表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末都市の塵芥  作者: Anzsake
アジサイ:シメイ/流れる。変わる。託す。
91/132

カリン:穴

「僕たち回収員も、初めは散々だったよ。誰もノウハウが無い、バタバタと人が死にました。コミュニティも、半分ほど人数が減ったはずです」


キキョウさんはマリーさんを見ながら話す。蹲るマリーさんは何も言わない。


「気が触れて、女性を襲う人も居ました。まぁみんな死にましたが」


『そんな奴はパンデミックで滅んだ』

師匠の言葉を思い出す。何か例え話をすると、よくそう言っていた。冗談みたいなのに、いつも目は笑ってなかった。


「マリーは、その地獄に耐えきれなかった。それを憂いて裏に回し、リーダーという肩書きを押し付けたのは僕らです。地獄に向かうには、そういう旗を持つ人が必要でしたから」


内容自体に、今更驚く事は無かった。ここまで接してきて、何も無いのに役立たずだとは思いたく無かったから。


「だから、何ですか?」


「説明しただけです。僕も、もう少し落ち着いたからここに来たと思ってましたし、だからベゴニアさんに歯向かったのだと思ってましたが」


「だから、二人が死んたのは仕方の無い事だって言うんですか?」


「いいえ。むしろ、彼らが死んだのは僕やマリーのせいです」


「おかしいですよ。キキョウさん達はマリーさんを思ってそうしたんですよね?それにあぐらをかいて変われなかったのはマリーさんですよ」


背後の胞子が揺れている。マリーさんではなく、ミリアさんだ。嗚咽が微かに聞こえる。構うことなく言葉を続ける。


「僕だって、リズを守れなかった。だから僕は、こうしていられないんです。今この人の、あなた達の過去に立ち止まってる暇は無いんですよ」


キキョウさんが顎を引いてこちらを見る。その目に怒りなどはない。ただ静かに、言葉を受け止めているようだった。


ミリアさんが立ち上がり僕を睨む。その声をキキョウさんが制する。


「カリンが今ここに居るのは、その装備のおかげです。そしてそれは、僕たちの、マリーの失敗の数々から造られたものでもあります」


その言葉に、東に向いていた体を一旦キキョウさんに向ける。


「コミュニティで、君も救えなかった人が居たでしょう?先に進むなら、後悔の錘は無い方が良い。先ずは、二人の遺体を見つけましょう」


「そう…ですね。ごめんなさい」




マリーさんを置いて、地下鉄の下の空洞を見下ろす。相変わらず底は見えない。よく見ると、何本か柱が縦に伸びている。


「これ、なんの空間何ですか?」


「洪水を防ぐ為の貯水槽かと…50m程ですかね」


ワイヤーは30m程しか伸びない。降りるには、もうひとつ程足場が欲しい。


「…ちょっと、待っててください」


崩れなさそうな場所にアンカーを打ち込み、ワイヤーを伸ばしていく。

床が見えてきたところでワイヤーが止まった。ライトを落としてみる。水は張ってない。


「よし…」


左手を柱に向ける。やり方は分からないけれど、何となくこうだと思う。


薬指に神経を集中させて、人が乗れる足場をイメージする。落ちないように柱に巻き付くように…


ぴしりと薬指の付け根にヒビが入った。不思議と痛くは無い。

その瞬間、薬指を包むように現れた白い塊が前方に伸び、足場を作るように柱に絡みつく。


ナジールの時と同じだ。あの時咄嗟に壁を作ったように。


白い足場から手を引っ張る。薬指はもう無い。悲しくはなかった。痛くもない。何となく、こうなるんだと思ってる。

これも、僕が変になったからだろうか。


「降りれます!」


足場に乗り強度を確かめてから上に叫ぶ。


ワイヤーを巻き直し柱に打ち込んでまた降りる。

ゆっくりと靴が硬い地面に着いた。

地下鉄の天井も剥がれ、曇り空が見える。不思議な空間だ。

暗がりのせいで、どこまで続いてるかは分からない。いや、もしかしたら本当に、何処までも続いてるのかも。


キキョウさんとミリアさんが降りてくる。2人がライトをつけるのを見て、先程落としたライトを拾い上げる。


「さて…探しますか」




結果をいえば、遺体は二つとも見つかった。

シャミさんは頭と片腕が無くなっていたが、見つからないよりはマシだ。


ミリアさんは何も言わない。地下の空洞にポツリと小さく横たわる2人。それをじっと眺めている。


「上まで運びましょうか」


「…別にいいよ。大変だし」


遺体が着ているジャケットをゆっくりと脱がせ、頭の部分に被せる。

ボルトさんの身体は、少し固く脱がせにくかった。


「…行きなよ、助けたい人が居るんでしょ?」


こちらを見ずに、ミリアさんは言う。


「…生きてるといいね」


皮肉だ。自分でも分かってる。もしかしたら、リズはもう取り返しがつかない所まで来ているのかもしれない。


それでも、諦める気は無かった。それを確かめるまでは。


キキョウさんが、暗闇の方を見つめる。


「出口があるならば、ここを通った方が速そうですね」


「…博打では?」


「流石にこのレベルの貯水槽なら大丈夫でしょう。これだけ広いのに四面に出口が無いとは考えにくいです」


説明をしながら、キキョウさんは上にアンカーを飛ばす。


「マリーを連れてきます。待っててください」


ゆっくりと上がっていくキキョウさんを見送る。


「…あんな状態の人、本当に連れてくの?」


ミリアさんが呟く。


「…僕もそう思います。でもキキョウさんが連れていくと言うなら」


「そんなにあの人が好きなのかな」


「それは無いでしょう…多分」


そういえば、キキョウさんは他の人と違い一人で仕事しているのをよく見る。

師匠のシライシさんや、ジニアさんのミナトさんのような人は居ない。


強いて言うなら、リズだ。だからこそ、キキョウさんは乗ってくれたんだと思う。


マリーさんは、なんで一緒に行くって言ったのだろうか。

聞ける状態ならいいけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ