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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
アジサイ:シメイ/流れる。変わる。託す。
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カリン: 青い旅路

「少し休憩しましょう」


空を仰いでキキョウさんが言う。

その一言で、僕とマリーさんは木陰に座り込んだ。


「はい…カリン」


「ありがとうございます…」


渡された水筒の水で喉を潤す。

暑い。青空は、僕らの事情なんて何も知らずに照り続けている。


これまで電車で向かっていた旧市街も、歩くとこんなにも遠いのかと実感させられる。

項垂れたマリーさんが汗を拭いてキキョウさんに尋ねる。


「今…どのくらい…?」


「2時間ほど歩いたので…あと30時間程です」


「「…はぁ?」」


思わず僕も声が出てしまった。30時間?呑気にしてられないではないか。


「逆に言えば、ユユもそこまで速度は変わりません。移動手段を見つければ、僕たちは優位に立てます」


そう言いながら周りを見渡す。木、木、木…


「それと…水…」


「そうですね…流石に…」


ジャケットを腰に巻いたキキョウさんは、パッと見は元気そうだ。


「凄いですね…キキョウさん…暑くないんですか?」


「暑いですよ…さて、行きましょうか」


ゆらゆらと立ち上がる。マリーさんが背負っていたカバンを、今度は僕が持つ。


「大丈夫だよカリン…私何も持ってないから」


「いいえ、持たせてください」


微笑むマリーさんは、当時感じていた「幹部」みたいな凛々しい顔では無く、良く似合う優しい笑みだった。


それで思い出すのは、リズの顔だ。それを、頭を振って消す。

妹だからだ。断じて恋愛感情等では無い。

そう自分に言い聞かせる。




何分歩いただろうか。喉を使いたくないので誰も話さないでいると、涼しい風が吹く。


「…あれ、水?」


マリーさんが指さす先には、広い水溜まりがあった。

整備されている周辺。赤錆が酷いバス停には、辛うじて読める「湖入口」という名前。


「水!水だよ!」


走り出すマリーさんの背を、キキョウさんと追いかける。




低い木の柵を乗り越えて、マリーさんは湖に顔をつける。

思い切り顔を上げて、唸り声を上げる。


「んんーー!」


「…飛び込みたいくらいですね」


「飛び込んで良いと思いますよ?」


「大人がそんなこと…」


僕とキキョウさんの会話を聞いていたマリーさんが、ブーツを脱いで服のまま飛び込んだ。


仰向けでぷかぷかと浮いている。


「気持ちいぃー!」


こちらをご満悦の顔で見る。キキョウさんが唾を飲み込むのがわかった。


僕も限界だった。同じくブーツを脱いで、湖に向かってかけ出す。大きく跳んで水面にダイブした。


そうしてからやっと、僕は産まれて一度も泳いだ事が無い事を思い出す。


どうやって水面に上がるんだ。何か重りでもあっただろうか。


無様に溺れかける僕を、誰かが引っ張りあげる。

目を開けると、マリーさんが僕を抱えてくれていた。


「ごめんなさいっ…!泳いだこと無くて」


「じゃあ、教えてあげる」




キキョウさんは、靴だけ脱いで足を水に入れて座っている。

前に進む事はまだ出来ないが、水面に顔を出す位は出来るようになった。


「そうそう!上手いねぇ」


「ありがとうございます」


水面に浮かぶマリーさんにつられて、僕も青い空を見上げる。


流れる雲に逆らうように、鳥が一羽横切った。


「そういえば、飛行機雲って本当に飛行機なんだねぇ」


マリーさんがそう呟く。


「飛行機雲?何ですかそれ」


「確かに、もう見ないかもしれないですね」


キキョウさんも、同じように雲を眺める。周りの木々も見えない、ただ青く青く、広がる空。

上に宇宙と呼ばれる物があると、話だけは聞いている。

本当にこの向こうに、さらに世界が広がっているのだろうか。


「いつか見る時があったら、カリンにも教えてあげるね」


「…見れるといいですね」


「黒船があるので、いつか見れる時が来ますよ」


「…ヒマワリさんとも、こんな感じだったんですか?」


ふと聞いてみた。2人とも空を見上げたまま、ぼんやりと言葉をこぼす。


「そうだねぇ…私もヒマワリちゃんも、泳ぎ方知らなかったから、ベェやツユクサに教えて貰ってたね」


「こんな景色を楽しむのは、あの時が最後だと、みんな思ってましたが…案外しぶとく生きてますね。僕たちは」


風が吹いて、顔を冷やす。


この景色を、リズにも教えてあげたいな。

そう思うと、こうしてはいられなかった。


拙い動きで岸に戻り、重い服を少し絞る。


「行きましょう!皆さん!僕、この景色を次に繋げたいです!」


「そうね…行こっか」


「車、見つかるといいですけど」



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