20話:悪役不在の世界でストーリーを動かせ!
学生生活とレベリングを謳歌していた私だが、もちろん魔王討伐を忘れたわけではない。
リリアージュの聖書とゲームの内容を照らし合わせ、情報を整理していた私は、ある重大な問題にぶち当たっていた。
(『破魔の聖剣』はどうやって入手すればいいんだろう……?)
ゲームではリリアージュが、小説版では「悪役聖女」である私が呼び寄せる魔物がドロップする破魔の聖剣。闇属性特効を持つその剣は、魔王討伐に必須のキーアイテムだ。
しかし、お互いを害する気など毛頭ない今、魔物を呼び寄せるはずの「悪役」がこの世界には存在しない。
(そもそも、王都にどうやってあんな強力な魔物を呼び寄せたっていうの?)
ここは警備隊も騎士団も目を光らせる国の首都だ。
ゲームの中ボス級の個体を、よりによってアレン様の目の前に出現させられたのはなぜか。
(協力者がいた? でも、接触のトリガーは何……?)
「……聖女の対立を望む『誰か』がいる?」
ポツリと漏れた呟きだったが、口に出してみれば、それは妙に現実味を帯びた可能性に思えた。
*
「アレン様。好きになってもいいですか?」
「……一体、何を企んでいるんだい?」
今日は珍しく、生徒会室でアレン様と2人きり。
願ってもない好機に、私は昨日練り上げた作戦の実行を宣言した。
何故王都にあれだけのレベルの魔物が現れるのかは、一晩考えても分からなかった。
なので私は、「小説のシナリオを無理矢理進める」という作戦に出ることにした。
ゲームでも小説でも魔物を呼び寄せるのは、アレン様に選ばれなかった方の聖女――つまり、今は私だ。この世界で「悪役」の役回りを押しつけられている私が、「アレン様を狙っている」という噂をあえて流す。そうして接触してくる不穏な人物がいないか炙り出し、あわよくば破魔の聖剣の在り処を突き止める。これが私なりのストーリーの進め方である。
「企むなんて心外な。アレン様の魅力に気づいただけですよ?」
「なぜだろう、愛の告白には1ミリも聞こえないんだが……」
「失礼な! 私にだって好きな人の1人や2人くらい、いますよ!」
振り返れば前世含めて思い当たる節はなかったが、今は横に置いておく。
「それに、私にはリリアージュがいる」
「そんなこと知っていますよ。ちゃんとリリアにも話しておきますから」
「なぜリリアージュにまで……?」
「心配させないためですよ」
当然だと言わんばかりに答える。
リリアが「アリナが本気で王子に惚れた」と勘違いして、心を痛めては困る。王子への宣言を終えたら、真っ先に彼女へ種明かしをするつもりだった。
「……本当に、何を企んでいるんだい?」
「ですから、アレン様の魅力に気づいたんですって! それでは、失礼します!」
納得いかなそうな王子の視線を背中に浴びながら、私はリリアを探して生徒会室を飛び出した。
*
彼女は図書館で自習をしていた。
数冊の本を傍らに置き、真剣にページをめくるリリアージュの姿を見つける。
「リリア」
正面に座り、小声で呼びかける。
「あら? アリナちゃんも調べ物?」
顔を上げた彼女が微笑む。
周囲を確認すると、リリアとお近づきになりたい生徒たちが、遠巻きにこちらを伺っていた。
(噂を広めるには、最高のシチュエーションね)
私は、わざと周囲に聞こえるよう、少しだけボリュームを上げて言った。
「ねぇ、リリア。アレン様を私に譲ってくれない?」
「えっ!? な……んで……っ」
驚愕に目を見開くリリアージュ。
説明なしにぶち上げた茶番は、彼女のあまりに純粋なリアクションによって、恐ろしいほどの説得力を帯びていく。
周囲に戸惑いの波紋が広がるのを見届けた私は、リリアに折り畳んだ紙を差し出した。
『あとで説明するから生徒会室に来て!』
中身を確認したリリアが小さく頷いたのを見届け、私は足早に図書館を後にした。
*
「アリナちゃん、さっきの話って……?」
「大丈夫、本気で譲ってなんて思ってないから! 安心して!」
生徒会室へ戻ってきた彼女に、私は全力で弁明した。
昨日一晩考えても、まともな説明は思いつかなかった。結局、予言の書とされている『リリアージュの聖書』にそう記されていた、という理由で押し切ることにする。
「聖書に……? ということは、アリナちゃんもアレン様を好きになっちゃうの?」
「あんなに仲睦まじい2人の間に割って入る気はないよ! アレン様は素敵だけど、リリアに勝てるわけもないしね」
(というか、もしアレン様を落としでもしたら、『魅了をかけた』として断罪コース一直線だもの……)
想像した未来の光景に身震いする。
「これで、魔王討伐に必要な武器が手に入るかもしれないの。少しの間、不安にさせてごめんね?」
リリアを宥めていると、ちょうど彼女の迎えがやってきた。
1人になり、寮へ向かいながら私は『破魔の聖剣』を落とす中ボスの攻略情報を思い出す。
(ボスのレベルはどれくらいだったっけ。……やっぱり、強力なアタッカーが欲しいな)
リリアにこれ以上の不安を感じさせないためにも、一刻も早く剣を手に入れたい。
王都への魔物運搬ルートを突き止め、できれば街へ運び込まれる前に叩く――。
「さあ、来い!魔物でも、協力者でも!」
夕闇を溶かし込み始めた空の下、私は1人、固く拳を握りしめた。
読んでいただきありがとうございます!
少しでも続きが気になると思ったら、ブックマークなどで応援よろしくお願いします!!




