第八話 後輩
ナツキはこの5年間、手塩にかけて育てた後輩だった。
しかし、今回の彼女の勝手な行動にはすっかり呆れてしまった。
「……生体反応センサーで第七地球全土を調べましたが、生存者は見つけられず……」
俺が部隊長へ報告をしている中、扉の外から彼女の声で知らない言語が聞こえる。
あの正体不明の少女が目覚めたのか。
何か余計なことを話してなければいいが……
「……ちょっと失礼します……」
会議にまったく集中できず、彼女を怒鳴りに行く。
「ナツキ!捕虜に近づくなって言っただろ!」
そう言っても彼女は言うことを聞くような人ではない。
厳しく育てたはずなのに、なんでこんなにも班長命令を聞いてくれない部下になったんだろう。
ある程度部隊長への報告が済んだので早々に会議を切り上げた。
ナツキの様子を見るに、相手は現地の言葉を使っているらしい。
俺達を欺くためなのか、それとも……
翻訳マイクを手に取り、扉を開けた。
案の定、ナツキは少女に近づき、何かを話していた。
「おい!」
俺が声を上げると、少女は驚いたような顔をした。
若干怯えているようにも見える。
これも敵の演技なのか?
何の目的で八班の信号を利用し、何の目的で俺達に接触してるんだろうか。
「お前は誰だ。知っていることを全部話せ。」
早く本性を現せ。現地の少女を装ったって、俺達はそれに騙されるほどバカではない。
「ちょっとタクミさん!」
案の定、ナツキは邪魔をしてくる。俺の翻訳マイクが地面に落とされた。
「~~~~~~~~~」
「~~~~~~~~~」
「敵に情報を渡すな!」
そう注意しても、彼女には届かない。
彼女の翻訳マイクを取り上げた。
「こっち来い!お前はこの部屋にいろ。捕虜は俺が見張る!」
「タクミさん、ちょっと待ってくださいよ」
そう言う彼女を奥の部屋へ閉じ込めた。
扉の前ではあっとため息をつく。
尋問は、このあと専門の部隊で詳しくするだろう。
そうしたら、この件からは一旦離れられるんだ。
少女は表情を変えないまま、俺たちの姿を見ていた。
ふっと目が合い、慌てて目を逸らす。
早く防衛隊の一時救護施設に到着してほしかった。
ーー
救護施設に到着し、少女の身柄を担当部隊に引き渡し終わると、俺達もやっと被爆の影響がないかの精密検査を受けられた。
病室で横になり、ただ天井を一人で見ていた。
ガラガラと扉が開くと、車椅子にのるナツキが笑顔で戻ってきた。
全身の力がふっと抜ける。
「かなり危険粒子の濃度が高かったですけど、防護服が守ってくれたんですね。お互い何も問題なくてよかったです。」
隣のベットで横になるナツキが言った。
「うん」
本当に良かった。ナツキが無事ならそれでいい。
「あの女の子も、大丈夫でしょうかね。」
まだナツキは、あの少女のことを……
「……さあ。……敵のことなんてどうでもいいだろ。」
そう言葉にしてしまった後、少し後悔した。
なんだかんだ言って、あの少女も被害者なんだ。
上の指示で軍事利用されているんだ。
「……無事だといいな……」
そう言って、ナツキから背を向けた。
ーーーーー
1週間の検査入院が終わり、俺たちはやっと解放され、第一地球にある宇宙防衛隊の本部に戻ってきた。
「本っっ当に久々の休暇ですね!」
ナツキもそう言って喜んでいた。
「俺はまだ報告書を整理したいから、先に飲んでて。」
パソコンの画面を見ながら言う。
「あ、私もちょっと寄りたいところがあって。到着遅くなるかもです。」
帰りの支度をしながら、彼女は言った。
何だか嫌な予感がした。
「寄りたいところって?」
「えっと……」
彼女は言葉を詰まらせる。
「買い物したいものがあって。一度家に戻りたいんです。」
不自然に身体を揺らしながらそう言った。
「あの少女にはもう関わるな。俺たちの任務は終わったんだ。」
「あー、ばれちゃいました?」
ぺろっと舌を出して、ヘラヘラした態度をとる彼女に頭にきた。
「あのな!お前の身勝手な行動がどれほどの人を危険に晒すかわかっているのか!隊員として自覚を持て!」
そう怒鳴ると、やっと響いてくれたのか、彼女は視線を下に向けた。
「……すみません。先にお店行ってます。」
ーー
二人とも無事に帰ってこれた。
危険粒子の被害からも免れた。
報告書の整理も終わった。
明日からは久々の長期休暇。
やっとナツキとお酒が飲める。
軽い足取りで居酒屋の戸を開ける。
「イラッシャイマセーイツモノオキャクサマー」
接客ロボットがクルクル首と腕を回して、いつものように出迎えてくれた。
「キョウハオヒトリデスネー」
そう言って、席に案内しようとしてくれるロボット。
「いや、ナツキが先についているはずなんだけど」
そう言うと、ロボットは首を傾げる。
「クレナイサマ?キテナイキテナイデスヨー」
「……そんなはずは…………」
はっと気づき、唖然とした。
また彼女にしてやられたのだ。




