19話:討伐隊に向けた特別訓練
晴れて討伐隊への参加が決まった私たち4人には、特別な強化練習が割り当てられた。
まず徹底的に叩き込まれたのは、「防御壁」の維持と「逃げ方」だ。
退却命令が出た時や格上の魔物に遭遇した際、逃げ遅れるのが一番の足手纏いになる――。その厳しい現実に、私たちは連日、先輩たちに揉まれることとなった。
「討伐隊の参加中は、魔物の有無に関わらず常に防御壁を張れる状態を目指そうね」
カルティナ先輩が目標を示す。
不意打ちを完璧に防ぐための理想だが、防御壁を常時展開し続けるのは魔力も精神も消耗が激しい。
練習方法は至ってシンプル。部活中、先輩たちから飛んでくる不意打ちの攻撃を防ぐ。ただそれだけだ。
けれど、走り込みの最中も、練習メニューを聞いている間も容赦なく飛んでくる攻撃に、私たちの心は休まる暇もなかった。
メイン講師を務めるのは、ヴォルク様だ。
固有スキルの『クリティカル』で弱点を見抜く彼は、個人個人の苦手な部分を的確に指摘していく。
「君は右後ろがいつも薄い。意識的に強度を上げろ」
「はい!」
「ジーク。どこからの攻撃であっても、せめて3発は耐えろ」
「……はい」
私に課せられたのは、聖女の能力である『聖域展開』の常時展開と、飛んでくる攻撃からの防御だ。
聖域展開は闇属性を無効化する特殊なシールドだが、これを使っている間はどうしても光属性の防御壁が薄くなってしまう。
女神様に入学まで聖属性の使用を制限されていた私は、聖属性をまだ使いこなせていなかった。
「聖属性と光属性の同時使用か……。言い付けを守っていたとは言え、練習できなかったのは痛いや……」
*
週末には、実際に王都の端にある森へ足を運び、レベル10から20程度の魔物と対峙する実地訓練も行われた。私やジーク様はともかく、他の2人は本物の魔物を見るのも初めてで、死に誘う闇属性魔法への恐怖を克服するところからのスタートだった。
次の討伐隊派遣は1ヶ月後の夏休み。
学生の役割は後方支援が基本だが、足手纏いにならないよう、多くの生徒が居残りで練習に励んでいた。もちろん、私もその1人だ。
「アリナちゃん、回復お願い!」
「はーい!」
リリアージュの教えのおかげか、回復魔法の精度は格段に上がっている。
一方で、足元に魔法陣を描くように現れる『聖域』の範囲調整には苦戦していた。
(私の得意は攻撃魔法だけど、討伐隊で求められるのは守りと癒やし。今は我慢してこっちを極めないと……!)
「あれ?1年生?寮の門限までには帰るんだよ、寮生じゃない子もね」
『はい!』
練習終わりの大学部の先輩に釘を刺され、門限ギリギリまで練習を続ける毎日が過ぎていった。
*
そんな中、事件は土曜日の部活中に起きた。
大学部の先輩たちに防御壁を完膚なきまでに叩き割られ、意気消沈していた私たちに、ヴォルク様の厳しい指導が飛ぶ。
「ジーク。攻撃に意識が向きすぎて左後ろがガラ空きだ。集中しろ」
「……」
「ジーク。聞いてるのか」
「……」
ヴォルク様の語気が強くなるが、ジーク様は俯いたまま返事をしない。
しん……と、その場の空気が凍りついた。
2人の間に絶妙な距離感があるのは感じていたけれど、ジーク様が露骨にそれを態度に出したのは初めてだった。
「ジーク。俺にどんな感情を抱いていてもいい。ただ、シルベール家の者として、人前での態度は考えろ」
「……っ」
ヴォルク様の冷徹な一言に、ジーク様が屈辱に震えながら押し黙る。2人の間には、針のむしろのようなピリピリとした沈黙が流れた。
「……とはいえ、常時の防御壁が精神を摩耗させるのは事実だ。疲れもあるだろう。ジーク、手を出せ」
ヴォルク様は渋々差し出されたジーク様の手を取り、自らの手を重ねて何やら小さく唱えた。
すると、ジーク様の身体が僅かに淡い光を放つ。
「これは……?」
「精神を和らげ、眠りを深くするまじないのようなものだ。多少は効果があるだろう」
そう言って、ヴォルク様は私たち3人にも同じように魔法をかけてくれた。
そして、力強い声でこう付け加えた。
「討伐隊への参加には、常に生命の危険が伴う。先輩たちの厳しさも、皆を生かして帰すためだと思って耐えてくれ。――実際の戦場では、何があっても私達が絶対に守る」
その言葉に、私たちは力強く頷いた。ジーク様だけが、まだ複雑な表情で俯いていたけれど。
ヴォルク様の「まじない」の効果はてきめんだった。
その晩、私は今までにないほど深い眠りに落ち、翌朝には溜まっていた精神的な疲労が嘘のように消えていた。
他の3人も同じだったようで、幾分か明るくなった仲間の顔を見て、私は再び練習へと向かう活力を取り戻したのだった。
うみのもずくです!
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