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竹柵に固定された風車が一斉に回った。身体にじわりじわりと染み込んでいくような熱気の中、町内会の連中は鉄板で肉を焼き、一皿二百円と声を張り上げた。
いつもは蝉ばかりが集まる寂れた境内が、村中の人で賑わっていた。
喧騒が熱気と混じりあい、一種独特な高揚感が空間に満ちている。初日ということもあって、鳥居から拝殿に続く石畳の両側には、屋台がずらりと並んでいた。
祭囃子が途切れることなく響いていた。鳥居近くの石の上に腰を下ろした私の前を、浴衣に身を包んだ人々がゆったりと通り過ぎていった。
律ちゃんとの待ち合わせ時刻はとうに過ぎていた。お洒落に人一倍気を遣う彼女は、母親が結った髪型が気に食わず、自分で結いなおしているのだった。すぐに向かうから先に回っといて、と連絡がきたのはつい数分前のことだった。
私は目の前の屋台で買った水飴を口に含んだ。水飴は食べ方が汚い、と母が嫌っているから、祭りの時でもないとありつけないのだ。
甘く透明な飴は口から垂れ、足元に落ちた。片方の足を持ち上げると、地面と下駄を飴が繋いだ。
朝顔の浴衣を私が渋々着終わったとき、離れの部屋にお前さんはいなかった。背表紙を揃えるようにして几帳面に本が積み重なっていたが、布団は敷いたままだった。
布団に触れると、冷え切っていた。
母屋に戻って尋ねると、母は肩を竦めて「あの人とまた植物を見にいったんじゃない」と言った。母の後ろで、一人の女中が含みのある笑みを浮かべていた。一番の噂好きで、お前さんが来たときにもあれやこれやと問い詰めた女中だった。
私は浴衣が崩れぬよう立ち上がり、手水舎へ向かった。粘ついた手を濯ぎ、ついでに下駄にこびりついた飴を洗い流す。黒い水面を鏡代わりにして、髪を纏める簪があるべき場所にあることを確認した。
この簪によく似合うであろう藤の浴衣は、箪笥のどこにも見当たらなかった。
祭囃子が途絶えた。手水舎の向こうに、一組の男女が見えた。男は女の腰に手を回していた。履き慣れぬ下駄で足を痛めた女を、男が支えているようだった。女の豊かな黒髪を纏める簪が揺れていた。男の横顔が見えた。
女の浴衣は藤の柄だった。
どうして、と声に出していた。私は男女の目の前に立っていた。男が頬を引き攣らせたように見えた。提灯の明かりの下で、男はやけに老けたように私の眼に映った。女が私に向かって一歩近づいた。紅を引いた唇が艶やかだった。離れて、と私は言った。女は首を傾げて、口元に微かな笑みを浮かべた。
私は腕を伸ばして女の簪を抜き取り、力を込めて叩き折った。




