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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
サルビア:ケイフ/それでも前へ
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知恵の獣

男声の鼻歌が校舎内に小さく響く。


ガスマスクが壊れたサルビアに、簡易フィルタを渡す。


「口に覆っとけ」


「しゃえれないじゃん」


「顎外れた奴は喋るな」


サルビアをホルンとリズに任せ、男4人とタネで校舎に入る。


「いやぁ、懐かしいですね。全然知らない学校なのに」


「既視感ってやつか?」


「ですかね。カリンはより馴染み深いのでは?」


「僕、学校行ってなかったんで新鮮です」


風化はしているがそこまで荒れてはいない。割られた窓から風が入り込む。


鼻歌は2階の一室の中かららしい。ドア越しに耳を澄ませる。


「…1人?にしても、こもった声だな」


思い切りドアを開けて中に入る。


図書室と思われる部屋は、少し紙臭いが綺麗な状態の本が並んでいる。


受付のカウンターの前に、大型の柴犬が居た。


「え?犬?」


「旧市街の中だぞ。呼吸できるのか?」


その柴犬はこちらをじっと見つめている。


「…随分と、怖い人たちが来た」


明らかに柴犬から聞こえたが、柴犬は口を開けてはいない。

その抑揚のない声は、首元の機械から発せられている。


「え?どゆこと?」


「まずは初めまして」


「あ、初めまして」


柴犬は臀を落としてお座りする。その貫禄のある声に何故かかしこまってしまい、お辞儀をする。


「我が空気を吸える理由かい?そんな事より、もっと先に聞くことがあるだろう?」


「…確かに。なんで喋れるの?」


「我にも分からん」


「聞いといてそれかよ」


「詳しい奴がいる。付いてくるといい」


そう言って柴犬は歩き出す。外に出て廊下を歩く。


「名前は?」


「さぁね。皆からは"Fz"と呼ばれていたね」


「呼びにくいな」


「そうだね。何と呼んでくれても構わないよ」


何だか違和感しかないのに、違和感のない声質で話される。

慣れない光景に皆で顔を見合わせる。


「ところで、子供の彼は人間とは違う匂いがするが…その子はあの化け物かな?」


こちらを振り返る事なくFzは言う。タネの事だ。


「あぁ、タネって言うんだ。僕らの仲間だよ」


「化け物は話が通じないと思っていたが、味方になる者も居るのか。我もまだまだ知らない事だらけだ」


タネは自分の事とは知らず、Fzを見つめている。


「ベェ、あれは?」


「Fz、あれは犬だね」


「いぬ」


「ほう。犬を見るのは初めてかい。知らないモノ同士、仲良くしようじゃないか」


少し警戒しながら頷くタネと違い、Fzは軽くこちらを見てまた歩き出す。




廊下をFzに案内されながら歩くと、遠くでかすかに音がする。


廊下の突き当りから一つ手前、美術室の壁に、人が絵を描いてる。


「ヴィン。客人だ」


ヴィンと呼ばれた男はこちらを振り返る。

白い肌にボロい布服を纏い、黄色いスカーフを首に巻いた青年は、静かな眼差しをこちらに向ける。


この青年もガスマスクをしていなかった。


「ベゴニアだ」


「シラ…」


シライシが名乗るより前に、大股で僕の前にやってきて、顔をまじまじと見られる。


壁に描いていた絵は、虫とケラ喰いだろうか。2体が戦っている絵だ。


「…その絵は?」


「…君は、なんでベゴニアなの?」


「そう名付けられたから?」


「…そっか」


絵については何も語らない。まだ僕の顔を見下ろしている。


「君は、何故普通に呼吸が出来るんだい?」


ヴィンは静かに首のスカーフを外す。機械式の首輪がカチリと音を鳴らして取れた。


喉仏の少し左に、人工のチューブが埋まっている。彼が息を吐くと、そのチューブから静かに空気の流れる音がする。


「…凄い技術だな。この世界にまだそんなテクノロジーがあるのか」


「…ずっと昔からこうだから。今もあるかは知らない」


首輪の装置を付け直しながらヴィンは答える。


「ルンクを見なかった?」


「…いや、見てないと思う」


「そっか」


ヴィンは再び絵に戻り、色を足し始める。


「俺、会話にすら入れなかった」


「物静かな子だからね。我も、本当は最初にルンクに会わせるつもりだったが、1人で動いてしまう子だから」


「3人で行動してるのか?」


「あぁ、ずっと西から、ここまではるばるとね」


「何故ですか?」


「それは…」


Fzの言葉は、外の騒ぎ声に掻き消される。


「…リズ!」


駆け出したカリンの後を追うようにシライシとカワイも走る。

ヴィンは気にせず絵を描き続けている。


「行こうか、ベゴニア君。ヴィンは後から来るよ」


「…君付けはしなくていい。そこまで若くない」


「そうかい。では行こうか、ベゴニア。君の仲間の声だろ?」




外に出ると、ホルンがヘスティアを構えて警戒している。

サルビアは日陰で寝ている。ある意味その方が都合がいい


5本個体の死体に、ヴィンと同じ黄色いスカーフを巻いた小柄の人が座り込んでいる。


「…凄い、腕の関節は人間のそれとは完全に別物だ。骨も随分太いな…これ、君たちが殺したのかい?」


ブツブツと話しながらホルンに顔を向ける。女性的なその顔は、ヴィンと同じくガスマスクを付けていない。


「ルンク。ちゃんと自己紹介はしたのかい?」


Fzの声に反応してルンクはこちらを向く。


「あ、やべ。そうだったわ」


立ち上がり僕たちに深くお辞儀をする。


「俺はルンク。東京に、ヒマワリさんに憧れた旅人さ」


「ヒマワリ?」


思わず聞き返す。ルンクは嬉しそうに笑う。


「そう!東の街に希望を抱いて旅をしている俺たちの英雄!」


ルンクは手を挙げて壁画の女性を指さす。


「ここが、噂の東の街って所だよな?なぁあんたら。ヒマワリさんって人知らないか?」


黙り込む僕を他の奴が見る。その視線に気づいてルンクはこちらに歩み寄る。


「あんたなんか知ってるのか?」


「そういえば、君の名前もベゴニアだったね」


「へぇ!もしかして知り合い!?」


「…まぁ、そうだな」


「マジか!」


嬉しそうにガッツポーズをするルンクを見て、心が痛くなる。

ルンクは女性的な顔立ちをしているが、話し方や身体付きから男性だと分かる。


カリンも男子だが、まだ若いから中性的だと思ったが、こちらの方がより顕著だ。


「ヒマワリさんは、今どこに!?」


「……さぁな」


「…さぁって」


「多分、死んだ」


「え…多分?」


「そう思っていたんだが、悪友曰く」


ルンクの真っ直ぐな眼差しが、過去の記憶と、ツユクサの手記と重なる。


「"ヒマワリはまだ、東を向いている"らしい」


ルンクは首を傾げる。僕も、彼には聞きたいことが次々と浮かぶ。

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