↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末都市の塵芥  作者: Anzsake
サルビア:ケイフ/それでも前へ
37/132

朝霧の花弁達

瓦礫まみれの静寂の中、白い霧が薄くかかっている。胞子の霧ではなく、朝霧だ。


黒い巨体に着いた極小の水滴は、何の干渉もされずに自然落下していく。


そのムカデの頭の部分は、大きな物で思い切り抉られた穴があり、頭はほとんど取れかかっている。

もちろん、もう動く気配も無い。


横に転がったメイスはオダンゴのだろう。本人は見当たらないが、柄に着いた血が現場を物語っている。


「…全滅、では無さそうだが」


「……」


瓦礫が動く音の方を見る。タネがカリンを担いで地面からでてきた。


「…ベェ」


「カリンは無事か?」


タネは小さく頷く。小さく息をしているが、なかなか起きない。


「起こす?」


「いや…そっとしておこう」


霧の向こうから足音がする。2人、片方は怪我をしているようだ。


「タネ、お疲れ様」


「…うん」


拳を合わせようとしたが、伝わらなかった。それでもタネは少し嬉しそうな顔をするので、気持ちくらいは伝わっただろう。




負傷した全員の治療をする。

サルビアは右腕の脱臼に骨折。左脚も負傷。

リズは軽い脳震盪のようだ。

どちらも喋らないので安静にしておく。


そこにホルンが戻ってくる。


「…オダンゴの死体は?」


「……」


「そうか…」


ホルンは首を横に振る。薄々そうだと思っていたが、完全に食われた可能性が高まる。

現在進行形でムカデの肉を食べているタネが、ジャケットを取り出して欲しいような、そうでないような。




「ベェさーん、居ますかー?」


「あぁ、こっちだ」


シライシの声だ。霧の向こうからカワイとやってくる。


「…これ、ベェさんが?」


「まさか。ここに居る彼らの手柄だよ。僕が来た時にはこうだった」


「…あのムカデの肉も美味いんですかね?」


「…人を食ったかもしれない肉が食えるなら、試すといい」


「…辞めときます。タネって、やっぱり人外なんですね」


カワイの手にある紙切れに目を落とす。


「それは?」


「…あんたらの探してる人からだろうな。ケラ喰い。いや、タネについてだ」


その言葉にタネが反応するが、またムカデの肉に目線を戻した。


「…何が書いてあった?」


「端的に言えば…"タネは、人間から産まれた"」


紙を受け取り、中を開いた。




**


先ずは、ここの地域に人型の化け物は居ない。

奴らの脅威から逃げてきて安心しているところだろうが、ここは虫の領域だ。

安全な所に逃げたいのならもっと北西に行くといい。


あの背中から腕の生えた化け物は「タネ」と呼ばれる生き物だ。

腕の数によって個体の強さも変わる。


非常に縄張り意識が高く、同種だろうが構わず攻撃する。見かけたならさっさと逃げろ。


さて、ここからは俺の愛すべき悪友達に向ける。他はさっさと北西に逃げな。



「タネ」は、人間の変異種だ。


もちろんこれは、推測の域を出ない。しかし、人間由来なのはほぼ間違いない。


何も見た目からそうだと断定した訳じゃないさ。


「ユユ」と名乗る2本個体のタネと遭遇し、行動を共にした。この個体は知能が高く、人語を介す。


俺が教える必要も無いほど、しっかりと"生きた話し方"をするのだ。機械音声から教わったとは、到底思えない。


胞子環境下にて、タネの巣と思われる場所を発見した。


そこには、子供の玩具が集められていた。


この個体だけが、そうだったかもしれない。そう思い探したもうひとつのタネの巣。

ここも同じだった。


ユユは「ママが教えてくれたから」と話していた。

子供の玩具を、ママが与えたのだ。


俺の悪友達なら、ここまで既に辿り着いているかもしれない。

だから、改めて言わせてもらう。


"あれが人間だとして、お前たちはちゃんと殺せるか?"


最後に、悪友達にメッセージを残す。


"ヒマワリは、まだ東を向いている"


**


「初めから他人に配慮してるとは、ツユクサらしいな」


「でも俺が見たこの人は、もっと悪態付きでしたけど?」


「照れ屋さんなんだよ」


紙を丸めてシライシに渡す。もう一度、タネを見る。


「…まぁ、冷静に言われれば、そりゃあそうだろうなって話ですよね」


「人型の時点でな。問題は"何故変種になったか"だよな」


「ですね。何にしろ、答えは東にあるって事でしょうね」


「そうだな。僕らも、いつまでも浅瀬で狩りをしてるだけじゃダメってことか」


虫の外側への進行。ケラ喰いの発生。旧市街は今も、目まぐるしい変化を続けている。

そういえば、最近虫の大群を見なくなった。


何時までも同じ事はしていられない。その時がまた来たと言うだけだ。


「カワイ、トラックを近くまで持ってきてくれ。帰ろうか」


霧が晴れてきて、青白い空が見える。


この夜明けが、僕らの仕事の終わり。生き延びた証。


そしてまた、新しい仕事の始まりなのだ。


"ヒマワリは、まだ東を向いている"


「このヒマワリって、前にベェさんが話してた人ですよね?」


「そうだな。この古参とかいうバカグループを作った。始まりの人だ」


「また、教えてくれますか?」


「そうだな、帰りのトラックの時にでも話すよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。