12話: 聖女の入部とステータス隠蔽の教え
カルティナ先輩とお話ししていると、演習場の扉が勢いよく開き、ドッと人が雪崩れ込んできた。
「聖女様、見つかりませんでしたぁ……」
「他の部活に入っちゃってたらどうしよう……」
「大学部の先輩たちなら、どこかでお会いできているでしょうか」
「ふっふっふ……!」
落ち込む部員たちの前で、カルティナ先輩がすっくと立ち上がって胸を張る。
「お探しの『聖女様』はこちらかね?」
先輩が私の前から一歩横にずれると、部員たちの視線が一斉に突き刺さった。
「あー!!! 先輩! いつのまに!?」
「本物の聖女様だ!!」
わっと2年生や3年生が押し寄せてくる。
「ラークだよ、よろしくね!」
「レスティアンだ! 仲良くしてくれ!」
「私はカルツァーク……」
(えっと、この先輩が2年生で、こっちが……)
半分くらい聞き取れなかった。必死にステータスを読んでいると、
「そこまで! 一気に話したら聞き取れないでしょ!」
間にカルティナ先輩が割って入ってくれた。
「私の勧誘枠だからね! 手出し無用よ!」
「えー! 先輩ずるい! ただでさえ強いのに!」
「みんなも有望な新入生を探してきなさい! 明後日からの試験の準備もしっかりね!」
『はーい!』
その後、大学部の先輩たちも戻ってきて、似たようにもみくちゃにされた。
*
翌日。
「アリナちゃん、やっぱり魔道騎士部に入るの!?」
「えっ、カレン、誰から聞いたの?」
「もう噂になってるよ! 今年の『新人王』候補は誰かって!」
(カルティナ先輩も言ってたけど、新人王ってなんだろう?)
カレンの話では、新人王というのは魔道騎士部の新入生が先輩とペアを組んで行う模擬戦のことらしい。
上位4名は、本来2年生からの参加となる「地方遠征」に特例で同行でき、本職の騎士団への顔つなぎにもなるという。
将来的に騎士団への入団を希望する生徒にとっては、最高の登竜門なのだそうだ。
「新人戦は一般観戦もできるから、学園中が盛り上がるんだよ!」
憧れの先輩たちと新入生が共闘する……。そんなの、盛り上がらないはずがない。
「アリナちゃんを応援するね!」
「ありがとう。とりあえず、頑張るよ」
誰と戦うことになるか分からないが、レベリングのため地方遠征には早めに行っておきたい。来るべき戦いに備え、心の中で拳を握りしめた。
*
放課後。まだ見学期間だが、入部を決めた私はなんとなく魔道騎士部の部室前まで足を運んでいた。
(カルティナ先輩、いるかな……?)
扉を叩くのをためらっていると、演習場の扉が開いた。
「ヴィリアリナ嬢? カルティナに呼び出されたのか」
「あ、シルベール様……いえ、今日はなんとなく……」
「そうか。今日は高等部は体育館で入部試験の受付をしている。部員は皆、そちらへ出払っているぞ」
「あ、じゃあ私も申し込みに行かなきゃ……」
「いや。君はカルティナの推薦枠だから、試験は不要だ」
聞けば、3年生は1人だけ「推薦」を出すことができ、その生徒は試験免除で入部できるという。
「昨日のカルティナの攻撃を防いだのが、入部試験代わりだろう。それに…レベル50もあれば、試験も余裕だ。」
彼は私の頭上を見ながら淡々と告げた。
(やっぱり、ヴォルク様には私のステータスが見えている。私からは魅了度メーターしか見えないのに……)
私はヴォルク様の頭上を盗み見る。そこには相変わらず「0%!」がでかでかと表示されていた。
「レベル50ならば、『ステータス隠蔽』もできるぞ」
「え? そんなことできるんですか?」
「ああ。聖女だと分からない方がいい時もあるだろう。時間があるなら、今から教える。」
「お願いします!」
彼の教え方は相変わらず驚くほど分かりやすく、一箇所の隠蔽ならすぐにできるようになった。複数箇所の隠蔽や書き換えはもう少し修行が必要だ。
教えてもらっているなかで気になる点が一点。
「あの、シルベール様……。『ヴィリアリナ嬢』は長いので、呼び捨てで構いません。もしくはヴィリでもアリナでも。」
「……そうか。では、ヴィリアリナと」
(ヴィリかアリナでも良かったんだけどな)
「俺のことも、名前でいい」
「…ヴォルク、様?」
「ああ」
名前で呼ぶ許可をいただいた。ただ、この人は「ジーク」として高等部にも現れる。
「高等部でお見かけした時は、『シルベール様』とお呼びした方がよろしいですか?」
「……ああ、そうしてくれると助かる」
明日からは入部試験だから、次は3日後に来るようにと言われ、その日は解散した。
*
ヴォルクは大学部の一角、重厚な扉の「特等室」へ足を踏み入れた。
公爵家以上の者しか入室を許されないその部屋には、今、一人の先客がいる。
「やはり、聖女ヴィリアリナには変装を見破られている」
ヴォルクは、中央の椅子に腰掛ける人物に報告を上げた。
「ははっ、ヴォルクの言った通りだね。レベルが高すぎるのも考えものだ」
椅子をくるりと回転させ、艶やかな長髪の人物が芝居がかったため息をつく。
「やっぱり彼女の『監視役』は、君が適任だね。魔道騎士部にも入るようだし、引き続きよろしく頼むよ、ヴォルク」
「はい」
ヴォルクの返事に、長髪の人物は満足げに頷いた。




