第六話 味方
「第七地球に降下した直後、八班のSOSを受信しました。確認したところ、発信元は宇宙防衛隊に配付されている脳内チップと思われるもので、識別番号は10208-42390021。5年前に捕虜となり死去した仲間から取り出されたものだと思われます。」
モニター越しにそう部隊長に報告するタクミさんは、涙こそ流していないものの、赤い目をしているような気がした。淡々と会話をしているが、所々声が揺れている。
「敵の罠か。お前が第七地球にちょうど来たところに、お前の死んだ仲間のものが利用されたのか。何の因果か、当てつけか。」
嫌味ったらしくいう部隊長の言葉に、彼は小さく頷いた。
「その脳内チップが落ちていた場所の近くで、今回身柄を確保した子供と思われる女性がおりました。場所は郊外の住宅地で、普通の一軒家。彼女は庭にうずくまっている姿でした。彼女の他に第二地球側の者はいませんでした。」
「まあ、それは爆弾による危険残留粒子がなくなるまで、被爆を避けるためだろうな。」
あたかも当たり前だと言った感じにそう話した部隊長に、私の頭からぷつん、と何かが切れる音がした。
「あの!それが分かってるなら私たちをなんで派遣させるんですか!爆弾投下した側の方が人道的なのって、何のギャグ?私たちは使い捨て消耗品じゃないんですけど!……」
「ハナブサ、こいつをなんとかしろ」
タクミさんははあっと大きくため息をついた。
「ナツキはあの捕虜を見張ってろって言っただろ!」
私が言いたいことを言い終わる前に、タクミさんに部屋から追い出されてしまった。
…………捕虜
私にはただの女の子にしか見えなかった。
扉に寄りかかり、二人の会話を盗み聞こうとする。そんな時、急に女の子が叫び声を上げたので、肩がビクリと動いた。
(……起きた!)
彼女は簡易ベッドの上で、パニックになっているようだった。暴れた彼女はベッドから落ち、痛そうにする。
「大丈夫?」
私は近寄り、声をかけた。
「ほら、立ち上がって」
私が手を差し伸べると、彼女は私を睨んだ。
「~~~~~~~~~!」
怒った様子で何かを言っている。
そうか、彼女は非認知惑星の住人だから、宇宙共通語が分からないんだ……
そういえば、翻訳マイクが奥の部屋にあったはず。それを使えば……
タクミさんのいた部屋に戻り、私は戸棚から翻訳マイクを取り出した。
頭部分に付いている電子パネルを操作して、設定を変える。
にしても、第七地球は言語が多いようだ。
「タクミさん、あの女の子がいた場所ってどこでしたっけ?」
「会議中に声をかけるな!」
私が呑気に聞くと、再び怒られてしまった。
「すみません……。で、どこでしたっけ??」
「日本ってとこだよ」
見ると、日本語という言語があったので、それを選択してみることにした。
彼女のもとに戻り、笑顔を作りながら言った。
「驚かせてごめんなさい。私は宇宙防衛隊のナツキ・クレナイ。あなたのそばにあったSOS信号を受信して保護しました。」
彼女はまだ怯えた様子で私を見ているだけだった。
……あれ?伝わってないのかな?この言語じゃないのかな……
私が翻訳マイクを外そうとした時、
「保護……?」
彼女の声が言葉になって聞こえた。自身につけられた手錠を見ている。
「あ、それはうちの班長がつけろっていうから……」
そう言っている途中に後ろから腕を引っ張られる。
「ナツキ!捕虜に近づくなって言っただろ!ここで見張っててくれればいいから。生物兵器の可能性もあるんだぞ!」
「まだ敵って決まったわけじゃ……」
そう言いながら、はっと気が付く。女の子をちらりとみながら、ゼノコムマイクを慌てて外す。
「あの状況を見ても、敵の罠だってお前もわかるだろ。」
「そうですけど……」
そうだけど、敵かもしれないけど
もし彼女が敵じゃなくて、第七地球で生き残った女の子だったら……
「分かりました!近づかないんで、タクミさんは会議に戻ってください。」
「もう本当に頼むよ。絶対接触するなよ。」
彼が扉を閉めるのを確認して、私は再び女の子へ声をかけた。
「ごめんなさいね。うちの班長堅物だから。」
まだ彼女は固まっている様子だった。
もし彼女が敵じゃなくて、第七地球で生き残った女の子だったら、彼女は被害者なのに一人ぼっちになってしまう。
誰にも寄り添ってもらえず、孤独になってしまう。
ーーだから、私だけでも彼女の味方になろう。
私もかつて、そうしてもらったように。
私が微笑むと、彼女は閉じていた口をやっと開けた。
「……みんなは……地球のみんなはどこにいるんですか?お姉さん達が保護してくれてるんですよね?」
声を震わせて言う彼女に、私はなんて言えばいいか分からなかった。




