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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
ツユクサ:ヤクメ/やるべき事
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ジニア:教祖

その少年少女が付けているガスマスクは、確かに俺たちが使っていた物だ。


お互いが仲間だと認識するために、通常で拾えるものを敢えて少し形を変えていた。


ベゴニアはここを、宗教の集落と言っていた。

服装から、統一した思想があるのは分かる。


「そのガスマスクは、大人から貰った物か?」


まだ5歳程の少年が首を縦に振る。


「ツユクサって人から貰ったの」


眉をしかめる。定期的に奴の名前が出てくるのは、ひとえに2年も行方を晦ませた奴の暗躍ぶりだろう。


**


立ち止まったツユクサが、珍しくバツの悪そうな表情をする。


『俺は行かない』


『…そうか』


『えっ、そうかーなの?』


お通夜状態なのは仕方ない。

唯一喋りがいつも通りなサルビアも、この空気に口を閉じる。


…それ以上、かける言葉は無い。ツユクサ本人も分かっている。


“俺たちは、人を見捨てた”


元より全員、死なば諸共だったはずだ。

こんな世界に意味を見いだせなかったバカタレが、唯一意味を見出そうとした彼女に着いてきたバカタレの旅団。


なのに俺たちは、そんな唯一の彼女を置き去りにして来た。


いや、彼女がそうしろと言った。それを真に受けた。


ツユクサもベゴニアも、マリー本人も口に出さなかった。

負傷者のマリーを抱えて、歩けたヒマワリを置いた理由が分からない。


『…お前らは、どうするつもりだ』


『1度、最後に寄ったコミュニティに戻る。小さな場所だが、何の支援もないよりはマシだ』


『なんで全員諦めてるんだ!負傷者と誰かが帰って、残りでヒマワリを…』


『彼女はもう無理でしたよ』


キキョウがツユクサの言葉を遮る。医者であるのと同時に、一番ヒマワリと長く旅をしていたこいつだ。何か知っているのだろう。


ツユクサの口元こそ分からないが、細かな動きで怒りが見える。

口は悪いが、素行は悪くない。

俺は、こいつが暴力をしないと信じている。


『…そうかい。じゃあな』


ぶっきらぼうに言い放ち、ツユクサは背中を見せて去る。


アジサイも、それに背負われてるマリーも、そちらを見ることは無かった。



**


教会だと言う建物は既にボロボロだったが、まだ原型を留めている。

その建物の裏の崖に、確かにツユクサの落書きがある。


もし仮に、ツユクサがここを拠点として利用していたら。

もし仮に、ツユクサがここに食べ物や物資を恵んでいたとしたら。


外にほとんど出ない彼らの潤いや、やけに古臭い生活様式。仮説が報告と一致していく。


『お前にあれが殺せるか?』


もちろん確証は無い。だが確かに、ツユクサはユユと共に行動していた。

俺らが躊躇いも無く殺せる化け物も、確かに人の顔をしている。


出来ないから、タネ様信仰等と言う集落と共に生活出来ていたとしたら。


死人に口なしだ。あいつの事は分からない。

分からないが、あの頃のツユクサなら有り得る。


たった数ヶ月の仲だ。それでもツユクサは、誰よりも悪人面をする癖に悪人になりきれなかった男だ。


「…ジニア?」


ミナトに呼ばれて振り返る。パンデミック前から名前を変えてないミナトは、それだけが俺がこれまで生きてきた証だ。


俺だけ名前を捨てて、役割を放棄して逃げ出した。

ミナトとあの時ついて行ったあいつも。ヒマワリも。

大層な旗を掲げるやつはみんな死んだ。


ずっと、誰かの背中を追いかけていたかった。

自分の願いや目標なんて、小さい時からずっと無い。


誰かの騎士で居たかった。俺には出来なかったから。


だから、マリーにやりたくもない役割を押し付けたのだ。


ツユクサ。お前は、ここではちゃんと自分らしく居れたか。

俺は、いつまでヒマワリを追いかければ気が済むんだろうか。


余計な考え事が長いのはいつもの悪い癖だ。そのせいで口数が少ない。


「…あいつのこと、覚えてるか?」


「もちろん。ジニアが逃げ出した時、本当は私も行きたかったもの」


俺は主君を失い、仲間を捨て逃げ、新しい主君を見つけ、また失った。


そして、またミナトに会った。ミナトは知っているから、俺を持ち上げる事は無かった。


俺は、リーダー等やりたくもない。責任は負えない。振りたい旗も無い。

だから、失くしたはずのヒマワリの旗を探し続けた。


「…何だか、騒がしいね」


ミナトがそう言う。耳を澄ますと、慌ただしい声がする。


「行くか」


「えぇ」


建物の裏から出ると、人が集まってる。

死体が集められてる横穴だ。そうか、まだ燃やして無いのか。


「状況は!?」


「まだ数体だけですが、動き出しました。防げてはいますが、早く火が必要です」


胞子環境では、死体はゾンビになる。


横穴にまとまって死を迎えた彼らは、最期までこの集落を想っていた。


ヒマワリを追いかけるのは、俺だけじゃない。

1番前で体を張るベゴニアも、きっとそうだ。

その為に、俺が出来ることはなんだ。分からない。俺はベゴニアにはなれないのか、

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