追いかける者、振り返る者
トラックに戻り、近くの廃車からタイヤを拝借する。
カワイが積んであるジャッキでトラックを上げて、タイヤを交換する。
「詳しいやつが居て助かるよ」
「これくらいは出来なきゃ恥だろ。俺に息子がいるなら絶対教えてる」
「息子では無いが、今度教えてくれ」
カリンがトラックの中に飛び乗り、何事か探し物をしている。
取り出したそれを見て、ほっと一息ついた。
「僕、1度離れるとは思ってなくて。取り忘れてたんですが…壊れてなくて良かったです」
「マグカップか?」
「はい。猫の耳や取っ手も無事でした」
それを見たルンクが首を傾げる。
「変わった形のマグカップですね。何故こんなものを?」
「これを探してる人が居るんだ。見つけたから、今からコミュニティに届けに行く」
「変なことしてますね」
「まぁ、こう言う特定の依頼は稀だな」
何かしらモゴモゴ言おうとしてるサルビアを、とりあえず無視する。
ボロボロのトラックが動き出す。ボンベの残量も少ないし、なるべく急ぎたいので少し速度をあげる。
ヴィンはFzを撫でながらボーッと外を見ている。
僕の向いに座るルンクが前のめりにこちらを見る。
「回収員!なるほど、ものを集めるあんたらが、虫や化け物の命も集めてるんすね」
「調査の為に回収はするが、別に食べるとかは無いよ」
「そうですか?案外美味いかもしれませんよ?」
横たわる5本個体の死体を見つめる。虫ですら嫌悪してた僕は、ケラ喰いは間違いなく無理だ。
「その首の装置は、どういう物なんだ?」
「これですね?俺ら、世界がこうなる前は地下深くで働いてたんすよ。酷い場所だったんで、これが無いと死ぬんですよ」
「地下深くの…坑道か?」
「そうだね。鉱石資源の採掘場だよ」
よく分かってない顔をするルンクの代わりにFzが答える。
「これを付ける為の施術も…上手くいかなくて死んだやつは結構居たな。まぁ、その時に比べりゃ、今の方がよっぽどマシなんだ」
歯を見せて笑うルンク。シライシが悲しそうな顔をする。
「…ヒマワリさんって言ってたね。知り合い?」
「いやぁ、実を言うと…どんな人かは知りません」
「会ったことは無いと」
「はい。落書きを見たんです」
ドキリとする。シライシとカリンがこちらを見る。
「…そこに、ヒマワリと書いてあったんだな?」
「はい!あ、そうだ。これ…」
ルンクは1枚の写真を取りだした。いつか撮った8人の写真。古参が使い捨てカメラで撮った物だ。
写真の中の僕は、今より髪が長く、今より目が死んでない。パッと見では自分だと分からない。
周りのメンバーが写真を覗く。
「…あ、この髪の長いのがベェさんですね」
「そうだな。」
「あ!そうなんすね!すげぇ、握手してください!」
嬉しそうにするルンクと握手する。意味が分からない。
「この女性がヒマワリさん?」
「…そうだ。ヒマワリだ」
口ごもっていたサルビアも、ヒマワリの写真を見て黙り込む。
写真の裏には"終末3年目 5/13"と小さく書かれてる。
確か、落書きの横に写真を置いたんだったか。
「終末3年目?年号あるんですか?」
「いや、勝手につけてただけだ。パンデミックから3年目。今から2年前だ」
黙り込んだサルビアと目が合う。言いたいことは分かる。
地獄を観光地にして、誰にも文句を言われずにやりたい事をやっていたあの頃が、1番楽しかった。
何だかんだ、背負う荷物が増えすぎた。
「なぁ!俺達もそのコミュニティに付いてっていいか?」
「多分大丈夫だ」
「ドックフードはあるかな?」
「無いな」
電車が見える。丁度燃料の給油ランプが着いた。
トラックを停めて外に出る。ジニア達が電車から出てきた。
何だかんだ、出発から1日程度しか経ってないなと思い出す。
「お!写真の人だ!」
「…また、ケラ喰いに懐かれたのか」
「こいつは人間だよ」
簡単に事情を説明する。分かりきっているので、写真は見せない。
予想よりも、ジニアの反応は薄い。
「孤児を集めて違法に使ってる企業があったとは聞いたことがある。実態は知らないが、同じ類だろう」
「まじか。俺たち人気者か?」
ヴィンは鉄道を見て固まっている。Fzがヴィンの手を舐めると、ヴィンは我に返ってFzの頭を撫でる。
「ヴィンにとっては、鉄道は昔の仕事の道具だからね」
「…大丈夫、怖いんじゃない。懐かしいだけ」
サルビアを電車に乗せてフィルタを口から剥がすが、いつもより大人しい。
「…ヒあワリは、あだ生きてるのかな?」
「どうかな」
ジニアにツユクサの手記を渡す。それを読むことなく、僕の方を真剣な顔で見つめる。
「外縁12km地点で、ケラ喰いを食べる巨大植物が発見された。…いや、語弊があるな。その植物だと思っていた物は、巨大な蝿の翅だった」
「…どゆこと」
「俺にも分からん。植物が羽ばたいて蝿が出てきた。今はそれだけだ」
電車に興奮しているルンクを、他の回収員が稀有な目で見ている。
Fzに小突かれ、ルンクはみんなにまた自己紹介をした。
「…ヒマワリの事、覚えてる?」
「忘れるつもりもないさ」
そう言いながら、ジニアはツユクサの手記を開いた。




