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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
マリー:ツミトル/白夜
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昼、タネと掲示板をぼーっと眺める。

生活用品、衣類、医療品、雑貨等。欲しいものは無くならない。

食料以外の自給自足ができない僕らは、今も回収員として誰かの欲を叶える。


「…ベェ?」


昔のことを思い出すのは嫌いだ。楽しかった思い出は、それだけで今の決断を鈍らせる。


「あ、ベェさん。お疲れ様です」


声をかけられてそちらを向く。シライシとカワイだ。

シライシがタネの頭を撫でる。


「珍しい組み合わせだな」


「奥さんに何プレゼントすればいいかって、カワイさんが」


カワイが慌てた様子で、シライシに愚痴る。


「お前口軽すぎだろ…」


「大丈夫ですよ、ベェさんなんだし」


2人の会話も、どこか上の空で聞いている。


「そうだ、さっきリーダーと話しましたよ」


マリーの事だ。


「…なんて?」


「ベェさんが、旧市街の奥に行きたいって言ってるって」


個人的な話と言うのは、こうも簡単に広まるものかと笑ってしまう。


「そうだな…でも今は悩んでる」


皆の事を思えば、行かない選択が妥当だろう。

シライシは、予想に反したことを言った。


「行かないんですか!?勿体ない」


「勿体ない事は無いだろ」


「俺、ついて行きますよ」


いつもの顔で、シライシが言う。


「危険を冒して、シライシが付いてくる必要は無い。家族が居るんだ」


「ベェさんなら、生きてやり遂げますよ。何回助けてもらったと思ってるんですか。それに、折角ならリナに自慢したいんで」


「あのなぁ…」


続いてカワイが口を開く。


「そもそも、回収員は歩合制だったじゃねぇか。特大の案件なんだから、ベゴニアが適任だろ」


「…仕事じゃない。これはエゴだよ」


「俺はお前さんの荷物は背負えねぇ。代わりに、お前さんの分まで働いてやるよ」


「カワイさん。ベェさんが死ぬ前提で話してます?」


「この辛気臭い顔を見ろ、これだけ戦果を上げた男が死にに行くみたいな顔をしてるんだ。結局男は、女には勝てねぇな」


「ベェさんも、案外男ですよね」


「そんな風に見えてたのか」


「なんというか、欲の無い人のイメージがありましたけど、特大の欲望を抑え込んでる人でしたね。安心しました」


そう言葉にされると、何だか恥ずかしい。


「行く時は、俺にも声掛けてくださいね!」


「頑張れよ、ベゴニア」


そう言って2人は商店の方に歩いていった。それを見ながら、何も言わずに手を振る。


悪い気はしなかった。理由が分からずとも、こうして誰かに認められている。

ちっぽけな自分が、いつの間にか大きくなっていた。

自分の見えないものを教えてくれた2人の背中に、そっと感謝の言葉を呟く。




何となく、他の人の意見が聞きたかった。

工房に行くと、ユウトとエヴェリンが居る。


「…なるほどな。で、ベゴニアはどうしたいんだ?」


「それは…」


行きたい。でもそれと同じくらい、皆の負担にはなりたくなかった。


「反対派の意見は尤もだ。生きてるか死んでるかも分からない昔の女の為に危険を冒すのは愚の骨頂だ」


ユウトの指摘に唇を噛む。それが分かっているからこそ、行きたいと言えない。


「だが、俺に言わせればこのコミュニティは泥舟だ。それを支えてきたのはお前だろ?」


「いいや、みんなで支えてきたんだ」


エヴェリンが腕を組んで唸る。


「デモ、リーダーの気持チも分カリマス。ヤッパリ、誰ニモ死んデ欲シクはアリマセン」


エヴェリンの視線は、ユウトに向けられている。

僕だって、誰にも死んで欲しくない。でもそれが、衝動のブレーキになっている。それがどうしようも無く嫌だった。


ユウトはこちらを向いて、真っ直ぐに答える。


「ナジールを倒した。ベゴニアの証明は、それだけで十分だ」


どこに行っても、自分の肯定は強さだ。

僕は、強さ故に背中を押される癖に、その影に潜む弱さが障壁になる。


全員を守りきって先に進めない。そんな強さに、果たして意味はあるのだろうか。


「黒船にとっても、中央への進行は重要な任務だ。もしもベゴニアが行くというのなら、俺も同じ船に乗ろう」


「共ニ行キまショウ!ベティと私ニ任セテ下サイ!」


「…ありがとう」


2人の言葉が、また背中を押してくれる。

振り返れば果てしない。そこにある道のり。

自分がやってきた事だけは、確かにそこにある。


それでも、目の前の闇は、まだ少しも見えない。


「なーにお通夜みたいな会話してんの」


奥にいたハヅキが、エプロンを外して戻ってくる。

ユウトが何かを察して、少し気まずそうな顔をしている。


手袋を外したハヅキが、腰に手を当てて僕を睨む。


「ふーん、私より前に好きだった女のところに行くんだ?」


「…」


何も言い返せないでいると、ハヅキは吹き出して笑った。


「嘘だって、冗談。それでも私を選んでくれたこと、解ってる」


「…どこか、重ねてた所があるのは事実だ」


「へぇ、そんなに良い女だったんだ。私も会ってみたかったなぁ。ヒマワリさんに」


「…ごめん」


「謝らなくていいの。あんたがどんな人も大事にする奴だから、私も好きになったんだから」


俯く僕の顔を、義足を曲げてハヅキは覗き込む。

その顔に、怒りや悲しみは感じなかった。


「だから今度は、あんた自身を大事にしなよ?」


「…」


何も言い返せなかった。何を言っても、自分の本心じゃない気がしていた。


「…ありがとう」


「どういたしまして。ちゃんと隠しててくれて、ありがと」


ハヅキは笑って、工房を後にする。それを、3人は目で追いかけるだけだった。


「…良い奴だな」


ユウトが呟く。それを聞いて、エヴェリンがムッと頬を膨らませる。


「…あぁ、本当に」


「ハヅキも、ベゴニアもだ」


続きの言葉に、エヴェリンの膨らませた頬が戻る。


「…That's true 」


視線の先で、タネがじっとこちらを見ていた。

この工房に入ってきた時から、何も言わずに僕らの会話を聞いていたらしい。


タネは、どうしたいのだろう。そんなことを考える。

種族が違えど、歩んで来た道は同じだった。

この先も、同じ未来を見れるだろうか。

本資料は、コミュニティ内の生存者たちからの証言を基に、

パンデミック後に起きた出来事を整理したものである。


ただし、記録は断片的であり、正確な年月日や地域の特定には偏りがある。

また、証言者の記憶違いや誇張が含まれる可能性があるため、

あくまで「当時の人々が何を見たと語ったか」を記すに留める。


2052年2月…パンデミック宣言

2052年3月…事実上の日本政府崩壊

2052年8月…ゾンビの活動停止を確認

2052年9月…パンデミックが終わり、人々は自力で生活を始める

2052年12月…大寒波、備蓄食料の不足で地方を中心に多数が死亡


2053年5~6月…本州各地で大規模地震。沿岸都市の地盤崩落が確認される

2053年9月…上空を弾道ミサイルが通過。発射元は不明

2053年11月…熱気球で飛行した者がいたが、上空で“謎の生物”に襲撃され墜落


2054年(終末3年目)4月…ベゴニア、ヒマワリが合流

2054年6月…東の旧市街が虫と胞子の支配下にあることを確認

2054年6月…ヒマワリの失踪

2054年8月…回収員立ち上げ

2054年10月…立ち上げ当時に参加した回収員のうち6割の死亡を確認。不安の声が上がる一方、コミュニティの急速な発展が進む。


2055年1月…西にある別コミュニティと連絡が取れる。

2055年5月…南の旧市街への遠征を開始する。

2056年3月…西の別のコミュニティで"変な生き物"を確認したと言う報告があがる。


2056年7月…本編

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