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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
ジニア:セオウ/ゼロkgの重り
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出来ないことを

「…今は、白い壁のところから2400m離れてる」


「外縁12.4kmか、ジニアと離れた所から500mほどだな。合流場所はどのくらいの距離だ?」


「…ここから南東に1.5km。着いたら赤いのを上げろって言われたけど」


ヴィンの方向感覚と距離感覚には驚かされてばかりだ。

赤いのとは補給支援砲台だろう。そこまでの情報をあの手信号のみで伝えていたのにも驚きだ。


「…師匠。本当にユユを連れて行くんですか?」


「ジニアの判断をあおりたい。それに、こいつは思ったよりも詳しい」


カリンの不安はもっともだ。だが、ユユが居なければカリンを止められなかったとも思う。


旧市街を知っているつもりだったこの前までの自分では、想像できない事ばかりだ。


本当に、ヒマワリはまだ居るのだろうか。




ヴィンが立ち止まる。そこは大きなキャンパスのある大学跡地だ。


「…多分、ここ」


ヴィンの言葉に、信号弾を撃とうとするのをユユに止められる。


「待って。ここタネ。いやケラ喰いが居る」


「…なぜ分かる?」


「あれ見て」


指を指す先、建物の壁の低い位置に虫の抜け殻が引っ付いてる。

形的に鎌持ちのだろうか。初めて見たかもしれない。


「あれ、よく巣にされてる」


「ケラ喰いは寝ないだろ?」


「見れば分かるよ」


「今待てって言ったのに、今度は見ろって」


愚痴りながらも渋々近づく。近くにトンボが飛んでいる。ケラ喰いの気配は無い。


破かれた抜け殻の背中の中を覗くと、そこには赤ちゃんのおもちゃのガラガラや、絵本が中に詰まっている。

ツユクサの手記はこれの事だろうか。


「…なぜ、おもちゃを集めるんだ?」


「分からない。何故か分からないけど、集めてる」


ユユは抜け殻から絵本を取り出す。パラパラと捲るが、読んでいる雰囲気は無い。


「読めるのか?」


「読めない」


ぶっきらぼうに吐き捨て、絵本を閉じる。抜け殻の中に戻した。


ケラ喰いの巣は、キャンパスの裏にもうひとつあった。ここにも、こどものおもちゃが入っている。


抜け殻は、思ったよりも頑丈で、おそらく人が1人入るくらいなら破れることは無いだろう。


「…揺籃、みたいですね」


「…おもちゃ箱にも見える」




奥の小さな倉庫の前で、シライシとミナトが立っている。


「あ!ベェさん!」


ユユに驚くミナト。反対にシライシは吹き出した。ユユのこの格好なら訳ない。


簡単に説明する。


「ベェさん、よくはぐれますよね。迷子ですか?」


「まぁ、ロストボーイではあるかもしれん」


「ネバーランドにこんな無愛想な人居たら、子供泣きますよ」


「ワニが出たら、逃げるからよろしく」


「タネちゃんって、爬虫類っぽいですよね」


「これこそ、ネバーランドに居たらダメだろ」


「ユユのこの格好はちょっと…ベェさんのセンスですか?」


「違う」


くだらない会話をして、シライシはカリンに向き直る。


「…カリン、無事で良かった」


「迷惑をおかけしました…」


「これ、見ました?報告にあった巣というのは、これで間違い無いですね」


「タネちゃんは、こういうの好き?」


「ううん」


タネの新鮮な返事に、シライシは嬉しそうだ。


「ジニアとルンクは?」


「こちらで身を隠しています」


ミナトの案内について行く。




ルンクは、ヴィンを見てサムズアップをする。ヴィンも無表情でそれを返す。


「どうだ?ヴィンは凄いだろ?」


「なんでルンクが自慢げなんだ」


ユユを見たジニアの反応は、おそらく混乱だろう。

以前出会った喋るケラ喰いが、突然現れて変な格好をしているんだ。無理は無い。


「…なるほどな。お前なら、カリンを置いて来ると思っていたよ」


「…まぁな」


「…で、カリンと、そこのユユはどうするつもりだ?」


「…それを、ジニアに聞きに来た」


真剣な顔をしたジニアの正面に座る。

もちろん、こんな所で内輪揉めをしている場合では無い。

故に、僕はジニアに託す。ジニアが殺すというのなら、僕も従う。


「方針を丸投げするのは、ベゴニアの悪い所だ」


「…すまん」


カリンとユユを座らせる。ユユは、念の為に脚を縛っている。


ジニアがユユの前に立つ。


「なぜ、コミュニティに入りたいんだ?」


「…それは、人間について、知りたいから」


「知ってどうする?」


「……」


「答えろ。俺は、判断材料が欲しいだけだ」


ユユの背部腕が縮こまる。


「…その方が、行き残れるから」


ジニアが鋭い目つきでユユを見つめる。沈黙に、外野も黙り込むしかない。


「俺は人類存続の為に動いている。他の能天気とは違う。人間でないお前が、俺に何のメリットがある?」


「…」


ユユが目を逸らした。それを見て、ジニアは顔を上げる。


そのまま次は、カリンの前に立った。


「カリン。お前は、自分で暴走を止められると思うか?」


カリンの緊張が見て取れる。肩を寄せて、背筋を丸めているが、目はジニアの方を見ている。


「…無理だと思います」


「なら、どうするんだ?」


「…僕は、どうしたらいいですか?」


逆に、カリンがジニアに尋ねた。ジニアの顔は変わらない。


「ふむ。素直に出来ないと、人に聞く事はいい事だ。だが、その答えを俺は持っていない」


ジニアがこちらを見る。


「ベゴニア。お前は、こいつを殺せと言ったら殺すか?」


「あぁ、勿論だ」


カリンが驚いた顔でこちらを見る。

もちろん、殺さない為の努力はするが。


「…僕は、ヒマワリが出来ない事をする。ジニアもそうだろ?」


ジニアは、少し鼻で笑った。


「…そうだったな」


ジニアは再びカリンの方を向く。その顔は、先程の冷徹な表情に戻っている。


「カリンは、今後マリーの管轄下に置く。いいな?」


カリンは唇を噛んで頷く。

続いてジニアはユユを見る。


「ユユ、お前をコミュニティに入れる場合、こちらも条件を」


言葉の途中で、沈黙を切り裂く音がする。

たまにコミュニティの夕方に聴くその音が、ここで聞こえるはずは無い。

シライシが口を開く。


「……ひぐらし?」


その音は、確かにひぐらしの鳴き声だ。遠くから聞こえてるはずなのに、耳元で鳴いているように鋭く響く。


「…話は後だ。雑音が入ったようだ。悠長にはしてられないな」


ユユの縛られた脚を解放する。倉庫のドアを開けると、ひぐらしの鳴き声は大きくなる。


どうせ、今のユユは逃げない。逃げた所でこちらにデメリットは無い。


「…人間は狡猾だ」


「…それ、犬にも言われた」

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