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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第一章 攫われた相棒

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第17話 旅立ち

第17話です。


魔王軍ライラック支部での戦いを終えた総一たち。


ダイアから得た「レベルストーン」という新たな手掛かりを追い、ついにライラックを離れることになります。


薫を探すための旅が、ここから本格的に始まります。


それでは、お楽しみください。

翌朝。


 総一は宿を出ると、まずラウベルのもとへ向かった。


 ライラックの街は、昨日あれだけ大きな戦いがあったとは思えないほど、いつも通りの朝を迎えている。


 通りには店を開ける商人たちの声が響き、焼きたてのパンの匂いが風に混じっていた。


「平和だな」


 総一は小さく呟く。


 街の外に数百体もの魔族が潜んでいたことを、ほとんどの人間は知らない。


 それでいい。


 知らずに済むなら、その方がいいこともある。


 ラウベルは総一を見ると、すぐに席を勧めた。


「お待ちしていました」


「待たせたな」


「いえ。それで……あの女性のことは?」


 やはり最初に聞かれた。


 総一は椅子へ腰を下ろし、少しだけ考える。


 ダイアが魔族だったこと。


 森の奥に魔王軍支部があったこと。


 大幹部バリオス。


 そのすべてをラウベルへ話す必要はない。


「調査は終わった」


「では、正体も?」


「まあな」


 ラウベルの表情が少し強張る。


「やはり、普通の方ではなかったんですね」


「そういうことだ」


「何者だったんです?」


「知らない方がいい」


 総一がそう答えると、ラウベルは何かを察したのか、それ以上は追及しなかった。


「私の取引先には、また現れるのでしょうか?」


「たぶん、もう来ない」


「たぶん?」


「世の中に絶対ってのは少ないんでね。ただ、少なくともしばらくは姿を見せないだろう」


 ダイアはマリアの直属だ。


 ライラック支部も壊滅した。


 今さら同じ取引先へ戻る理由はほとんどない。


「分かりました」


 ラウベルは安堵したように息を吐いた。


「依頼を引き受けていただいて、本当に助かりました」


「仕事だからな」


「こちらが残りの報酬です」


 テーブルの上へ、小さな革袋が置かれる。


 総一は中を確認した。


「……ちゃんと入ってるな」


「もちろんです」


「疑ってたわけじゃない」


「今、確認しましたよね?」


「探偵の癖だ」


 総一は何食わぬ顔で革袋を懐へ入れた。


 久しぶりに財布の中身を気にせず飯が食える。


 それだけでも、この依頼を受けた価値はあった。


「では、俺はこれで」


「もう行かれるんですか?」


「ああ。まだ寄るところがある」


 立ち上がった総一へ、ラウベルが声をかける。


「またライラックへ来ることがあれば、ぜひ顔を見せてください」


「美人を紹介してくれるなら考える」


「そういうところは変わらないんですね」


「大事なところだからな」


 総一は軽く手を上げ、ラウベルのもとを後にした。


     ◇


 次に向かったのは冒険者ギルドだった。


 扉を開けると、朝から多くの冒険者で賑わっている。


 総一の姿を見つけた受付嬢が、すぐに顔を上げた。


「総一さん」


「よう」


「昨日から探していたんですよ」


「美人に探されるのは悪い気がしないな」


「そういう意味ではありません」


「知ってる」


 受付嬢は呆れた顔をした。


 その少し奥には、すでにシンたちの姿があった。


 シン。


 サリー。


 そしてナバル。


 シンはギルドの責任者らしい男と話をしているところだった。


「総一さん」


 シンがこちらへ気づく。


「ちょうど支部について報告していたところです」


「順調か?」


「はい。ただ……」


 シンが困ったように笑った。


「かなり驚かれました」


「そりゃそうだろ」


 ライラックのすぐ近くに魔王軍の支部があり、数百体もの魔族が潜伏していたのだ。


 驚かない方がおかしい。


 ギルドへ報告された内容は、勇者シンたちによって魔王軍支部が制圧されたというものだった。


 総一がバリオスをほぼ一撃で倒したことまでは話していない。


 シンもサリーもナバルも、そこは黙ってくれている。


「それで総一さん」


 受付嬢が尋ねた。


「今日は何か依頼を?」


「いや。しばらくライラックを離れる」


「え?」


 受付嬢の目が少し大きくなる。


「どちらへ?」


「ビジュール」


「宝石の街ですか?」


「ああ」


「観光ですか?」


「俺がそんな金持ちに見える?」


「見えません」


「即答するなよ」


 サリーが小さく笑った。


「シンたちと一緒に行く」


「勇者様と?」


 受付嬢が再び驚く。


 総一が冒険者登録をしてから、まだそれほど日が経っていない。


 そんな男が勇者一行と旅に出るとなれば、驚くのも無理はない。


「まあ、成り行きだ」


「総一さんの成り行きは、普通の人の成り行きと違う気がします」


「気のせいだ」


「登録してすぐレベル二十になった方に言われても説得力がありません」


「俺もそう思う」


 ナバルが横から口を挟む。


「お前は黙ってろ」


「俺は事実を言っただけだ」


 受付嬢は小さく笑うと、表情を少し真面目なものに戻した。


「分かりました。ビジュールにも冒険者ギルドはあります。必要なことがあれば、そちらを利用してください」


「わかった。世話になったな」


「まだ帰ってこないと決まったわけではありませんよ」


「そうだった」


 総一は軽く笑った。


     ◇


 昼前。


 四人はライラックの門の前に集まっていた。


 用意されたのは二頭立ての馬車だ。


 食料。


 水。


 簡単な野営道具。


 必要な荷物はすでに積み込んである。


「御者は俺がやる」


 ナバルが手綱を確認しながら言った。


「馬車も扱えるのか?」


「騎士を何年やってると思ってる」


「便利だな」


「酒も積んである」


「それは便利とは違うだろ」


「旅には必要だ」


「妻子持ちが昼間から飲むなよ」


「夜まで待つ」


「飲むのは確定なんだな」


 総一が呆れる。


 シンとサリーはすでに馬車へ乗り込んでいた。


 総一も後ろへ乗る。


 ゆっくりと馬車が動き始めた。


 ライラックの街並みが少しずつ遠ざかっていく。


 総一は荷台から街を振り返った。


 この世界へ来て、最初に辿り着いた街。


 薫と一緒に歩いた街。


 そして、薫を奪われた街。


 短い間だった。


 それでも妙に長くいたような気がする。


「総一さん?」


 サリーが声をかける。


「何でもない」


 総一は前へ向き直った。


 次にこの街へ戻る時。


 できれば薫も隣にいてほしい。


 いや。


 必ず連れて戻る。


     ◇


 街道へ出ると、馬車は一定の速度で進み始めた。


 総一は懐から透明な石を取り出す。


 レベルストーン。


 日の光を受けると、石の内部に淡い輝きが走る。


「何度見ても宝石にしか見えないな」


「僕もです」


 シンが覗き込む。


「人間が魔石だと気づかなかったのも無理はないと思います」


「ビジュールには、こういう石が多いのか?」


「透明な宝石なら珍しくありません」


「高い?」


「かなり」


「嫌な街だな」


「まだ着いてもいませんよ」


 サリーが苦笑する。


 シンは少し考えてから続けた。


「ビジュールは王都に比較的近い街です。王都の貴族や富豪もよく訪れますし、各地から宝石商が集まります」


「なるほど」


「ただ……」


「何だ?」


「物価も高いです」


 総一はすぐに財布へ手を当てた。


「ライラックに戻るか」


「総一さん」


「冗談だ」


「顔が本気でしたよ」


 ナバルの声が前から飛んでくる。


「宿なら心配するな」


「安いところ知ってるのか?」


「王家専用の宿がある」


 総一が目を瞬かせる。


「王家専用?」


 シンが頷いた。


「王族や王国の重要人物がビジュールへ行く時に利用する施設です。僕も陛下から使用を許可されています」


「勇者って便利だな」


「そのために勇者になったわけじゃありません」


「俺も勇者になろうかな」


「やめてください」


「即答かよ」


 馬車の中に小さな笑いが広がった。


 総一はもう一度レベルストーンを見る。


 魔王軍が大量に集めている透明な魔石。


 何に使うのかは分からない。


 薫と関係がある証拠もない。


 それでも、今はこれを追うしかない。


 総一はレベルストーンを握り、街道の先へ目を向けた。


 目指すは、宝石の街ビジュール。


 そこに薫へ続く手掛かりがあるのか。


 それとも、新たな魔王軍の影が待っているのか。


 答えはまだ分からない。


 だが、ようやく旅が始まった気がした。

第17話を読んでいただき、ありがとうございました!


総一たちはライラックを離れ、宝石の街ビジュールへ。


この世界へ来て最初に辿り着いたライラックとも、ここでいったんお別れです。


そして、ここからいよいよ「薫を探す旅」が本格的に始まります。


次の舞台は宝石の街ビジュール。


魔王軍が集めているレベルストーンと、この街にどんな関係があるのか。


もちろん、総一たちの旅が何事もなく進む……はずもありません(笑)


次回も読んでいただけると嬉しいです!

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