第十八話 悪魔の飼い犬
「お前ほど馬鹿な隊員は見たことがない。」
五年前、部隊長にそう言われた。
「遺族からの請求に対して安易に応じて。どうやって払っていくつもりだ。」
遺族から請求を受けた一億もの賠償請求。
本来であれば個人ではなく防衛隊に請求されるものに、俺は応じたのだ。
悔やんでも悔やみきれない罪を、償う方法が分からなかった。
楽になろうと思う気はなかった。
だから、裁判もしなかった。
「親の相続で受けた金がありますので。あとは死んだら払える額です。」
「馬鹿言え」
その後、部隊長は俺が払えなかった額を立て替えてくれた。
分割して毎月返済をしている。
それから、俺は部隊長の言いなりになった。
今思えば、彼が立て替えてくれたのも、完全な善意ではなかったことがわかる。
彼は従順な犬を欲しがっていた。
迎え入れるのにちょうど良かったんだろう。
俺の飼い主は昔から悪魔と名高い人だった。
彼はよく忠誠心を確かめるために、わざと嫌がらせをした。
要請しても援軍が来なかったり、救助が来なかったり、不可解なことが何度もあった。
また、どう考えても無謀だと思うような作戦に使われることも何度もあった。
今回の第七地球の偵察も似たようなものだった。
このことで自分が地獄を見る分には良かった。
それどころか、傷つくことがまだ自分が生きていていい理由になる気がしていた。
ただ、そのせいで彼女が危険にさらされることが苦しかった。
「ミナがもし八班に入ってくれたら、私たちの班も変わると思いませんか?」
ナツキはある日、そう言った。
いじめに近い上層部の八班に対する嫌がらせについて、俺が文句を言えない代わりに、彼女がよく上へ抗議してくれていた。
それでも今まで彼女は、班に対する不満を口にすることはなかった。
そんな彼女が初めて八班に対する変化を望んだ。
「未成年兵は倫理上問題になっているし、彼女がいれば上層部も過酷な任務を振ってこないですよ!」
彼女に言われ、考えた。
宇宙防衛隊の採用人事は、各班長が決定し、上層部が承認する形だ。
十年ほど前から宇宙防衛隊の入隊に年齢制限がなくなり、貧しい子供や居場所のない子供たちが中心に、未成年兵を志願した。
こうした子供たちの置かれた環境を考慮し、宇宙防衛隊は、志願した未成年者を原則として採用する方針を取っている。
確かに、未成年兵には制約があるから、今より任務は楽になるだろう。
彼女を危険から遠ざける唯一の方法かもしれない。
「うーん…………なしかな。」
志願者には出自不明の子供もいる。
しかし、ミナという少女はそれとは別だ。
証拠はないが、彼女がまだ第二地球側の戦略の何かである可能性は捨てきれない。
上層部も同じように考えているはずだ。
危険すぎる。宇宙防衛隊の存続に関わる。
「……というか、不満があるならナツキが異動しなよ……」
その言葉が重く、地面に落ちる。
胸が痛んだ。
五年間彼女に言い続けてきた。
それでも、久々に口にした。
「今ならギリギリ来年度の人事に間に合うはず。」
彼女は悲しそうな顔で下を向いた。




