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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
マリー:ツミトル/白夜
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与えられた役割

ユユの真剣な表情は、どこか警戒を感じる。

東を見つめるタネの瞳の模様が変わる。


「ママっていうのは…?」


ユユもタネも返事をしない。ベティの上で、遠くに聞こえる鐘の音だけが聴こえる。


「…東の街」


タネが、こぼれるような声で静かに言った。


「タネ、どういう意味だ?」


肩を揺すると、タネはこちらを見る。その瞳の模様は、花の形をしていた。

マリーの表情が固まる。旧市街の事を「東の街」と言っていたのは、1人しか居ない。


「タネ?」


「…8つの花…」


返事というよりも、何か見たものを反芻しているような感じだ。

タネが瞬きをすると、瞳の模様はいつも通りになった。


「…タネ?」


「うん」


やけに冷たい返事だったが、すっかりいつものタネだ。ユユはと言えば、耳を塞いで頭を抱えている。


「ユユ?何があった?」


「ママの遺言だ…多分。胞子が言葉を運んできた」


「…なんと?」


「…東の街の中央。8つの花を完成させる。残りは1つ」


残りは1つ。頭の中で繰り返す。

マリーと顔を見合わせる。僕らには、心当たりがある。


「それが、ママの遺言?」


「…そう」


忘れたつもりは無いその顔が、声が、記憶の中で駆け巡る。


「…ベェさん?」


「…」


シライシの声掛けが聞こえない。マリーに揺さぶられて我に返る。


「…1度帰ろう。みんなと話してから決める」


「…決めるって」


「ベェだけじゃない。それに、まだ可能性の域を出ないよ。だって」


マリーが1度区切る。その顔は、受け入れる事への躊躇いを感じる。


「…彼女はもう、死んでるのだから」




ボーダーラインが崩れている。

元は外縁10km地点で整列し、まるで壁のようになっていた胞子が、塞き止められた水が流れ出したように溢れている。


胞子領域を抜けたのは、記憶では外縁9km辺りの場所だった。


「むしろ、今までの壁の胞子が変だったんですけど。違和感ですね」


「これも、ママの影響か?」


「恐らく」


ユユの返事はパッとしない。すっかり日が出た旧市街は、相変わらず静かだった。

ここまで来ると、鐘の音もしない。


日の下に出たベティは、ナジール戦でのすり減り傷や、ドローンの機銃による凹みが増えているが、それでも力強く走り続けている。

カリンがその傷を左手でなでる。


「戦車って、凄いんですね」


「当然デス!ベティはコウ見エテ長生キデスよ!」


キューポラから上半身を出したエヴェリンが自信満々に腕を組む。

人差し指を上げて、エヴェリンは思い出すように話す。


「A tank that keels over before its crew isn’t worth a damn.」


ずらりと英語で話されるが、分からない。


「ユウト、なんて意味だ?」


「古い兵器ってのは、それだけたくさんの人を救ってきたって事だ」


「…まァ、合ってマス」


それを聞いて、カリンが呟く。


「…"古参"って事ですね」


なんだか気恥しい。マリーが複雑な顔をしているのは、救えなかった人達を思い出すからだろう。


「長い目で見たら、僕はベティの足元にも及ばないな」


カリンの背中に提げたメイスに視線を向ける。

自分が何のために回収員をやっているのか、正直なところよく分かっていない。


昔から、一人で生きる事に憧れがあった。

パンデミックが起きて、周りの人達がみんな死んで、計らずも夢が叶った。


思い描いた夢は、想像よりも良いものでは無かった。


そんな時に出会ったヒマワリと、共に旅する仲間たち。

あの時の数ヶ月は、僕にとって人生でいちばん楽しい時間だった。


2度目の青春が終わり、転がり込んだコミュニティで始めた回収員。


虫に殺された者。呼吸器系の病気で死んだ者。色んな人たちを看取って来た。

生き残る才能はあった。でも、守る才能は無かった。


「ベゴニア、覚えてるか?」


ふとカワイに声をかけられる。回収員を除けば、黎明期の終わり頃に参加したカワイは上の方だ。


「俺は何度もお前さんに助けられてきた。今もそうだ。俺がベゴニアの班に入ったのも、あんたの班なら生き残れると思ったからだ」


「まぁ実際、べぇの班が1番死傷数が少ない」


マリーがフォローを入れてくれる。


「そうなのか?」


「ジニアの班は、奥に進む性質上、ケラ喰いによってミナトさんとジニアの2人以外は死んだよ…キキョウが旧市街に出てないのも、リズが看護師として入ってるのも、それが理由なんだ…」


言葉を詰まらせながら、マリーは静かに話した。

ジニアもサルビアも班長なのに一緒に行動出来た理由は、そういうことだった。


もしかしたら、大人しく東の旧市街を放棄していれば、こんな事にはならなかったかもしれない。

そんな考えが頭をよぎる。


回収員で、ポジティブに何かを言える人は居ない。そんな空気をユウトが切り裂く。


「ならお前たちは、何故東京を目指す?」


極めて原初的な行動理由だ。一番に口を開いたのはシライシだった。


「俺は、リナに仕事の話をすると喜んでくれるんですよ。冒険譚って言うんですかね?寝る前の読み聞かせみたいなやつです。眠くなりながら話を聴くリナが可愛くて、それが嬉しいんです」


家族思いの実にシライシらしい理由だ。続いてカワイが口を開く。


「俺は金のため…ではあるんだが、実を言うとこの街の出身なんだ。別に思い入れも無いが、仕事をしてると、昔行った店の看板なんかを見るんだ。また昔みたいな生活が出来るように、頑張ろうって思えるな」


次にマリー。


「私は…分からない…」


リーダーとして、旧市街に行くことは少ないし、リーダーとしての仮面は、独白には向かない。

俯くマリーを、皆が少し不安そうに見つめる。先程の取り乱した姿から、それとなく推察しているのだろう。


続いてカリンが静かに話す。


「僕も…この街出身です。外には出てませんでしたけど…リズ、妹を守るために、妹の事が知りたくて…見覚えのある遊園地は、思っていたよりもずっと大きかったです」


ナジールの居た場所だ。カリンの窓からの思い出の場所はもう、炎に包まれ、黒い箱がそびえ立っている。


思い出したように、カワイが本を取り出した。

ベティの中に閉まっていた、胞子についての研究記録だ。


「ケラ喰いの事とか書いてありますかね?」


「どうかな」


表紙をめくる。一番初めの前置きには、次のように書いてある。


"本資料は、西暦2051年現在、日本の都市部にて確認されている正体不明の胞子についての記録てある。


先に結論を述べる。この胞子は、地球上に存在する如何なる生物とも類似性を確認出来ない。生物の死骸に入り込んだこの胞子は、遺伝子情報の解析のために死骸を操作する性質が見られた。


従来の既知の病原体、ウイルス、寄生虫、いずれの分類にも該当しない。本因子は既存の生物学的枠組みを逸脱しており、本記録では暫定的に『屍操因子(しそういんし)(Necro Factor)』と命名する"

お久しぶりです。作者です。関係ない話をします。


人って、殺しにくいですよね。あ、作品の話です。

死そのものに、あまり美学を感じてないんですよね。

それに、何か残して死ねるって、素晴らしいことじゃないですか。

作者が今死んでも、遺せる物が何も無くて焦ります。


終末世界は、元の人の数が少なくて、少し死ぬだけでバランスが崩れてしまうんですよね。

なので、はなから「出来ない奴はみんな死んだ」ってつじつま合わせしてます。

それが僕の思う終末世界です。


目に見える数が全てでは無いと言うことですね。

浮気する男が多く見えるのは、それだけ浮気する男が色んな女性と関わるから多く見える。みたいなあれです。


皆さんは浮気しないでくださいね。でないとこの世界では生きれませんから。なんの話でしたっけ?


これからも、彼らの生き方について追いかけて行くので、どうぞよろしくお願いします。

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