葬列
「あの2人、思いのほか安定してますね」
ユウトとタネの組み合わせは、現状どの虫やケラ喰いと遭遇しても楽勝だ。
僕とシライシは、歩いている市民の護衛に注力するという名目で喋って歩いている。
「…カリンが心配だ」
「あんなみっともなく喧嘩したらそりゃ気まづいですよ。大人なのに」
「んん」
「やっぱりベェさん、子供っすね」
「…そうだな」
からかうつもりのシライシに反論出来ず、素直に受け取る。
困り顔をしたシライシがこちらを見る。
「…まぁ、また顔を合わせたら謝りましょ!カリンも強いですし、そんな死にませんよ」
「…マリーも心配だ」
「ベェさん、強いから人のことを考える余裕あるの凄いですね」
「…皮肉言われたか?今」
「半々です」
実際、こっちは30人程の市民を連れて歩いているのに、心配の必要はあまり感じていない。
自分を含む戦闘技能の高いやつが集まっているから、ケラ喰いや2m程度の虫なら問題ない。
カリンなら、1人でも奥に進むだろう。キキョウが付いていてくれると助かるが…
マリーは安静にしてて欲しい。
「ベゴニア、交代してくれ」
「分かった」
ユウトの義手がオーバーヒートをしたから、タネのいる前衛に出る。
「タネは休憩しなくていいのか?」
「へいき」
今は北西の端、やっと外縁0kmの辺りだ。
市民を運ぶ僕ら本隊とは別に、先行隊として5人先に行ったが、まだ合流出来てない。
もう少し行ったところに落人の籠がある。ここ数週間で旧市街は大きく変わったが、無事だろうか。
大きな亀裂の前に来て、マルが立っている。深刻そうな顔をしている。
「あぁベゴニアさん。お疲れ様です」
「…迎えが寂しいな」
「多少虫に荒らされてますが、殆どは飢餓で死んでます」
「殆ど」
大事な部分を反芻する。後ろで聞いてる他の人も、マルの返事を待つ。
「子供が数名、瓦礫の下で隠れていました。ヨシが介抱しています。残りの3人は、先に進ませました」
胸を撫で下ろせる話ではないが、それでもひとつ息を吐く。
笑うと丸い顔だからマルだが、今は彼も丸くない。
「この人数は休めそうか?」
「問題ないです。こっちへ」
以前通った道を、1列に並んで進む。数人だけ、小さな子供も居る。
不安そうに親の手を握るその子を見ると、この地を離れる事の抵抗に改めて納得する。
一応言うが、僕が離れる訳ではない。あくまでも見送りだ。
まるで葬列のように、ガスマスクをつけた人間が渓谷を歩く姿は、どう映るだろう。
かつてギギと戦った広場は、すっかり荒れ果てていた。ボロボロの家、かつて長のマユラが住んでいたところにヨシがいる。
脇には子供が4人。
「予想より死体が少ないな。初めから無かったのか?」
「あっちで自ら集まって亡くなったようです。この広場に倒れていた遺体は全て回収しました」
ヨシが指を指す方向は、細い横穴だ。
ゾンビパンデミックから学んだこと。沢山の死体が出ると空気が悪くなる。
だから燃やす。それが一番だった。子供が付けているガスマスクに見覚えがあった。
「I型のガスマスクか?」
「初めから持っていました。知ってる道具ですか?」
「黎明期に使ってた中古だよ。確かにあの時は、街でバタバタ死んだが…持ってたのか」
後ろの方で聞いてたであろうジニアがこちらに来る。
「ベゴニア。使えそうな物を拾っておいた」
持っていたのは、薪を割るようの斧だ。いつもより少し重いが、殺傷力があるので問題ないか。
「ここまで護衛感謝する。お前は休め」
別にジニアのいつもの感じだが、さっきまでの古参の喧嘩の後だと何だかこそばゆい。
「…助かるよ」
I型ガスマスクやこの集落の行く末など、気になる事は沢山あるが、今はここにいる渡米組を無事送るのが最優先だ。
屋根のある所に腰を下ろして、ナイフを取り出す。
ユウトが横に座って、こちらの作業を見ている。
「…なんで斧なんだ?」
「他の武器は苦手なんだ。器用に振れない」
持ち手をナイフで削る。太いと衝撃で抜けてしまうし、窪んでいた方がズレにくい。
「斧は戦闘には不向きだろう。重心も悪いし突っかかる」
斧の刃は剣と違い根元は無い。刃が引っ掛けになるので、白兵戦では武器の損失の恐れがある。と言われている。
「こいつに重心を預ければ、とりあえず攻めは問題無いから。僕の目的は倒すことじゃなく、生きる事だ。人を殺す技術なんて学んでないよ」
言った後で、兵士に対する当て付けになるのではと思いハッとする。
ユウトは袖を捲り、義手を出す。
「…あのおっさんの言う通りだな。ベティも俺も、元は人を殺す為に学んだに過ぎない」
「戦争の話か…ユウトは詳しいのか?」
「曽祖父が語っていたな。でも海の向こうじゃ、昔の戦争のおかげで、今も虫と対峙する余裕があるって言われてる」
パンデミックの時からずっと田舎に居たから、都市部の当時は見ていないが、確かにこの国は当時から「戦力」は殆ど無かった。それも、ずっと昔の戦争に負けたからだろうか?
「その癖には、よく分からんドローンが飛んでるけどな」
「対人の侵略に恐れた結果だろう。その結果人以外に無力で、人の救援の妨げになってるんだから、全く皮肉なものだ」
ユウトは物知りだ。そういえば、ツユクサもやけに昔の事は詳しかった。
すっかり見なくなった紙のトランプの混ぜ方や、古いカメラの使い方も、ツユクサに教えてもらったな。




