第13話 新たな仲間
第13話です。
総一の連絡を受け、ライラックへ戻ってきたシンとサリー。
そして今回は、新たな人物も加わります。
魔王軍ライラック支部を前に、総一たちはどう動くのか。
それでは、お楽しみください。
ライラックへ戻った総一は、そのまま宿へ向かった。
森から戻ってきた時には、すでに日が傾き始めていた。
身体は平気だったが、さすがに腹は減っている。
宿の食堂で簡単な食事を済ませると、総一は部屋へ戻り、椅子に深く腰を下ろした。
目を閉じると、頭の中に魔王軍支部の光景が浮かぶ。
数百体の魔族。
大幹部バリオス。
人間に姿を変えて街へ入り込むダイア。
そして、どこにいるのか分からない魔王ダグラス。
「簡単じゃないな」
独り言を漏らす。
薫が生きている。
それだけは分かった。
だが、居場所までは分からない。
バリオスですら魔王の居場所を知らないとなれば、ここを潰しただけで薫へ辿り着けるわけではない。
それでも、ライラック支部を放置する選択肢はなかった。
街にはすでに魔族が潜り込んでいる。
総一自身も探されている。
ここを残せば、いずれ誰かが巻き込まれる。
「まず目の前から、か」
そう呟いた時、窓の外から馬の蹄の音が聞こえてきた。
それも一頭ではない。
総一は立ち上がり、窓から通りを見下ろした。
三頭の馬が勢いよく宿の前へ止まる。
先頭から降りたのは、見覚えのある少年だった。
「やけに早いな」
総一は少しだけ笑った。
◇
「総一さん!」
一階へ降りると、シンが真っ先に駆け寄ってきた。
その後ろにはサリー。
そして、もう一人。
大柄な男が立っていた。
三十歳ほどだろうか。
短く刈った茶色の髪。日に焼けた顔には細かな傷がいくつもあり、腰には片手剣。
背には、身体の半分以上を覆うほどの大盾を背負っている。
「思ったより早かったな」
「王都へ着いた直後に総一さんから連絡が来ましたから」
シンは少し息を弾ませながら答えた。
「陛下へすぐ報告しました」
「王様は何て?」
「魔王軍支部の発見は重大事だと」
シンの表情が引き締まる。
「それと、正式に命を受けました」
「命?」
「魔王ダグラスを倒すように、と」
総一は少しだけ目を細めた。
勇者として当然の命令なのだろう。
シンも迷いのない表情で続ける。
「僕も、そのつもりです」
「そうか」
「ただ、陛下からは一人で無茶をするなとも言われました」
そこでシンが横へ視線を向けた。
「紹介します」
「王国騎士団のナバルさんです」
大柄な男が一歩前へ出る。
「ナバルだ」
低く落ち着いた声だった。
「王命で勇者殿に同行することになった」
差し出された手を総一も握る。
「田端総一だ」
「話は聞いている」
「どこまで?」
「魔王軍支部を見つけた変わった冒険者がいる、と」
「変わったは余計だな」
ナバルの口元がわずかに緩んだ。
「俺もそう思う。だが、普通の冒険者は数百体の魔族がいる場所へ一人で入らんからな」
「運が良かったんだ」
「なるほど」
明らかに信じていない顔だった。
サリーが隣で小さく笑う。
「総一さんはいつもそう言います」
「サリーまで余計なこと言わなくていい」
「ふふっ」
ナバルは大盾を壁際へ立てかけると、椅子へ腰を下ろした。
「まあいい」
「俺の仕事は勇者殿を守ることだ」
「妻と娘が家で待ってるんでな。死ぬ気はない」
「妻子持ちか」
「まあな。だから無茶をする若者を止める役も俺らしい」
ナバルがシンを見る。
「ちゃんと聞いたか、勇者殿」
「はい」
「返事だけはいいな」
総一は少し笑った。
堅苦しい騎士かと思ったが、どうやら話しやすい男らしい。
「酒があればもっと話も弾むんだがな」
「これから魔王軍支部に行く人間の台詞か?」
「だから飲まんと言ってる」
「言ってないだろ」
「心の中では言った」
「面倒な男が増えたな」
「お互い様だ」
サリーがまた笑った。
短いやり取りだったが、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
◇
四人は宿の一室へ移った。
総一は机の上に紙を広げ、炭筆を手に取る。
「絵は得意じゃない。そこは我慢しろ」
「何を描くんですか?」
「中の地図だ」
シンの目が丸くなる。
「覚えてるんですか?」
「だいたいな」
総一は迷いなく線を引いていく。
入口。
物資搬入用の通路。
倉庫。
食料庫。
魔石保管庫。
宿舎。
会議室。
全て正確とは言えないが、歩いた場所はほぼ頭に入っていた。
ナバルが紙をのぞき込む。
「……本当に一人でここまで見てきたのか?」
「だから運が良かったんだよ」
「便利な言葉だな、それ」
総一は無視して続ける。
「中には数百体いる」
シンの表情が強張る。
「数百……」
「ただし全員が戦闘員とは限らない」
「物資を運んでる奴もいれば、街へ潜入するための奴もいる」
ナバルが腕を組む。
「指揮官は?」
「バリオス」
総一は紙の奥を指差した。
「大幹部らしい」
「大幹部……」
シンが息を呑む。
「強いのか?」
ナバルが尋ねる。
「たぶんな」
「たぶん?」
「気配だけなら、この前の連中とは比べ物にならない」
シンの顔がさらに険しくなる。
総一は続けた。
「それと、あいつらは俺を探してる」
「総一さんを?」
「そうなんだ」
「薫と一緒にいた男の正体が分からないらしい」
ナバルが総一を見る。
「何をした?」
「何も」
「本当か?」
「俺は善良な冒険者だ」
「そこまで言うと逆に怪しいな」
サリーが困ったように微笑んだ。
「でも、総一さんが狙われているなら危険ですね」
「まあな」
総一は紙へ視線を戻す。
「だから大人数で行くのはまずい」
「なぜです?」
「結界の入口は狭い」
「大部隊で近づけば、中に気付かれる可能性もある」
ナバルが頷く。
「奇襲か」
「そういうことだ」
総一は四人を見回した。
「今回は俺たちだけで行く」
シン。
サリー。
ナバル。
そして総一。
四人だけ。
「総一さんはどうするんですか?」
シンが尋ねる。
「俺はバリオスを見る」
「戦うんですか?」
「必要ならな」
答えはそれだけだった。
ナバルがじっと総一を見る。
何か言いたそうだったが、結局口にはしなかった。
「俺は勇者殿とサリーを守る」
「頼む」
「大幹部を一人で見ると言った男に頼まれるとはな」
「見るだけかもしれないだろ」
「そういうことにしておく」
シンは剣の柄へ手を置いた。
「僕は中の魔族を相手にします」
「無理はするな」
「はい」
「返事だけはいいらしいぞ」
ナバルが横から言う。
「ナバルさん!」
「冗談だ」
総一は紙を折り畳んだ。
「日が落ちるまで休む」
「動くのは夜だ」
◇
夜。
四人はライラックを出て、静かな森の中を進んでいた。
月明かりだけが木々の間から差し込み、足元を淡く照らしている。
やがて総一が立ち止まった。
「ここだ」
目の前には、ただの森しか見えない。
シンは辺りを見回した。
「……何もありません。」
「見えないだけだ」
総一は短く答える。
ナバルが腕を組んだ。
「ここに魔王軍支部があるのか。」
「ああ。」
総一は何もない空間を見つめる。
その向こうには数百体の魔族。
そして、大幹部バリオスがいる。
ナバルが総一へ視線を向けた。
「一つ聞いていいか。」
「何だ。」
「どうやって中へ入る?」
シンとサリーも総一を見る。
三人の視線を受けながら、総一は小さく笑った。
「心配するな。」
「ちゃんと入れる。」
そう言って、ゆっくりと結界があるはずの場所へ歩き出す。
三人も無言で後に続いた。
総一は立ち止まり、静かに右手を前へ伸ばす。
その手が何もない空間へ触れようとした、その瞬間。
総一は小さく口を開いた。
「さて……。」
第13話を読んでいただき、ありがとうございました!
新たな仲間、ナバルが加わりました。
妻と娘が待っているので「死ぬ気はない」と言い切る、ちょっと現実的な騎士です(笑)
そして総一、シン、サリー、ナバルの四人で、いよいよ魔王軍ライラック支部へ。
問題は、どうやって結界の中へ入るのか……。
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