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偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜  作者: 夏野みず


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9/12

自由と空虚

 三者面談からさらに半年が経過した。


 季節は冬から初夏へと移り変わっていた。私の生活は、あのボロアパートを出て以来、驚くほど安定していた。得た慰謝料はすぐに資産運用に回し、堅実なパート生活を続けている。私は孤独だが、その孤独は自由という名の静寂に満ちていた。


 私は職場近くの少し設備の良いアパートに引っ越した。静かで日当たりが良く、何よりも隣人との煩わしい交流がない。


 ユースケとユリエから受けた精神的な傷は、時間が癒してくれるわけではない。だが、彼らが味わった絶望の深さを知るたびに、私の心は満たされていった。


 ユリエの動向について、私はもう気にしていなかった。娘の貯金を失ったものの、彼女は実家に戻って母親の監督下で生活している。親権も守られた。彼女は経済的な打撃を受けたが、娘という未来と、実家という居場所は守り抜いた。彼女の最大の罰は、愛するユースケを自分の手で切り捨てたことだ。彼女の人生はやり直せるだろう。


 そして、ユースケ。彼の情報は、私が最後に残した「監視の目」から時折もたらされた。


 彼は、あのボロアパートに一人残された。再就職は絶望的だ。鳶職の業界は狭く、不祥事による諭旨解雇の噂はすぐに広まる。日雇いの仕事でどうにか生活しているようだが、それも不安定だという。


 そして、私の最後の復讐の仕上げが、静かに進んでいた。


 私は、彼の生活を直接見に行くことはしなかった。ただ、あのボロアパートの大家に、匿名で連絡を入れたのだ。


「二階のユースケさん、家賃の支払いが遅れがちではありませんか。最近、昼間からひどい声が聞こえるという苦情もあります」


 大家は私の問いに驚いた様子だったが、すぐに渋い声で認めた。


「実は、今月も少し遅れていましてね。仕事もあまりしていないようで、部屋で一日中飲んでいるようです」


 私はそうだろうと思った。ユースケには、もう誰からも愛されていないという事実以外、何も残されていない。仕事も、愛も、そして私という「情」も。残ったのは、孤独と、狭い部屋の壁だけだ。


 さらに数ヶ月後、私はパートの帰りに偶然、あのボロアパートの近所を通った。

 アパートの前に、粗大ゴミが山積みになっている。


 古いテレビ、使い古されたボロボロのソファ、そして埃をかぶったダンボールの山。その中に、見慣れた作業着の一部が雑多に詰め込まれていた。


 そして、彼の部屋の窓には、「空室」の貼り紙が貼られていた。


 私は足を止めた。ユースケは、あの部屋からも出て行ったのだ。家賃の滞納か、あるいは大家に追い出されたのだろう。


 彼は、自分が住んでいた唯一の居場所をついに失った。私が差し押さえを脅した時、彼が「それを取られたら、俺はもうここで生活できない!!」と叫んだ、あの生活の全てが、ゴミとして外に放り出されている。


 私は冷たい笑みを浮かべた。彼の絶望の深さを想像した。愛する女に見捨てられ、仕事も失い、たった一つの居場所すらも維持できなかった男。彼は今、どこにいるのだろう。日雇い労働者のドヤ街か、あるいは駅の地下道か。


 私の復讐は、私の手を汚すことなく、彼の人生を塵に変えた。


 私はスマホを取り出し、弁護士に最後の連絡をした。


「ユースケさんの居所が不明になりました。今後の慰謝料に関する債務の追及は、彼の再起を完全に潰すことになります。もう追及は結構です」


 弁護士は驚いたようだったが、私の指示に従った。


 これで、ユースケは完全に社会の底へと沈んだ。私は彼を、存在しない者として、自分の人生から抹消したのだ。


 私アイナは彼を裏切り、彼を見捨て、彼の人生の全てを奪った。しかし、私は今、清々しいほどの自由を手に入れている。

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