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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
アジサイ:シメイ/流れる。変わる。託す。
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カリン:操る物

太陽の下にいると、濡れた服も自然に乾いてきた。

マリーさんを待たずに、キキョウさんは歩き出してしまう。


「え?キキョウさん?」


「辺りを散策してきます。マリーと合流したら来てください」


キキョウさんの振り返りざまの口に、タバコが咥えてあった。

水に入らないのも、僕らを置いて歩くのもそれのためかと、今更ながら納得する。




マリーさんが服を絞りながら戻ってくる。普段下ろしてある髪を結んで、その結った後ろの髪から水が落ちる。


「あれ?キキョウは?」


「あっちに散策に行きました。僕たちも行きましょう」


荷物を持って、マリーさんと南に歩く。

濡れているからか、風が気持ちいい。




少し歩くと、建物が出てくる。旅館と呼ばれる建物の跡らしい。

旅でここまで来た人達が、寝泊まりをする場所。


「その人たちも、あそこで泳いだりしたんでしょうか?」


「それはないと思う。あそこ、ダムらしいし」


旅館の前のスペースに置いてある小さな白いトラックを開けて、キキョウさんが何やら弄っている。

その小さなトラックも、僕には見たことが無かった。


「動きそう?」


「この見た目で、ちゃんとイモビライザーが付いてますね。でも多分行けるかと」


「キーフィクサーはある?」


「えぇ」


マリーさんとキキョウさんは難しい話をしていてよく分からない。

「軽トラ」と呼ばれているこのトラックは、キキョウさん達でも更に昔の車らしい。


キキョウさんが小さな板を取り出してまたいじると、車のエンジン音が響く。


黒く汚れた手をズボンで拭きながら、キキョウさんが僕を見る。


「カリン、運転してみますか?」


「い、いいんですか!?」


「キキョウ本気?」


「これから先、出来た方が良いです。マリーもそろそろ、練習した方がいいですよ」


「うーん…」




キキョウさんに教わりながら、ゆっくりとペダルを踏む。

視界が前に進み出した。


助手席にキキョウさん。後ろの荷台にマリーさんが不安そうにこちらを見ている。


「すげぇ!」


「ハンドルはゆっくり回すこと。ペダルも、これ以上は踏み込まない方がいいですよ」


「分かりました!」


速度計は、25と表示されている。1時間にどれくらい進めるかの数値らしい。


「ちなみに、先程言っていた飛行機の時速は900程です」


「そんな速くて、操れるんですか?」


「まぁ、素人には無理でしょうね」


電車の速度を窓越しに見てた僕には、このトラックは少し遅くも感じる。

それでもこれだけ難しいのだ。そもそも僕は、僕自身すら上手く操れている気がしないのに。


横目で過ぎる木々、歩きよりも断然速い。

これを、僕が動かしている。僕の操縦でこの速度を出している。

それが何だか、とても面白い。


「カリン!左寄り過ぎだよ!」


「は、はい!」


マリーさんに言われて慌ててハンドルを右に切る。

突然思い切り右に走り出した視線に驚くが、横にいたキキョウさんがハンドルを掴んで戻してくれた。


「慌てずに」


「…はい!」


しばらく操縦していると、段々と慣れてきた。

それでも数値が少しでも上がると、その速さに慄いてしまう。

曲がる道に合わせてハンドルを切り、山道を走り抜けていく。




しばらく南に走らせていると、住宅地が出てくる。真っ黒な信号を越えると、少し広い道に出た。

少し止まり、ふっと息を吐く。


「お疲れ、じゃあ交代しようか」


「はい」


そう言ってキキョウさんに運転席を代わり、僕はマリーさんのいる荷台に移る。


「すごいね、カリン」


「そうですかね、なんか…」


言いかけで走り出したトラックは、さっきの僕よりも倍以上の速度が出ていた。それなのに運転は安定していて、キキョウさんとの経験の差を一瞬で理解させられる。


風を浴びて後ろに流れていく景色を眺める。

山の中にある畑道を、軽トラはぐんぐん進んでいく。


荷台から顔を出そうとして、マリーさんに服を掴まれる。


「ちょ、危ないって!」


そんな言葉が耳に入らないくらいに、その景色はこれまで見た事ない物だった。


いや、本当は見たことがあるのだろう。今まで気にもしてなかった。


そこに広がる緑と青。流れてるはずの雲は、この速度の僕たちをまるで気にしない位にゆっくりで、近くにある木は、一瞬にして後ろに消えていった。


「景色」と言うものを。いや、「美しい」と思った事が、これが人生で最初だったと思う。


曲がり角で曲がる軽トラに引っ張られ、落ちそうになる所をマリーさんに掴まれて座る。


「あはは…ごめんなさい」


さっきまでとは違い、どこか悲しそうな顔をしてマリーさんは膝を抱えて座ってる。


後ろに流れる空や、涼しい風。さっき泳いだのが疲れたのか、僕は、大きなあくびをひとつした。

「キーフィクサー」

昔の回せば動く車と違い、作品年の車は「イモビライザー」と呼ばれる安全装備が標準搭載されている。

これは、鍵ごとに付いているICチップを認識しなければ、エンジンそのものがかからない仕様だ。


もちろんそれを解除する技術も同じく進む。

エンジン側から送られた無から、ICチップの情報を書き換えるという物が「キーフィクサー」だ。


元は車の修理等で使用する器具らしく、古い回収員の教えで携帯する者も多い。

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