22話:聖女の初陣② 捨て身の守護者
討伐隊の参加者には、私の他にも光属性の術者が2人いた。
1人はステラさん。彼女は基地に残る。そしてもう1人は、今年騎士魔道部を卒業したばかりの先輩、マリアベルさんだ。
「聖女様、そんなに緊張なさらなくて大丈夫ですよ」
「あ、あの、よろしければアリナと呼んでください、マリアベル様!騎士魔道部のエースだった先輩とご一緒できて光栄です!」
「ふふ、可愛い後輩ね。私も「様」は要らないわ。よろしく、アリナちゃん」
憧れの先輩との会話に花を咲かせていた私だったが、ふとヴォルク様の話題を出した瞬間、先輩の表情が曇った。
「……その方の名前は、ここでは出さない方がいいわ」
「えっ?」
不思議に思う間もなく、周囲を固めていた取り巻きの貴族たちが、吐き捨てるように言葉を被せてきた。
「聖女様、あの『死神』と面識がおありなのですか!?」
「死神……?」
「ご存知なかったのですか!それは仕方のない……あのヴォルク・シルベールという男、呪いで死ぬ運命だったところ、ある日突然解けたと言って戻って来たのです!不気味極まりない!」
1人がそう言って、喜ばしいはずの解呪をまるで悍ましいもののように語る。周りの者たちも次々に同調し始めた。
「聖女リリアージュ様にも解けなかった呪いが解ける訳ないだろう!」
「それに、その呪いを誰が解いたか分からないと言うのです。悪魔に魂でも売ったに違いありません!」
「いや!奴こそが悪魔か死神が成り代わった姿に違いない!」
「呪いが再発する可能性も、感染る可能性もありましょう。聖女様もあまりお近づきになりませんように。所詮、死に損ないですからな」
「それに奴は、悍ましい闇魔法も使うとか。魔物と同類。危険です!」
次々と投げつけられる根拠のない悪評。彼らの瞳には未知への恐怖と、異質なものを排除しようとする正義が宿っている。
闇魔法については知らないが、ヴォルク様から呪いの気配を感じたことはない。誰が解いたかは知らないが、完全に解けているだろう。
「…シルベール隊長から呪いの気配はしません。感染ることなどないでしょう」
そう伝えると、
「呪いを隠して聖女様に近づくなんて……!やはりもっと忠告を広めねば…!」
と間違った方向で意気込んでしまった。
(はぁ、話が通じない…)
先ほどから自分の話ばかりの彼らには、都合の悪い話は聞こえないようだ。
「そろそろ魔物が出る場所ですかね?」
無理矢理話題を切り替えて、討伐に集中を向けた。
*
貴族隊の担当区域に現れる魔物は、レベル20程度の個体ばかりだった。
一般的にレベル50前後の成人貴族なら、余裕で対処できる相手だ。念のため周囲に『聖域』を展開し、闇属性ダメージを無効化しながら戦況を見守る。
取り巻きにガチガチにガードされている私は、攻撃に参加する機会もなく、正直退屈していた。
だが、撤収の合図が鳴ろうとしたその時。
鼓膜を震わせる咆哮と共に、空を裂いて「それ」が現れた。
「ワイバーンだ!!」
「レベル50超えだと!? なぜこんな場所に……っ」
貴族たちの顔から血の気が引く。本来この区域にいるはずのない高レベルの個体だった。
ワイバーンが黒い炎を吹き下ろす。聖域が闇の炎を相殺するが、物理的な衝撃波までは防ぎきれず、陣形がバラバラに崩れた。
「ひっ……助けてくれ!」
「陣形を崩すな!」
パニックに陥る現場。何かを探すように空を滑空していた3体のうち1体が、私を標的に定め急降下してきた。
(まずい、光の壁を……! でも『聖域』に意識を割きすぎてて、強度が足りない!)
衝撃を覚悟し、ぎゅっと目を閉じた瞬間。
大きな影が、私の前に割り込んだ。
――ガギィィィィィィィンッ!!
不快な金属音が響く。
「無事か!」
「ヴォルク様!?」
間に割り込んだのはヴォルク様だった。人の頭より大きいワイバーンの爪を剣と背中で受け止め、そのまま流れるような動作で怪物の脚を叩き斬る。
けれど、こちらに向けた背中には生々しい爪の跡が刻まれていた。
「背中……!血が……!」
「聖域を解くな!」
聖域を解き、回復魔法をかけようした私を、ヴォルク様の一喝が止めた。
「でも……!」
彼の背からは今も鮮血が流れているのに、その瞳は冷徹に戦況を見据えている。
「貴族隊の撤退が済んでない、ここから離れたら聖域は何分持つ?!」
「この広範囲だと10分くらいしか……」
「十分だ、撤退しろ!」
「私も戦えます!」
「ダメだ!キャンプ地に戻れ!隊長命令だ!」
そう言うとヴォルク様は私と周囲で腰を抜かしていた取り巻き達を風の魔法で後方に送る。
「ヴォルク様!その怪我じゃ……!」
必死で治療を訴えるが、彼の耳には届かない。
(せめて聖域だけは……!)
私はありったけの魔力を絞り出し、彼が戦うこの場所に固定式の『聖域』を設置した。
遠ざかる視界の中、彼は再び黒い炎の渦へと飛び込んでいく。
ワイバーンの攻撃を避けようともせず、一直線に距離を詰める戦い方。
(なんで……あんな……自分を粗末にするような戦い方を……?)
私たちに何よりも防御を優先に教えてくれた彼の、あまりに矛盾した、守りを捨てた苛烈な剣。
何もできない無力感に苛まれながらも、私はただ、傷だらけになっていくヴォルク様の後ろ姿を見ていることしかできなかった。
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