第十話 笑顔の名前
私は輸送部隊から小型の宇宙船を借り、再び第三地球前の一時救護施設に戻ることにした。
「あのな!お前の身勝手な行動がどれほどの人を危険に晒すかわかっているのか!」
タクミさんの怒鳴り声がまだ耳に残っている。
彼の言うことが理解できないわけではない。
それでも、あの女の子が私たちのことを欺いているとはどうしても思えなかったのだ。
ーー
「おつかれさまです!特殊戦闘部隊八班のクレナイです。班長に頼まれて、こちらに入院してる梯さんの検査結果を聞きに来たのですが。」
自身の身分証を見せながら、衛生部隊の看護師に問うた。
「梯さん?」
看護師は首をかしげる。
警務部隊と一緒だ。名前も知らずに検査やら取り調べやらを行っているんだ。
情報を得た後、その看護師に彼女の入院している部屋を教えてもらった。
扉を開けようとして、ふと手が止まる。
警務部隊の取調班曰く、彼女は今回の事件のことについては本当に何も知らない様子で、あの地球の住人として今まで過ごしていたと言っていたそうだ。脳波の結果からもそれが嘘ではないことは確認済とのこと。
身につけていた衣服も、特別なものではなかったそう。
ではなぜあの地球で彼女だけが生き残り、八班のSOS信号の発信元の近くにいたのか?
SOS信号は敵の罠であることは間違いないだろうけど、彼女だけが爆弾投下後も生き残った理由は?
そして、より奇妙なのが、あの爆弾投下後の危険粒子が漂う中、防護服を着ていなかったのに、身体の異常がまったく見つからなかったことだ。
彼女は第二地球側の工作員で、時限的に記憶がすり替えられているのか。それとも不死身なのか。
敵であるという証拠がない限り、防衛隊も彼女は拘束し続けたりはしないだろうけど、釈放された後もきっと彼女を信じる人は誰もいないだろう。
ーーだからこそ、私が寄り添ってあげなくちゃ。
結果、やっぱり敵で、欺かれたとしても。
彼女が本当に罪のない子供だったとき、後悔してしまうから。
思い切ってドアを開ける。
「やっほ!ミナちゃん元気ー?」
彼女は電気もつけずに、部屋のベッドに座っていた。こちらを見つめる目に、光がないように見えた。
ああ、しまった。また何も考えずに、やっほー!なんて言ってしまった。
いいや。このまま明るい調子いこう。
「ほらほら、電気つけなよ!!」
私はぱっと腕を上げて背景ライトをつけた。ライトは一度白く光った後、その後茜色に変わった。
「ほらほら、もう夕方だよ。電気消してたら体内時計狂わない?ほらこの施設、太陽当たりにくいしさ。」
彼女はまだ呆然としていた。
「夕飯もまだでしょ?私は上司の飲み会すっぽかしちゃったからお腹ペコペコなのよね。ほら、今日のご飯なんだろー」
ぴっとテーブルを指で触れて操作し、ご飯を出す。
あ、今日のご飯はハンバーグのようだ。
「しかも、ずっと検査着のままじゃない。ずっと体洗っていないの?あぁ、もしかして風呂キャンってやつ?」
そう笑って部屋のあちこちを操作しながら、あることに気づき、手が止まる。
あれ、この子、もしかして入院してから何もしていない?
ずっとベッドの上で、何もせずに過ごしていたんだ。
……そりゃそうだ。彼女は第七地球で唯一生き残り、家族や友達も亡くしているんだ。
ご飯食べる気力も、何をする気力も起きなかったんだ。
ーー私はなんて人の気持ちを考えられない人間なんだろう。
こういうときは、どう言えばいいんだろう……
彼女をわずかでも元気づけるためには……
思考を巡らせた。
「今……すごく悲しいよね。……今は休んで………落ち着くまでずーっと休んで……。」
言葉を慎重に選んでいった。
「それでもきっとまた、笑顔になれる日が来ると思うんだ。」
そう言えば、ミナという名前には、宇宙共通語で笑顔という意味があった。
彼女の名前の由来は違うと思うけど。
きっと彼女も笑顔になれる日が来るはずなんだ。
「……そしたら、死んだみんなの分もミナちゃんが生きよう?」
しばらくの沈黙の後、彼女は今にも消えそうな声で言った。
「…………みんな……死んだんですか……?」
彼女の反応を見て、胸がドクンとなった。
私は余計なことを言ってしまったかもしれない。




