24話: 聖女の初陣④ 本領発揮
「私が死なせません!!」
気づいた時には、指揮官たちの前で啖呵を切っていた。
静まり返る作戦室。驚愕に目を見開く公爵と、貴族たち。
(……あ、やってしまった)
一瞬の沈黙。けれど、一度口から出た言葉を繕うつもりは毛頭なかった。
「失礼します!」と言い放ち、私は作戦室を飛び出した。ちゃっかり魔力回復薬の1箱を抱え、逃げるように傭兵隊の救護所へと急ぐ。
辿り着いたそこは、まさに戦場だった。
「包帯を早く!」「魔力回復薬が底を突いたぞ!」「その人はもう……諦めるんだ!」
悲鳴と怒号が飛び交い、テントに入りきらない負傷者が地面にひしめいている。
「ちょっと! ぼさっと立ってないで、邪魔だよ!」
「すみません!!」
走り回る水属性持ちの治療班に怒鳴られ、私は自分に喝を入れた。
(そうだ、呆けてる暇なんてない。助けに来たんだ!)
私は大きく息を吸い、周囲に回復魔法を放った。
最大出力の範囲回復魔法。柔らかな光の粒子が、雪のように負傷者たちへ降り注ぐ。
「なんだ、この光は……」
「傷が、塞がっていくぞ!?」
驚愕の声が上がるが、まだ終わりじゃない。今のでは治し切れなかった重傷者がまだいる。私は真っ先に、死の匂いが最も濃いテントへと飛び込んだ。
鼻を突く鉄錆の臭い。
隅では、青い髪の治療班の少女が、青ざめた顔で一人の男の手を握っていた。
男は右腕と左脚を失い、死の淵にいた。少女は魔力が枯渇しかけているのに、必死に回復魔法を注ぎ続けている。彼女が手を離せば、この男は即座に絶命するだろう。
「もう大丈夫。代わるわ」
絶望に沈む少女の手ごと、男性の手を包み込んだ。リリアージュに教わった、高純度の光魔法に聖魔法を上乗せする方法で魔力を押し込む。
(間に合って……お願い!)
――眩い閃光のあと、男性がゆっくりと目を開けた。
「……俺は、死んだのか? 天使様が見える……」
「おい、お前……手が!脚も……!」
そこにあるはずのなかった手足までもが再生しているのを見て、テント内に野太い歓声が爆発した。「奇跡だ」「聖女様だ」と拝む人たちを背に、私も驚く。
(欠損した手脚が……こんなことまでできるの…!?…いや、驚いてる暇はない!)
全員助ける。覚悟を決めた私はテント内を見渡して叫ぶ。
「次! 重傷者は誰ですか! !」
「赤い札が重傷者です!!」
青い髪の少女が目に光を戻して答えた。
「分かった!ありがとう!!」
私は赤い札を優先的に、片っ端から治療を施して回った。
重傷者のテントを3つ回りきったところで、ようやく探していた背中を見つけた。
「ヴォ……シルベール隊長!」
中傷者の手当てをしていたヴォルク様が、驚愕に目を見開く。
「なぜここに!?」
「救護班ですから当然です。それより、隊長の怪我を――」
背中の傷も心配だが、右腕にも包帯をしている。傷に触れようと手を伸ばすと、彼はそれを制した。
「俺は後でいい。先に彼らを治療してはくれないだろうか?水属性では傷を塞ぐのが精一杯だ。」
と隣で苦しむ患者を示した。
「もちろんです、でもまずは隊長の怪我を…」
「俺は大丈夫だ。彼らを頼む。次は隣のテントに来てくれ。」
彼は自身の傷など一顧だにせず、テントの出口へ向かう。
「シルベール隊長!? その怪我でどこへ!?」
「次の患者の治療だ」
そう言い残して、彼はテントから出ていってしまった。
(貴方も患者なのですが!?)
きっと全員の治療が終わるまで、自分のことは後回しにするつもりなのだ。
(もう!!全員治してすぐに向かいますから!)
こうなったら最速で治療してみせる。私は腹を括り、残り2本になった魔力回復薬を1本一気に飲み干し、テントの真ん中に立った。
降り注ぐ光の粒に歓声が上がる。
「治ったぞ……!」「聖女様、万歳!!」
背後から響く歓喜の声を置き去りにして、私は全てのテントを爆速で駆け回った。
*
全てのテントを回り切った私は、ヴォルク様を探す。治療班の方に聞くと、「隊長なら隊長室に戻られた」と教えてくれた。
息を切らしながら、私は隊長室のドアの前に立つ。
まだ治療していない患者は、あと1人。一番傷だらけな英雄だけだ。
――私は一呼吸おいて、力強くノックをした。
水属性も回復魔法が使えます。
光属性や聖女は非常に稀なため、基本的には水属性持ちがヒーラーを担います。




