14話:敗北と筋肉痛の予感
「あと3周! あ! こら! 身体強化魔法を使ったら2周追加だからね!」
『はいっ……!』
私たちは今、だだっ広い屋外演習場を走らされている。
なぜこんなことになったかというと、30分前に遡る……。
*
「今日から通常通りの練習になります。まずはくじ引きでチーム戦から!」
「はい!」
今日の部活は、学年混合のチーム対抗戦。3試合ほど連続で行うと、早くも魔力切れを起こす1年生が出てきた。すると、カルティナ先輩がさらりと告げた。
「あ、そうだ。半分以上負けた人と、魔力切れになった人は、部活終了後に演習場外周の走り込みね」
「えっ?」
予想外のスポ根展開に、私を含めた1年生が凍りつく。なんでも、最大魔力量は生まれ持った素質だけでなく、基礎体力の向上によっても底上げされるらしい。
(魔法の世界なのに、そんな運動部みたいな……)
前世の記憶が蘇る。1年生が基礎練習で走らされるのは、異世界でも共通の真理のようだ。
私は今のところ全勝、魔力も8割以上を維持している。このまま順調に走り込みを回避できるかと思われた、その時。演習場に大学部の先輩たちが数人、入ってきた。
「最後の試合は、大学部の先輩も混ざってくれるって!」
「やったー!」
「えぇぇ……」
歓喜と悲鳴が半々。私の隣では「終わった、走り込み確定だ……」という絶望の声が聞こえた。
*
大学部の先輩4人を加え、合計32人での大乱闘。
相手チームのレベルを鑑定すると、55、57……。成人貴族の平均が50とされる中で、流石のスペックだ。そして、レベルが読み取れないのが1人。ヴォルク様だ。
運悪く、彼は敵チームになってしまった。
試合開始の合図と共に、両陣営から巨大な火柱が上がる。
(!?)
咄嗟に防御魔法を展開するが、火力が異常だ。炎が収まった時、両陣営の人数はすでに半分に減っていた。
すかさずHPが削られた味方に範囲回復をかける。数的優位を取り戻した、と思った矢先。
「ぐあっ!」
「いたぁっ!!」
前方の味方が、木の葉のように次々と吹き飛ばされていく。
「アリナちゃん、逃げて!!」
先輩の叫びに反応し、距離を取ろうとした瞬間――背筋が凍るような冷気を感じた。
ガキンッ!
重い衝撃と共に、展開した光の壁に亀裂が走る。
10人近くを薙ぎ倒し、一直線に私を狙ってきたのは、ヴォルク様だった。
(一撃が重い……っ!)
容赦なく振り下ろされる木刀と、その隙間を縫って飛んでくる氷の魔法。
削られたそばから壁を継ぎ足すが、破壊の速度が再生を上回る。
パリンッ!
ガラスが割れるような軽い音と共に、私の防御壁が砕け散った。
正面からは木刀、背後からは氷塊。どちらかしか防げない。私は本能的に「より危険」だと感じた木刀を光の壁で防ぎ、魔法攻撃を背中で受ける選択をした。
「ぐっ……!!」
背中に走る衝撃。一気にHPが3分の1削られる。すぐに回復するも、切れ目ない追撃にどんどんHPが削られていく。
(せめて、1撃だけでも……!)
防戦一方ではジリ貧だ。私は覚悟を決め、あえて防御を捨てて突っ込んだ。
横薙ぎに払われる剣に二の腕が当たる寸前に身体を捻り、両腕を交差させて直撃を受ける。その一瞬、防御に割いていた意識をすべて攻撃に切り替え――
ゴキッ!
(いったぁぁぁぁぁ!?!?)
腕に走った衝撃で、視覚が白くなる。そのまま身体ごと吹き飛ばされたが、なんとか私はヴォルク様へ渾身の1撃をねじ込んだ。
「っ……あだだ……」
(折れて……ないよね、これ……?)
力の入らない腕に回復魔法をかけ、必死に体勢を立て直す。
ジーク様は相手が女性だと剣筋に迷いがあったが、この人は全く容赦がない。
(次が来る!)
身構えた私に対し、ヴォルク様は突っ込んで……こなかった。
代わりに彼が左手をかざすと、切れ目のない氷の刃が雨のように降り注ぐ。
光の壁で凌ぐが、あまりの物量に魔力がゴリゴリと削られていく。
(防ぎ……きれない……!)
魔力残量が2割を切るより先に、壁が押し切られる。パリンと乾いた音と共に防御が割れ、降り注ぐ氷の刃に腕で頭を守って目を瞑った……が、衝撃は来なかった。
「……魔力切れだ」
ヴォルク様はそれだけ言うと、まだ混戦が続いている味方の元へ戻っていった。
確認すると、私の魔力は「19%」。規定ラインを僅かに下回り、リタイア。
(強い……。そして、悔しすぎるーーーっ!!)
完膚なきまでに叩きのめされた私は、初の完敗に地団駄を踏んだ。
*
結局、最後まで立っていたのは大学部の先輩4人と、3年生の2人だけだった。
それ以外は全員、地獄の走り込みへ。
屋外演習場、外周約1キロ。これを5周。
「あと3周! あ! こら! 身体強化魔法を使ったら2周追加だからね!」
『はいっ……!』
頼れる魔法は封じられ、残されたのは己の肉体のみ。
(思えば、この世界に来てから体力勝負なんてしたことなかったな……)
魔法に頼りきりだった脆弱な身体から、筋肉達の悲鳴の合唱が聞こえてくる。
その日の夜、私はやっとのことで就寝準備を済ませると、食事もそこそこに泥のように深い眠りへと落ちていった。




