17話:効率的なレベリング※ドMではありません
水曜日の放課後。
部活が休みの私は、生徒会室でリリアと向き合っていた。
「ねえ、リリア。私って、討伐隊に参加することはできる?」
「正式に聖女と認定されればいつでも可能よ。ただ、基本的には高等部を卒業するまでは学業優先が原則ね」
「でも、人の命がかかっている局面もあるでしょう?」
「どうしても聖女の力が必要な時は、国から召喚状が出るわ。けれど聖女は万能ではないし、常に側にいるわけでもない。兵たちが『聖女に頼らずとも戦える術』を持つことも、同じくらい重要なのよ」
リリアの言葉はもっともだった。
「そっか……。ちなみに、正式な認定を受けるにはどうすればいいの?」
「適性検査で聖属性魔法が発現すれば、即座に聖女よ。アリナちゃんは……手続きに少し時間がかかっているみたいだけど、じきに認定されるはずだわ」
「なるほどね。……あ、そういえばアラン様も討伐に行かれることはあるの?」
「アラン様は全軍の士気を高めるために戦地へ赴くことはあるけれど、第二王子が最前線で剣を振るうことは滅多にないわね」
「……その割には、アラン様ってレベルが高くない?」
「経験値は魔物からだけではないもの。対人戦の訓練でも蓄積されるわ」
(……そっか! その手があったか!!)
これまでの人生、レベリングといえば『試練の間』で命がけで魔物を倒すことだと思い込んでいた私には、目から鱗の発想だった。
「リリア! 生徒会メンバーで模擬戦をしよう!」
「えっ、ええ……?」
爛々と瞳を輝かせる私の勢いに、リリアが少し引き気味に頷いた。
*
(すごい……なんて魔力効率なの……!)
演習場で私たちは、たまたま通りかかったジーク様と私、対、アラン様とリリアというチームに分かれて模擬戦を行っている。
アラン様は剣と魔法を使い分ける万能型だが、本領は魔法にあるようだ。その猛攻をジーク様が防ぎ、私がリリアを狙う。
驚いたのはリリアの技量だった。魔力量そのものは私の方が上なはずなのに、彼女の回復魔法は1回あたりの治癒量が私の1.5倍近い。無駄な霧散が一切ないのだ。
(アラン様とジーク様はアラン様が優勢。私の腕負けを考えると、このままではジリ貧…)
「なら……物理で勝負!」
私は身体強化を全開にし、リリアめがけて突っ込んだ。
「ちょっと、待って……! きゃっ!」
リリアの周囲に展開された強固な防御壁を、殴る、蹴る、ついでに全方位から光の矢を浴びせる。
怯えるリリアの表情に少し心が痛むけれど、これも強くなるため。心を鬼にして、壁が最も薄くなった瞬間を見極める。
(ここだ!!)
パリンッ、と涼やかな音を立ててリリアの防御が割れた。私は無防備になった彼女へ大きく拳を振りかぶる。
「リリア!!」
咄嗟に腕で頭を庇うリリアを救うべく、アラン様の意識が完全に彼女へと向いた。
(かかった!)
私の拳はフェイントだ。振り下ろす直前、全ての光の矢の矛先をアラン様へと転換する。
「なっ……!?」
虚を突かれ、アラン様の防御壁に致命的な隙が生まれる。影に潜んでいたジーク様が、その隙間へ正確に木刀を叩き込んだ。
「……ふっ、一本取られたね」
ジーク様の木刀がアラン様の肩に触れ、私の手はリリアの肩を掴んでいる。
「やりましたね、ジーク様!」
手を取り合って喜びを分かち合う。……が、ステータスを確認して私は首を傾げた。
「……防御で防いだ分は、経験値にならないのね…」
「ええ、直接的なダメージが発生していないもの」
「ダメージがないと、回復魔法での経験値も稼げない……うーん。アラン様、私、防御壁を張りませんので、直接攻撃魔法を撃っていただけませんか?」
「……なんだって?」
アラン様とリリアが揃って呆然とする中、私は説明を続けた。
「リリアの回復量を学びたいのです。同じ魔力消費でなぜあれほど治癒するのか、実際に私のHPを減らして、肌で感じて確認したくて。さあ、遠慮なく!」
「いや……しかし、無抵抗な令嬢に攻撃など、紳士としてあるまじき……」
「私のためだと思って! 何卒、全力で……お願いします!!」
ジリジリと詰め寄る私の剣幕に、アラン様は「……分かった、君の熱意に負けたよ」と、苦笑しながらも構えてくれた。
*
「みんな、こんなところにいたんだね。……って、ええええ!? 何してるの!?」
部活終わりのハルト様が駆け寄ってくる。
彼の視界に入ったのは、アラン様の攻撃魔法を生身でボコボコと受け続け、あろうことか「もっとです!」と笑顔で叫ぶ私の姿。そして、それを見守るリリアとジーク様のシュールな光景だった。
「あ! ハルト様! ちょうど良かった、ハルト様も私に攻撃してください!」
「…………は?」
「リリア、今の回復魔法、もう一回教えて!」
「魔力を聖属性で薄く包み込むイメージよ。2属性を同時に編み込んで……」
「こんな感じ……? うーん、もう一回!さあ!アラン様!HPを減らしてください! ……っ、うぐっ、いい威力です! その調子!」
必死にリリアの技術を盗もうとする私だが、アラン様も流石に顔を引きつらせ始めている。
「……ヴィリアリナ嬢。私としても、淑女に一方的に魔法を撃ち込み続けるのは、精神的な摩耗が激しいのだが……一体いつまで続けるつもりだい?」
「アラン様の魔力が2割を切るまで、ノンストップでお願いします!」
アラン様の頬がピクリと歪んだ。
「……ねえ、アリアリ。もしかして……その、痛いのが好きなの?」
ハルト様が、こてんと首を傾げて純粋な疑問を投げかける。その仕草は可愛いけれど、言っている内容が不穏だ。
「違います! 好き好んで受けているわけではありません! アラン様の攻撃が優しすぎてHPがなかなか減らないから、効率を上げたいだけなんです!」
痛みを顔に出すと、彼はすぐに手を止めてしまう。私は「全然平気です!」とアピールするために、これ以上ない満面の笑みを作った。
けれど、表情筋を全力で動かしすぎた私の笑顔は、今や狂気じみた凄みを帯びていたらしい。
「アリアリ……まさか、ドMだったんだね……」
ハルト様が、哀れみすら含んだ目で呟く。
「ハルト様! 誤解です! ほら、ハルト様も参加すれば効率が2倍に……!」
「…………相当な、ドMなんだね」
「違うんですってばー!!」
演習場に響き渡る私の渾身の否定は、誰の心にも届かなかった。
その日から生徒会で、私に不名誉すぎる疑惑がかけられたのは言うまでもない。
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