マリア・フォン・ゴルディナー大勝利! 希望の未来へレディー・ゴー!!! 1
どうやら、ドラゴンスフィア以外に、機体の設計図も一緒に盗まれていたらしい。黒い始硬剣が現れたのは、間違いなくそのせいだろう。
というわけでまず最初に、リントヴルムに向かって、ロンゴミニアド側は裏切っていないという連絡をすることになった。
状況を知らないリントヴルム側からすれば、信じて送り出した留学生が敵に寝返って銃口を向けてくるなんて……と思ってしまってもおかしくないからだ。
幸いと言うべきか、この電報は特に妨害されずに、すんなりと送ることが出来た。
―――当然と言えば当然ですわね。これから同盟を組もうとしているのに、いきなり瑕疵が付けられることになりますもの。もし放置してしまうと、リントヴルムに相当有利な同盟にするように交渉されるのは、想像に難くありませんわ。
ついでに電報には、今から帰る旨も追加しておいた。本来であれば、帰路上の国に対しては、これから軍艦が国土上空を通るぞと事前に連絡を入れなければならないのだが、了承の返事が来るまで待っていると、マリウス教を通じてル・ペイジヴォントに情報が送られ、帰り道で襲われる可能性が高い。
戦時中ということで許してもらうことにしよう。
―――国家間問題で困った時は、金の力に頼るに限りますわ!
もしくは文句言ってきたやつに戦争吹っ掛けるかだな!
《感想:……蛮族思考はさておき、連絡後に間髪入れずに移動しても大丈夫だと思われます。リントヴルムは、マスターのいた世界における神聖ローマ帝国に近い状態です。多少の無礼は単純な国力差を見せつけるだけで黙らせることが可能でしょう》
あ、マジで? ていうかリントヴルムって神聖ローマ帝国なの?
《感想:おい創造主》
いやだって、俺たちがドイツを舞台にしたのって、単にドイツ語がかっこいいからってだけの理由だし……。
《補足:完全に同じという訳ではありません。この時代における神聖ローマ帝国の国土は、既にオランダやベルギーを飲み込んでおり、西側は海に面していましたので。しかし現在のリントヴルムはそこまで国土が広がっておらず、西側には細かい国が乱立している状態ですね》
なるほど。よく分からんが分かった。
《感想:こ、この男……!》
となると、目下の問題は―――
「それで、本当についてくるつもりですの?」
「モチのロンっスよ!」
と、ロンゴミニアドの王城、竜護騎格納庫に、リアの声が響いた。
変える準備を整え、久方振りに薔薇獅子に搭乗しようと格納庫に向かったら、そこには既に、旅の準備を万端に備えたリアとカヴァス三姉妹が待っていたのだ。
「ル・ペイジヴォントが戦争を仕掛けてきたのはリントヴルムだけで、まだロンゴミニアドとの同盟は成立しておりませんわよ?」
「だけど無関係じゃないっス。始硬剣の偽物が出てきたってことは、どう考えても連中は黒っス!」
「製作者として、黙ってみてはいられないという訳ですか」
俺がそう言うと、リアは気まずそうに目を逸らし、両手の人差し指どうしをツンツンと突き合わせながら、
「……あと、うまくいったらウチの始硬剣の予備パーツが回収出来たりしないかなーって」
「……はい?」
「しょうがないじゃないっスか! ポケットマネーがかなりギリギリで、予備のパーツを作る余裕がなかったんスよ!!」
「あの機体、貴女のポケットマネーで作られてましたの!?」
「貰った開発予算だけじゃ全然足りなかったんスよ~」
まぁ、マキャヴェリーという既存の技術系統と異なる人型兵器を新規に作るとなると、騎乗士や竜護騎の新型を作るのとは、桁違いの予算が必要になるのは想像に難くない。
加えて、リアたちはビーム兵器までも開発していた。これまで存在しなかった、全く新しい技術系統を二つ並行して研究していたとなると、金は湯水のごとく使われていっただろう。
「まぁ、お金があれば、私たちも始硬剣に乗ってましたよ」
と、ため息をつきながらアンネが言った。
「始硬剣は、他の竜護騎と比べても格段に高性能です。私たちも壱式獅子の習熟訓練を受けさせてもらいましたが、あの強さを知ってしまうと、今さら竜護騎などには戻れません……!」
握り拳を震わせながらの大絶賛だ。
「……ところで貴女たち、リアを止めなくてよろしいんですの?」
「いえ、むしろ自分から行くって言ってもらえて助かってます。もし行かないって言いだしてたら、拘束してでも連れていくつもりでしたので」
「アン姉たちそんなこと考えてたんスか!?」
「当然です、ヴィネリア殿下。偽物の始硬剣が現れたことでロンゴミニアドの敵対が疑われているのなら、本物の始硬剣を持って行って反証にするしかありません」
「はぇ~、色々と考えてるんスねぇ……」
「殿下が考えなさ過ぎなんですよ……!」
まぁ、付いてくる分には全然かまわない。というか実は、もしリアが行かないと言い出したらどうしようかと考えてはいたのだ。が、今回は、というか今回も急ぎということもあり、説得する時間もかけられないので、その場合は仕方がないので置いていくしかないかと思っていた。
……その場合、始硬剣・束の背中の天竺葵は取り外させてもらう訳だが。
そんなことを考えていたら、アンネが手をポン、と打った。
「あ、それと」
「まだ何かありますの?」
「大したことじゃないんですけど、マリア様たちの機体も複座機で合ってます?」
「そうですわね」
「じゃあ、私たちをそれぞれの機体に乗せてもらっていいですか? 竜護騎は鈍足ですし、艦載機数を考慮すると、どうせ持っていくことは出来ませんし」
あ~、分かる分かる。例えるなら、アンネたちの使っている機体は移動力5。俺の薔薇獅子やリギアの不知恐怖は移動力6。始硬剣も素のままでは移動力6だが、天竺葵と合体しているなら移動力7って感じだ。
ナマの壱式獅子も移動力6で、砲撃だと5に、剣撃だと7に、そして追撃だと8になるだろうか。
個人的な感想だが、移動力7と移動力8の場合の比較はあまり気にならないが、移動力5と移動力6の場合は天と地ほどの差があると思う。
「そちらは問題ありませんわ」
「……ついでに厚かましいとは思うのですが、向こうに着いたら壱式獅子を貸していただけると助かるんですけど」
「……まぁ、機体が余っているようでしたら、わたくしの方から掛け合ってみますわ」
「おお、言ってみるものですね!」
エミリアが音もなく近付いてくる。
「マリアお嬢様、アンネ様。各機、発信準備が整いました。また、傲慢雪鷺から入電。着艦態勢、及び出港準備を整え、我々が到着次第、即座に発進するとのことです」
「分かりましたわ。……総員、準備が出来た者からここを発ちますわよ!」
●
ロンゴミニアドの空を飛び、俺たちは全員、傲慢雪鷺に着艦した。
途中、久々に空を飛んだリアが始硬剣・束でお花畑に土色の極太直線を引いたり、俺たちを見つけた住民が天に祈り出したり、ついでにチェスに夢中で完全に忘れていたノイエ・マリウスらしき連中を見かけたりしたが、特に戦闘なども起きず、平和裏に移動を終えることが出来た。
行きの時には艦内で「飛ぶなよ? 飛ぶなよ? 絶対飛ぶなよ?」と念押しされていたのだが、これはこの時のための伏線だったんだなぁ。
《感想:間違いなく本心だったと思われますが……。我々を視認した住民たち、揃って昼間に幽霊にでも出会ったような顔をしていましたよ》
……その辺りの問題はね、ほら、この国の女王様がどうにかしてくれるさ。
《感想:マリウス教の聖職者たちを磔にして、国民に石を投げさせて憂さ晴らししている未来の風景が当機には見えますよ》
怖いこと言うのやめーや。
『あー、あー、各員傾注せよ。各員傾注せよ。傲慢雪鷺艦長、グレイモリー・レムナントだ』
格納庫に機体を収容し、そのまま待機していると、解放したままにしていたコクピットに、艦内放送が直に聞こえてきた。
『本艦はこれより緊急発進。最大船速でリントヴルム本国に帰投する』
《補足:正確には、帰投は軍事兵器が基地に戻ることを言うんですけどね》
細かいこと気にしてるとハゲるぞ。
《感想:当機、ボディは機械なので、最初から毛の一本も生えていないのですが》
細かいこと気にしてるからハゲてるぞ。
《感想:そもそも毛が生えていない部位に対して禿げるというのは適切ではないですね》
―――というか言われた通りに傾注なさいませ。
ほらー、ドライコインのせいで怒られたー。
《反論:マスターが馬鹿なことを言うからですよ》
―――傾注ーーー!!!
『遭遇戦が予想される。総員、準戦闘態勢で待機せよ。繰り返す。遭遇戦が予想される。総員、準戦闘態勢で待機せよ』
ピンポンパンポンと気が抜けそうな音で、艦内放送が終了した。ま、思ってた通りの内容だ。
ところで、俺の予想では絶対途中で襲撃されるわ。100%されるわ。
《返答:46.38%》
―――え、なにこれ? 予想を言い合う時間ですの? リントヴルムと開戦しているとはいえ、傲慢雪鷺はル・ペイジヴォントの外を移動しますし、他国との国境を越えてまで襲ってくることはないと思いますわ。なので0%ですわね。
《感想:綺麗に意見が割れましたね》
つーか予想46.38%ってなんだよオメーはよ。機械なら0%か100%かで判断しろよ。
《反論:確率計算なんだから、機械でも半端な数字は出ますよ》
―――というか貴方の100%というのも極端な数字ですわよ。
0%って言ったお前には言われたくねぇー!!
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結論から言うと、俺たちの予想は全員ハズレだった。正確には、前提条件が覆されたというべきか。
国内に入るまで襲われることはなかったが、その後、道中で戦闘中だった艦隊に遭遇。艦長がささっと連絡を取って、敵軍の横っ腹へ強襲することを決定した。
つまり、俺たちはル・ペイジヴォントに襲われるのではなく、逆にル・ペイジヴォントを襲ったのだ。




