うんです?」


「なんとなく」


「便利な言葉ですね」


「探偵をやってると、そういうのが増えるのよ」


「探偵?」


「人を調べたり、事件を解決したりする仕事よ」


「そんな仕事があるんですね」


「私のいた世界にはね」


 女性は少しだけ迷ったあと、椅子へ腰を下ろした。


「マリーです」


「花咲薫」


「知っています」


「でしょうね」


 自分の能力まで調べられたのだ。


 名前を知られていても驚くことではない。


 薫は向かいの椅子へ座った。


「マリー。あなた、人間?」


「ええ」


 返事はすぐだった。


「元冒険者です」


「元?」


「今は冒険者とは呼べないでしょうから」


 マリーは自嘲するでもなく、淡々と答えた。


 薫は彼女の手元を見る。


 武器は持っていない。


 だが、動きには旅慣れした人間特有の癖が残っていた。


「どうしてここに?」


 マリーはすぐには答えなかった。


 窓の外へ一度目をやり、それから薫へ向き直る。


「回復魔法が得意だったんです」


「それだけ?」


「人間の中では、かなり強い方だったと思います」


 その言い方に引っかかる。


「思います?」


「ここへ来てから、上には上がいると知ったので」


 マリーの視線が薫へ向く。


 意味はすぐに分かった。


「私?」


「ええ」


 薫は黙った。


 魔王軍に連れ去られてから、何度も能力を調べられた。


 治療。


 再生。


 回復の範囲。


 どこまで治せるのか。


 そして最後に、彼らは一つの名称を口にした。


《生命の奇跡》


 ライフ・ミラクル。


 薫自身も、それが普通の回復能力ではないことくらいは分かっている。


「私も、最初はそれを持っていると思われたんです」


 マリーが続けた。


「ライフ・ミラクルを?」


「魔王軍はずっと探していたみたいです。異常なほど回復能力が高い人間を」


「それで捕まった」


「そういうことです」


 マリーは小さく笑った。


「残念ながら、私は外れでしたけど」


「残念って言い方する?」


「少なくとも、捕まった側からすれば全部残念です」


「それはそうね」


 薫は少しだけ口元を緩めた。


 だが、すぐに表情を戻す。


「じゃあ、私が当たりだった」


 マリーは答えなかった。


 ただ、その沈黙が答えになっていた。


「私の能力が目的なのね」


 薫は自分の指先を見る。


 連れてこられたあと、魔王軍は《生命の奇跡》が存在することを確認した。


 同時に、今の薫ではその力を完全には使えないことも。


 魔力が足りない。


 そこまではすでに知られている。


「魔王は、この能力で何をするつもり?」


 薫が尋ねた瞬間だった。


 マリーの口がわずかに開く。


「それは……」


 そこで声が途切れた。


 マリーの表情が強張る。


「マリー?」


 次の瞬間、彼女の身体が固まった。


「っ……!」


 ガタンッ。


 椅子が倒れる。


 マリーの指先が震え、身体全体に痺れが走ったように床へ膝をついた。


「ちょっと!」


 薫はすぐに駆け寄り、身体を支える。


「大丈夫!?」


「……平気、です」


「全然平気に見えないんだけど」


 数十秒ほどして、ようやくマリーの身体から力が抜けた。


 荒くなった呼吸を整えながら、彼女は椅子へ座り直す。


「今のは何?」


「奴隷契約です」


 薫の表情が変わった。


「魔王と?」


 マリーが頷く。


「私は魔王様に逆らえません」


「だから逃げないの?」


「逃げられないんです」


 淡々とした言葉だった。


 だからこそ重かった。


「考えることまでは自由です。嫌いだと思うこともできますし、ここから逃げたいとも思えます」


 マリーが自分の手を見る。


「でも、実際に背く行動をしようとすると、契約が止める」


「今みたいに?」


「声が出なくなることもあります。身体が動かなくなることも。無理をすれば、痺れがしばらく残ります」


「ひどい魔法ね」


「便利な魔法ですよ。使う側にとっては」


 薫は何も言えなかった。


 マリーは城内を自由に歩ける。


 食事も運べる。


 見張りにも止められない。


 けれど逃げられない。


 檻が見えないだけで、マリーも囚人だった。


「私の世話係になったのも命令?」


「ええ」


「私を逃がすのも?」


 マリーが薫を見る。


 試すように口を開いた。


「それは……」


 また声が止まる。


 今度は無理に続けなかった。


「分かった。もういい」


「ごめんなさい」


「あなたが謝ることじゃないわ」


 薫は椅子へ戻った。


 テーブルに肘を置き、しばらく考える。


 奴隷契約。


 魔王に背く行為はできない。


 なら、マリーから簡単に脱出方法を聞き出すことはできない。


 だが。


 薫は顔を上げた。


「ねえ、マリー」


「はい」


「魔王に関係ないことなら普通に答えられるの?」


「内容によります」


「なるほど」


 マリーが眉を上げた。


「その顔、何か考えていますね」


「昔から考えるのが仕事だったから」


「探偵、でしたね」


「そう」


 薫は微笑んだ。


 直接聞けないなら、直接聞かなければいい。


 何を質問すると契約が反応するのか。


 何なら話せるのか。


 どこから先が魔王への背反になるのか。


 それを一つずつ確かめればいい。


「まず、ここに来てどれくらい?」


「それなら答えられます」


「城の中で行ったことのある場所は?」


「それも問題ありません」


「見張りの交代時間は?」


 マリーが口を開きかける。


 そして少しだけ困った顔をした。


「……それは駄目みたいです」


「やっぱり」


「何が?」


「境界線が少し見えた」


 薫は椅子の背にもたれた。


 逃げ道はまだない。


 総一へ連絡する方法もない。


 自分がどこにいるのかすら分からない。


 それでも、できることはある。


「マリー」


「何でしょう」


「答えられることから、全部聞かせて」


 金髪の女性は一瞬だけ驚いたあと、ほんの少し笑った。


「……あなたも、なかなか諦めが悪そうですね」


「相棒の影響かもね」


 薫は窓の外へ目を向けた。


 そうちゃん。


 どうせ今頃、無茶をしながら私を探している。


 だったら、自分もここで待っているだけにはならない。


 見えない檻の中で、薫の捜査が静かに始まった。

第18話を読んでいただき、ありがとうございました!


今回は久しぶりの薫視点でした。


魔王に攫われていた薫ですが、ただ助けを待っているだけではありません。


総一が外から薫を探している一方で、薫も中から情報収集開始です。


そして新しく登場したマリー。


彼女の奴隷契約をどうやって突破するのか。


さらに、魔王軍が探し続けていた《生命の奇跡》を何に使うつもりなのか。


ここから総一と薫、それぞれの捜査が進んでいきます。


次回もよろしくお願いします!

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