23話:聖女の初陣③ 逆鱗
キャンプ地に引きあげた私は、ひっきりなしに運び込まれる負傷者の治療に追われていた。
魔物に立ち向かった名誉の負傷から、逃走中に転んだだけの擦り傷まで、大小さまざまな傷をまとめて範囲回復で癒やしていく。
「おお、一度にこれほどの人数を……! さすが聖女様だ!」
驚嘆の声を上げる隊員たちを横目に、私の頭からはここにいる誰よりも重傷だったヴォルク様の背中が離れない。
聖女様の功績を報告する、と言って半ば強制的に本部の作戦室へ連れて行かれた私だったが、そこで現在の戦況を耳にする。
「魔物は掃討できましたが、傭兵隊の被害が深刻です」
「なぜ、事前にワイバーンの接近を察知できなかった?」
「探知をすり抜ける特殊な個体だったようで…。持ち場を片付けた傭兵隊が異変に気付き対処しましたが、全隊での移動は間に合わず、戦力が分散したのが痛手となりました」
(ヴォルク様の隊だ……!すぐに治療に行かないと!)
一刻も早く、恩人達を助けに行かなければ。そう決意した時、部屋の主たちと目が合った。
「シルベール総隊長閣下、聖女様をお連れしました」
案内役の貴族が恭しく頭を下げる。
私もそれにならい、静かにカーテシーを捧げた。
「聖女殿、ワイバーンの被害を最小に食い止めたと聞く。見事であった。褒美を考えておくように。」
総大将であるシルベール公爵の言葉に、私は今まさに「欲しいもの」を答えた。
「恐縮です、総隊長閣下。では……魔力回復薬の支給と、持ち場を離れる許可をいただきたく存じます」
「持ち場を?何のためだ」
困惑する公爵の目を、私は真っ直ぐに見据えて言い切った。
「傭兵隊の治療に参加させてください。」
――ざわり、と空気が揺れた。
「聖女様。あのような連中に、貴方の貴重な魔力を割く必要はございません。放っておけばよろしい。」
その言葉の主は、先ほどその傭兵隊に命を救われたはずの貴族だった。
聖女の奇跡を平民の傭兵に使うなど勿体ない、と彼は平然と言ってのける。ならば、と私は言葉を返した。
「傭兵隊には…公爵令息であるシルベール隊長もいらっしゃるではありませんか」
これで黙るかと思ったが、現実は逆だった。
「あのような悪魔の憑き物に、聖女の力などそれこそ不釣り合いだ!」
「いつ死ぬか分からぬ者を治したところで、何の意味がありましょう」
(なんで……あなた達はそのヴォルク様に助けてもらったくせに……!それに、公爵様の前でもこの反応なの…?)
怒りで視界が震える。さらに信じがたいことに、父親であるはずのシルベール公爵は、息子を侮辱する言葉を止めもせず、無関心に地図を見つめているだけだった。
「どうか許可を。」短く突き放すように言おうとした私の耳に、聞き捨てならない言葉が飛び込んできた。
「あの死に損ないめ、呪いと共に消えていればよかったものを……」
――ぷつん、と。
頭の中で、何かが弾ける音がした。聖女に解けなかった未知の呪いがそんなに恐ろしいか。
今まさに命を救われた「事実」を無視するほどに、その偏見は重いのか。
「シルベール公爵令息は、死にません」
気づいた時には、指揮官たちの前で一歩踏み出し、啖呵を切っていた。
「いいえ、私が死なせません!!」
聖女として、貴族令嬢としての仮面が剥がれ落ち、剥き出しの意志が言葉になって部屋に響き渡った。
なぜこんなにも呪われた過去が疎まれるんでしょうかね?




