東と前
マリーとサルビアは、向日葵の種を見て目を丸くした。
2人には言っていない。男だけの秘密の場所。
「それは…」
「そうだ。これを手にするまでに、長い時間をかけた」
「なんで、教えてくれなかったの?」
「本当は、いつか見せて喜んでもらうつもりだった。まさかこんな形でお出しする事になるとはな」
ここまで無言だったサルビアが話す。
「ケチくさいなぁ。男の秘密ってやつ?」
「…そうとも言う」
「で、それをその中央に持ってくわけね」
「…8つの花。残り1つ。これが示す答えは、ヒマワリと探した、最後の1つだろ?」
"東の街に、花を咲かせる"ヒマワリはそう掲げていた。旅の途中で拾ってきた、7つの種。
そうだ。確かにケラ喰いは「タネ」じゃないか。
仮説のはずのバラバラのパズルは、完成の図式が見えた途端にハマっていく。
それが、どうしようもなく怖い。
そこに出来上がる絵が、自分たちの思い描いた物では無いのかもしれない。
それでも
「…僕も、ジニアと同じだ。ヒマワリがどうなってしまっていても。僕らにとっては大事な人なんだ」
ジニアと目を合わせる。その視線の交差に、サルビアが頭を突っ込む。
「…ベェが面と向かって意見を言うの、珍しいね」
「…そのために、何人を犠牲にするつもり?」
マリーの一声に、言葉が詰まる。
「そうしない為の努力を、ここまでしてきた。今は黒船も居る」
「ジニアの班員は、あと何人だっけ?」
マリーの鋭い指摘に、ジニアは黙る。続いてキキョウが口を開いた。
「僕も反対ですね。ヒマワリさんがどうこうではなく。死傷者を増やしてまで得たいとは思いません」
キキョウはひと呼吸おいて、静かに言う。
「僕たちはもう、あの頃とは違うんです。守るものも、背負う物もある」
尤もな発言だ。諦めていた青春が、思わぬ形で戻ってきた。そして、それをまたもう一度捨てる。そういう事だ。
「ボクは別に、どっちでもいいよ」
サルビアが、どうでもいいと言わんばかりに呟く。
「というか、行きたいやつが行けば?」
「でも、そしたら回収員はどうなるの?」
「2人が優れているのは、ボクにも分かる。でもさ、この2人が今、不慮の事故で死んだら?」
話しながら、サルビアは持っていたフォークを僕に向けて投げる。顔の目の前で、それをキャッチする。
「…背負える背中があっても、それをするのかどうかは2人の自由でしょ」
そう言うサルビアは、誰の目も見ていない。ただぼんやりと、フォークを投げた手を見つめている。
まるで、手放した何かを探しているような目だった。
「…サルビアちゃんは、どうしたい?」
「虫が殺せるなら、ボクはどっちでもいい」
これまで古参は、ヒマワリに生かされた人生を、どう人の為に使うのか。そう考えてきた。
それの結果が回収員であり、マリーやキキョウの責任にも繋がっている。
でも今、そのヒマワリが遺した"別の最後"が、こうして僕らの前に現れた。
僕は、それを見たいのだ。
これまで積み上げてきた、ヒマワリの為の利他。
これまで無かった、ヒマワリの為の利己。
僕らは結局。違う形で彼女に縛られている。
「…カリン、リズ。2人はどう思う?」
古参以外の意見が欲しかった。先に答えたのはリズだ。
「私は…行ってみたい」
「リズ…」
不安そうにリズを見るカリンに、リズは笑いかける。
「ボロボロのお兄ちゃんを見て、私も役に立ちたいと思ったの。それで誰かの役に立てるなら…」
リズの意志を、キキョウが反対する。
「リズ、君は充分役に立っている」
「ありがとうございます、キキョウさん。だからこそ、私は私にしか出来ない事があるのなら、それをやり遂げたいんです」
「それは、自己犠牲の類だ」
「…リズが行くのなら、僕も行きます」
他の人には無い、特別なものをもった兄妹。
2人は、その力に半分酔いしれているのではという危険な何かを感じた。
水を持ってきたアジサイが、いつもの柔らかな表情を感じない、真っ直ぐな目線を僕とジニアに向ける。
「…回収員を退いた身の私が言うことではありませんが…無謀な挑戦だと思うところが、もしお2人に少しでもあるのならば、反対します。私は、お2人に死んで欲しくありませんから」
彼女のように。そんな言葉が続いた気がした。
本当は自分でも分かっている。この話に「行かない」を覆す理由は無い。
手に持ったままのフォークを、そっと机に置く。
「…この話は、また整理してからしよっか」
マリーがそう言った。それがいいと思った。
しばらく立ち上がる気にはなれず、ただボーッとしていた。
マリーとキキョウとサルビアは、もう退席した。
リズはキキョウについて行き、ユユもマリーについて行った。
今机に向かっているのは、僕とジニアと、カリンとアジサイだ。
タネは、今も料理を食べている。
「お2人の気持ちは、よく分かります」
「…正直に言うと、アジサイが反対してなかったら、僕らは暴走してたかもね」
僕の軽口に、ジニアが笑う。
「そうだな。行くと言うのなら、それを立証出来るだけの材料を揃えなくてはな。それが大人だ」
「…カリンは、本当に行きたい?」
その問いかけに、カリンは一度目線を逸らす。
「正直でいい」
「…リズには、行って欲しく無いです」
それを聞いて、気持ちがもう一段階落ち着いた気がする。
「リズを守るんだったな」
「…僕に出来るでしょうか…」
「そうなれるように、リズの願いを叶えられるように。これから頑張ろうか」
「…はい」
踏ん切りは、まだ着きそうもない。
それでも今は、出来ることをしなくてはいけない。
先ずは、食べすぎているタネを止めないと。




