表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末都市の塵芥  作者: Anzsake
ジニア:セオウ/ゼロkgの重り
49/132

アウリス(前半)

倉庫から出る。夜の胞子は霧のように流れ、月明かりを細く裂いては乱反射させる。


空気そのものが白く濁って見える中、ガスマスク越しの呼吸音が、やけに大きく胸に響く。


それを押し潰すように、ひぐらしの声が近づいてきた。

耳の奥を突き刺すような甲高い鳴き声だ。距離の概念を無視して、真横から聞こえるような錯覚を覚える。


「…なんか、声でかいですよね?」

「そうだな。でかい」


姿は見えない。しかし、確実にこちらに近づいている。

ジニアが杖を取り出し、エコーを放つ。周囲の生き物の数が、光る数字となって浮かぶ。


「10体…」

僕、シライシ、カリン、タネ、ジニア、ミナト、ルンク、ヴィン、ユユ。

あと一体、どこかにいる。


「待て…数が増えてる」


ジニアの杖についたカウンターが、脈打つように跳ね上がる。

二十、三十…それに合わせて羽音が重なり、耳を塞ぎたくなるほどのうねりになる。


地面に重い風が落ちた。胞子と砂が混ざり合い、目を刺すような痛みが走る。

その風とともに、月明かりが一瞬、完全に消えた。何か大きな影が頭上を横切ったのだろう。

なのに、姿は見えない。ただ、耳元で飛行機がかすめたような圧迫感だけが残った。


虫の羽音が、壁の外で波のように膨らんでいく。

その波の先頭で、ひぐらしの声が、建物の壁をなぞるように回っている。


「…何か、居るのか?」


次の瞬間、外壁を辿って鎌持ちの群れが押し寄せた。

全ての個体が同じ角度で首を傾け、同じ歩幅で進んでくる。その異様な統一感が、虫というより兵隊の行進に見える。




「おい、隠れるぞ」


倉庫はボロいので、キャンパスの方に走る。

校舎内に入ろうとした時、無数の鎌持ちが倉庫を破壊した。


「ゲェ…あんな数居たのかよ…」


「見とれてる場合じゃない。ヴィンを引っ張ってきてくれ」


「もちろんだ!おいヴィン!指が落ちる前に逃げるぞ!」


建物の中でも、ひぐらしの声は止まない。というか、建物の周りをぐるぐるしている。


その声に付いてくるように、鎌持ちが無数の行進をしている。


「ここまで色々あったけど…こんなやばいのは初めてた」


そう言いながらも、ルンクは笑っている。


「楽しそうだな」


「当たり前だ。じゃなきゃ、初めからこんな所に来ちゃいないよ」


「…それは、ヒマワリを探すためか?」


ヒマワリと言う言葉に、一瞬ジニアが反応する。


「それもあるけど…面白いじゃんか」


面白い。確か、あいつもそんな事を言っていたな。


「ジニア、これじゃ袋小路だ」


「あぁ、分かってる。いっそ、決死の覚悟で飛び出して逃げるしか無いかもしれん」


「…あれは、何を狙ってると思う?」


その問に、ユユが答える。


「…多分、タネ。ケラ喰いだ」


「…詳しいんだな」


「あんたも、あの芋虫を見ただろ。最近、ケラ喰いを狙う虫たちだ。ただの虫じゃない」


「あのひぐらしの鳴き声が、ケラ喰いを殺すために鎌持ちを連れていると?」


小さく頷くユユ。何か言いかけたが、虫の羽音とひぐらしの声に掻き消される。


「なら、やることはひとつだ。タネとユユを置いていく」


ジニアが冷たく言う。真っ先にシライシが反論する。


「そんなのダメです!タネちゃんは置いて行けません!」


「何処にいるか分からない本体と、無数の虫相手に倒す手段を決めてから反論してくれ」


「…!」


ひぐらしの声が、集中力を削ぐ。今も建物の上空をぐるぐる回っている。


「…見えなくたって、殴れば当たるんだろ?」


ルンクが口に出した。そちらに全員向く。


「さっき、月明かりを遮ったよな?なら実体は確かにある。空を飛んでる奴なんて、翅に穴が空いたらただの的だ」


「この虫の大群の中、ひぐらしの位置を特定して撃ち抜けと?」


「…なら、虫の大群は僕が殺そう」


鎌持ちが窓にぶつかる。硝子にヒビが入る。


「…師匠」


「行けるのか?」


「さぁね。ユユを借りる。タネを連れてここを突破し、打開案はジニアに任せるよ」


「……分かった」


「待ってくださいよ!それなら俺も残ります!」


「シライシ、悪いが…それは気が乗らないな」


シライシの前に拳を出す。いつもそうだ。こういう時、僕とシライシはジャンケンで決める。


「…ベェさん。ジャンケン弱いじゃないですか。勝ちますよ」


「どうかな?」


じゃんけんぽん。1発だ。勝ったのは僕。


「覚えてるか?虫の大群に勝つなら3割。まぁユユがやってくれれば、もう少し上がるな」


「…当ててくださいよ?」


「初めから、外すつもりでやってない」


「ギャンブラーはみんなそう言うんです」




ミナトから予備の空気ボンベを貰う。それと切れたアンカーワイヤーを、ミナトの物と交換してもらった。


「ジニアが、貴方なら大丈夫だと言っていました。ご無事を」


「カリンの事、よろしくな」


「もちろんです。預かるだけですからね」


「これ以上はフラグになるからやめようか」


ジニアに目配せをし、僕とユユは反対方向に歩く。


「…逃げてもいいんでしょ?」


「もちろん。ただ、信頼を勝ち取るチャンスでもある」


「…めんどくさいね、人間って」


「そうかもしれんな」


ひぐらしが鳴いている。こんなに不愉快なのは初めてだ。


「行くか」


扉を開けて、外に出る。カリンが持っていた誘導の煙具を放り投げて、近くの虫の鎌を素早く落とす。


殺すのは後だ。まずは片っ端から無力化させる。


次の一体。次の一体。振りかぶる攻撃を避ける。横にいた鎌持ちの鎌が腕をかすめる。それも落とす。

背中に鎌が空を切る。振り向きざまに鎌を落とす。


ひぐらしの声が、遠くなっていく。ジニアの方だろうか。


ユユがしっぽを振り回し、まとめて虫を殺す。危うく巻き込まれそうになるのを、頭を伏せて避ける。


「避けないと殺しちゃうかも」


「その勢いで構わないよ」


30所じゃない。ピンクの煙が上がる中、もうひぐらしの声は聞こえない。


斧を構え直し、息を吐く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ