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偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜  作者: 夏野みず


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静かなる追撃

 私はアパートを出た。ユースケはまだ部屋にいたが彼は私を引き留めることはしなかった。ただ呆然と座り込み自分の全てが崩壊した現実を受け入れているようだった。


 離婚届は役所に提出した。これで法的にあの人との関係は断ち切られた。


 私が次の住まいとして選んだのは職場に近い別のボロアパートの一室だ。築年数は古いけれど日当たりは良くあの暗い六畳間とは比べ物にならないほど清々しい。


 新しい生活は驚くほど静かだった。隣人の諍いもなくユースケの帰りを待つ不安もない。私はパートの時間を増やし弁護士と連絡を取りながら慰謝料の請求手続きを進めた。


 ユースケの状況は弁護士を通じて知ることができた。案の定彼は諭旨解雇され再就職は困難を極めているという。鳶職の業界は狭い。一度不祥事で名を売れば居場所はない。


「彼は現在貯金を切り崩して生活しているようです。慰謝料の一括払いは難しいでしょうね」


 弁護士は冷静に言った。


「構いません。分割でお願いします。ただし支払いの遅延は一切認めません」


 私はきっぱりと伝えた。彼が毎月私の存在を思い出し苦痛を感じ続ける。それが私の望む真の慰謝料だ。


 次にユリエの動向だ。アパートを後にする前私は一階のユリエの部屋から引っ越し業者のトラックが来るのを目撃していた。


 ユリエは娘を連れて実家に戻ったのだろう。彼女の母親からの圧力は相当なものだったはずだ。シングルマザーとしての信用を失い大切な子どもを失うかもしれない恐怖。彼女は私に屈したのだ。


 しかし私はユリエをこのまま放置するつもりはなかった。


 ユリエは実家に戻った後も地元の小さな工場でパートを始めたらしい。私は彼女の職場を特定した。そして彼女の職場に匿名の手紙を送りつけた。


『貴社のパート従業員ユリエは既婚男性との不貞行為によりその男性の家庭を崩壊させました。娘を育てながらの不倫行為は社会人として倫理的に問題があると考えられます』


 手紙には証拠のLINEやボイスレコーダーのデータは添付しなかった。ただ疑惑を振りまく。それが目的だ。


 ユリエは実家に戻ったことで一旦は安全な場所に逃げ込んだつもりでいるだろう。だが私は彼女がどこへ行こうと「裏切り者」の烙印を押し続ける。


 数日後ユリエのSNSアカウントが非公開になった。そして彼女の勤務先の工場の採用情報が頻繁に更新されるようになった。


 私の仕掛けた毒が効き始めたのだ!!


 私は次の行動に移った。ユースケへの精神的な追撃だ。


 彼は離婚後もあのボロアパートに一人で住んでいる。その部屋はかつて私たちが「愛の城」と呼んでいた場所だ。今は孤独と絶望が充満しているだろう。


 私はユースケが以前使っていたSNSのアカウントを監視していた。彼は新しいアカウントを作りそこに時折短い独り言のような投稿をするようになっていた。


『もう疲れた。どこにも居場所がない』


『アイナ……お前を恨む』


 私はその投稿の一つに偽のアカウントからコメントを書き込んだ。


『ユースケさん。自業自得ですよ。奥さんを裏切った報いですね』


『奥さんは今幸せに暮らしていますよ。新しい恋人とも順調みたい』


 嘘だ。私はまだ新しい恋人など作っていない。だがこの嘘が彼をどれだけ苦しめるか想像すると私の心は満たされた。


 彼はすぐにそのコメントを削除しアカウントを非公開にした。しかし私の言葉は確実に彼の心に突き刺さったはずだ。


 私は窓の外の青空を見上げた。これで彼ら二人は社会的な居場所を失い孤独と後悔に苛まれている。


 だが復讐の最終段階はまだ残っている。慰謝料の支払いが滞り始めた時が私の最後のトドメを刺す時だ!!


 私は静かに微笑んだ。私を裏切った代償は一生かけて払ってもらう。

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