侵略者(インベーダー)
トップスピードで駆け抜けるベティに、回収員はアンカーを引っ掛けて飛ばされないようにしている。
それでもドローンはそれに離れることなく追いかけてくる。狙いはベティだ。
暁鐘者と呼ばれるドローンの顔は、どれひとつ同じではなかった。
老婆、青年、子供、婦人、誰かの笑顔、歪んだ泣き顔。
それらが無数に浮かび、こちらを見つけると睨み付けてくる。
そうして追いかけてきては、均一な鐘の音を鳴らしている。
「ゴォーン……ゴォーン……」
感情も意味もないのに、なぜか訴えかけてくるようで、耳の奥を爪で掻かれるような不快感が残る。
「気味の悪い顔だ。そのうち自分が出てきそうだ」
カワイが吐き捨てる。機銃で撃ち落とすたびに顔は崩れ、しかし別の顔がすぐに現れる。
「キリがないな」
「まるでインベーダーゲームですね」
「この場合、やつらにとって侵略者は僕らかな」
「久しぶりにやりたくなりますね。ベェさん、2台持ち帰って対戦しましょう」
「今やってるだろ」
こちらも空気銃で応戦する。散弾ペレットでちまちまと落としていく。
近づいてきた顔は怒り顔を向けながら、取り付けられた機銃を撃ってくる。
ベティの砲塔に隠れる。ベティは硬いが、いつ装甲を抜かれるか分からない。
まるで『消しても消しても終わらない夢』を見せられているようだった。
「防衛何とかって言ってなかったか?なんで人間を攻撃するんだ」
「恐らく火薬…兵器を狙っている。戦争による侵攻への防衛用なのだろう」
「戦争するだけの人間は生きてないのにな」
「全くだ。虫とやり合ってたら昔の人類の兵器に邪魔をされるとは皮肉だな」
ベティが煙幕を張った途端、ドローンの顔が乱れる。
姿が見えなくなるドローンは、鐘の音だけが少しずつ遠くなっていった。
路地裏に身を潜め、ベティを布で隠す。
積んでいた砲弾を全て外に出して、別の場所に隠した。
「軽くなるし、燃費も良くなる。砲撃や機銃は使えなくとも、移動出来るので問題ない」
空気銃は火薬を使わない。故に探知されることは無いと判断している。
マリーがフジを撫でながら、座り込む。他の者も同様に、ナジールとの戦闘から動いてばかりだ。
「またベェさんが倒れられても困りますからね」
シライシの軽口に言葉を返そうと振り向くと。シライシの後ろに顔があった。
思わず目を丸くする。顔を顰めたシライシが後ろを見る。
「…っ!!?」
驚きのあまり飛び退いたシライシは声も上げずに尻もちをつく。
ドローンのホログラムで映される無機質な中年男性の顔は、口を動かすことなく話し出した。
[市民の皆様は、速やかに安全な区域まで避難してください]
ホログラムの顔が消え、地図が映し出される。
赤点で記されたそこは、先程ナジールを殺した。暁鍾者と呼ばれる巨大な黒い箱が出てきた場所だ。
[市民の皆様は、速やかに安全な区域まで避難してください]
録音されているとされる同じ言葉をもう一度流し、地図を出したまま低空でゆっくりと動き出す。
カワイが訝しんだ顔をする。
「…付いてこいと?」
「子供泣くぞあれ」
「避難誘導だろう。無視して帰ろう、シライシ起きろ」
珍しく呆然と座り込むシライシは、ゆっくりと立ち上がりながら話す。
「…今の顔、昔の上司に似てた気がします」
「嫌いな、あの?」
「…気のせいですね。すいません変なこと言って。行きましょう」
立ち上がりしりに着いた埃を払うシライシは、もういつものシライシの顔をしている。
どこかに行ってしまったドローンを、カリンが見つめている。
砲弾も機銃弾薬も抜いたベティは、もうドローンに狙われることは無い。
少し先で虫に機銃を掃射して殺している。
「人間以外は殺しちゃうんですね」
「タネとユユは狙われないな。見た目か?」
1台のドローンがこちらに寄ってくる。今度のホログラムは若い女性だが、どこか不気味だ。
先程と同じことをして、どこかに行ってしまう。
「…あれもシライシの知り合いか?」
「変な事言わなきゃ良かったです…きっとあのおっさんも別人だったのに」
カリンがクスリと笑う。それにシライシがムッとする。
「カリンの知り合いの顔も、あるかもしれないよ?」
そんな軽口に、カリンは笑いながら返した。
「えぇ。まぁ、あのおっさんの顔。僕の父の顔でしたけど、シライシさんの上司だったんですか?」
「え?えーっと…」
あまりに普通に言うカリンは、初めの頃に「父を殺した」と言った時と似ていた。
「カリン。今のおっさんは他人の空似とかでは無いんだな?」
「はい、間違いないです」
ハッキリというカリンの顔は、あのおっさんと似てるとはあまり思わないが、カリンも大人になるとあんな感じになるのだろうか。
「なら、もっと愛想を良くした方がいいな」
「え?ベェさんが言います?それ」
そんな会話をしていると、横に居たタネが突然東を向いてそちらを見つめている。ユユも同様に、眉をひそめて東を見る。
「…タネ?どうした?」
「ママ…」
「ママ?ユユは分かるか?」
ユユはこちらを一瞥して、また東を向いた。
「…ママが死んだ」




