マリア・フォン・ゴルディナー大勝利! 希望の未来へレディー・ゴー!!! 2
パイロットスーツを着たエミリアが、俺たちに向けてVサインを向けていた。表情こそ無表情ではあるが、一ヶ月半も一緒にいると、内心ドヤってるくらいのことは分かる。
撃墜数が一つ増えたのだ。
それも、そこらのちゃちな雑魚騎操剣を墜としたのではない。エミリアが落としたのは全速力で逃走する軍艦だった。大金星だ。
通常、逃げる軍艦を騎乗士で轟沈させるのは非常に難しい。単純に、速度差の問題だ。
ゲームとかだと戦艦は移動力が低いのが相場なので、移動速度も遅いイメージがあるが、実際はそうではない。人型兵器の推進器と比べるもの馬鹿馬鹿しくなるような量と数の推進器を搭載しているのだ。一度実物を見てみると、人型兵器が追いつけるわけないだろと一発で理解できる。
普通は追いつけない。よしんば追いついても、艦橋の裏側は艦橋正面と違い、分厚い装甲に守られている。アニメなんかだと簡単に轟沈させてるように見えるし、実際、正面から艦橋を狙えば簡単にぶち抜けるんだが、後ろからだと異常に硬いのだ。
推進器そのものを狙うのもよろしくない。馬鹿げた熱量を吐き出しているところに豆鉄砲を打ち込んだところで、推力に押し負けてしまうだけだ。
だが、それを撃墜して見せた。自慢するには十分たる戦果だろう。
さて、そもそも、なんでこんなことになってるのかについて話すとしよう。
まず、俺たちがリントヴルムに到着してすぐに、前方で一隻の軍艦が複数の艦に追われているところに遭遇した。逃げる艦の移動方角は西南。つまり、ル・ペイジヴォント方面だ。
なんか見たことあるなーって思っていたら、あれ、後輩三人娘の婚約式の最中に乱入してきた敵艦の同型艦のようだ。
そしてそれを追う艦隊は、揃って黒の群れ。細長い艦体の後方に、カタツムリのように円柱状のコンテナ兼艦橋が取り付けられている。おそらく、傲慢雪鷺の量産試作艦だろう。つまり味方だ。
そこで雪鷺に艦載されている壱式獅子3機のうち、2機が砲撃に換装。ついでに背面コネクタは共通規格の薔薇獅子も砲撃用のバックパックユニットを取り付けて、逃げる敵艦に向けて長距離射撃を開始した。
さらにエミリアが乗る壱式獅子は追撃に換装。高速で敵艦に近付き、真横から艦橋にビームを叩き込んだというわけだ。
ちなみにこの艦に搭載されている換装パーツは剣撃、追撃、砲撃がそれぞれ3つずつ。ついでにエミリアよりもうちのアリスの方が追撃の操縦適性が高いのだが、アリスが出ちゃうと、万一始硬剣が出る必要性が出てきたときに空を飛べなくなってしまうので、今回は留守番ということになった。
で、
「全部終わった後にいうのも何ですが、あれ、撃墜してしまってよろしかったんですの?」
隣にいるリギアに聞いた。こいつ、近接格闘戦以外はその辺のモブ以下の適性なので、この手の砲撃戦になると全く出番がないのだ。
だから、何か聞いてないかと期待して話を振ってみたのだが、
「聞かれても俺も分からん。騎士団からの連絡で撃墜するのを手伝って欲しいと打診されただけだし、こっちで状況分かってるやつはいないんじゃないか?」
リギアの回答を聞いた直後、近くのスピーカーがブツン、と短い音を立てる。
『あー、あー、リギア王子、マリア嬢。大至急艦橋に来られたし。騎士団の艦隊と合流、情報共有を行う。以上、放送終了』
と、いつもの艦内放送を知らせるチャイムすら鳴らさず、それだけを放送して、スピーカーは沈黙した。……と思ったら、
『あ、スマン。言い忘れてた。ヴィネリア殿下も連れてきてくれ。ロンゴミニアドが離反していない説明をしなきゃならんかもしれん。今度こそ放送終了』
「……そそっかしい方ですわねぇ」
「騎士団ってことは、レオニスの奴もいるかな?」
「来ているなら立場上、間違いなく代表者でしょうし、艦橋に行ってみればすぐにわかりますわ」
―――というか、ヴィネリア殿下に対しては「きてくれ」ではなく「連れてきてくれ」と、完全に自分からは言っても来ないだろうっていう扱いですわね。
……方向音痴の件もあるし、他国の王族だしで扱いが難しいんだろうさ。
とりあえず、まずはリアを探さねばな。
「アリス、リアを―――」
「あ、はい。もう確保しています」
みなまで言う前に、アリスがリアの手を引っ張りながらこちらへと歩いてきた。
「では、早速移動いたしましょうか」
●
艦橋に着いたぞ!
正面モニターには、見慣れたやつが見慣れぬ格好で座っていた。
『お久しぶりです。リギア殿下、マリア様』
リギアの予想通り、レオニスだった。学園の制服ではなく、王国騎士団の制服に身を包み、ついでになんかいろいろ追加されて、如何にも一目見て偉そうだと分かる格好をしている。
その隣には、やはり王国騎士団の制服を着たヴァイト。こちらもレオニスよりは少ないが、いくつか装飾が追加されている。
説明しよう! レオニスは王国騎士団の前団長の息子で、現在は彼が騎士団長をやっているぞ! ヴァイトは現宰相の息子だ!
―――なぜ急に分かり切ったことの説明を!?
いや、出番が久々なんで、名前だけ出されても思い出せないと思って。
―――誰向けのフォローですのーーー!?
「センパイセンパイ、この偉そうな格好した人、誰だったっスっけ?」
こういうやつ向けのフォローだよ。
「ほら、入学してすぐにリアが追いかけまわして電気ネットで捕獲したでしょう? レオニス・フォン・ガーヒリテア様ですわ。あと偉そうなんじゃなくて偉いんですわよ。王国騎士団の現団長ですわ」
「あ、あ~……」
露骨に目を逸らしてる。さてはまだ思い出してないなこいつ。
「貴女の友人のリーファさんの兄君で、サーシャさんの婚約者ですわよ」
「あ、思い出したっス。隣にいるのはその反対バージョンだったっスよね」
ヨシ!
「レオニス、ヴァイト、状況を確認したい。この行軍は何が目的だ?」
『ル・ペイジヴォントから喧嘩売られたんで、今から王都にカチコミにいくところです』
雑に簡潔に、レオニスが答えた。
《感想:グリプス相手に行ったのと同じ戦術ですね。成功体験から、同じ行動を繰り返している可能性があります》
「勝ち目はあるんですの?」
『勝ち目というか、敵艦や敵の機体がどれもレーダーに映らないんで、こっちから攻めて速攻で終わらせないと不利になるだけなんですよ』
それは俺も知っている。だが、その対策は既に打ったはずだった。
「肉眼での監視網から逃れているのか?」
『はい。敵艦は隠れるために、艦底部から雲を発生させているみたいで、地上からだと艦があるか見えないんです』
あ、あぁ~。
「単純な手ですが、効果的な方法ですわね」
「こんなところで敵艦を追いかけていたのは、そういうわけか。……ん? となるとどうやって発見したんだ? たまたま鉢合わせたのか?」
『いえ、それはターニャ嬢です。グレイを通して、異常な雲があると連絡がありまして』
今まで沈黙していたヴァイトが答えた。
「そういや、グレイセンパイだけいないっスね」
『ターニャ嬢と共に、周辺を警戒して貰っていますよ。甲板に追撃が立っていませんか?』
あ、いたわ。って、
「……ターニャさんも来ておりますの?」
『リーファとサーシャもいますよ。ターニャ嬢を一人だけ活かせるわけにはいかないと。今はこの艦で、オペレーターをやっています』
戦艦の精神要因みたいな感じで乗り込みやがって。まあいいや。
『こちらからも急ぎ確認したいことが。敵軍の中に、黒い色の始硬剣らしき機体と、始硬剣に似た意匠の機体が数機確認されています』
似た意匠? 偽物だけじゃなくて?
《感想:量産機でもあるのでしょうか》
あー、かもしれんなぁ。
取り敢えず、リアが、延いてはロンゴミニアド王国が裏切っているわけではないことを説明した。面倒なので会話はカットで。なんかほら、あるじゃんゲームでもさ。暗転したら内容の共有が終わってる演出がさ。あれ現実でも出来るようにならないかなぁ。ゲーム作ってるときの進捗共有会議、滅茶苦茶面倒だったんだよね……。
あと、話の流れで俺たちも付いていけることになった。
この点については、リーファたちが既に同行していたことも大きい。ここまで急ぎで帰っておいてアレだが、俺とアリスとリア、ついでにカヴァス三姉妹は、まず一回王宮に戻れと言われてもおかしくはなかったのだ。
リギア? あいつは俺たちが帰っても、レオニスたちがここにいるから同行することになるよ。立場的にも、傲慢雪鷺と親衛隊がこの場にあるという状況的にもね。
というわけで、置いてきぼりを食らうんじゃないかと内心ちょっと焦っていたのだが、リーファたちがいるとなると話は変わってくる。こいつらが一緒にいるのに、自分たちだけ一足先に戻るわけにはいかないだろって訳だ。
《質問:ところで、彼女たちがいなかった場合、どのような案で言いくるめる予定だったのですか?》
そんなものはない。
―――いや、何かあるでしょう……。例えば、偽の始硬剣に対してヴィネリア殿下が役に立つだろうから同行するので、彼女の付き添いで付いていくとか。
あったまいいー! 乙ポイントを1点あげよう!
《感想:久々に出ましたね、それ》
「とはいえ、だ。城に何の便りも寄越さずに同行するわけにはいかない」
と、レオニスたちとの通信を終えた後、リギアが俺たちに対して言った。
「ロンゴミニアドとの交渉内容についても、お伝えしなければなりませんものね」
「そうなんだよな。リーファたちがいなかったら、マリアたちにメッセンジャーを頼むつもりだったんだが……」
頭をガリガリと搔きながらリギアが言う。やっぱそのつもりだったか……。
リギアがアリスを見た。
「……あたしがいないと、始硬剣は飛べませんよ。それに、マリア様を差し置いて一人だけ戻るわけにはいきません」
次にリアを見た。
「いやいや、みんなが行くのにウチだけ帰るのってどうなんスか」
「それに、他国の王族を伝令に使うのも問題がありますわよ。似た理由で、アンネさんたちに頼むわけにもいきませんわ」
「……というかよく考えたら、適任なのは一人しかいませんよね。リギア殿下の親衛隊で、ロンゴミニアドとの交渉内容をある程度は把握していて、追撃に乗って一人だけで高速で王城まで戻れる人が」
……ああ!
リギアのお付きのメイド。共に一ヶ月半をロンゴミニアドの王城で過ごした女性。エミリアたん!
《感想:……マスター。いろんな所に喧嘩売ることになる可能性があるので、その呼び方は今後二度としないでください》
な、名前がたまたま一致してるだけだからセーフだろ……。




