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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
キキョウ:シネン/落人の籠
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師弟と置き土産

ギギの死骸を持ち上げる。ひんやりと冷たい。

まだ謎の多いケラ喰いの死骸は貴重な研究サンプルだ。

タネに持たせてワイヤーで崖を降りていく。


落人の籠ではキキョウが主体となり治療が進められている。

キキョウは高速に応急処置が可能な局所修復ナノファイバー注射や超音波創部結合器は、戦闘時の極限状態の時のみ使う。

今はけが人を並べ、カリンとリズに教えながら傷の消毒、止血、縫合を行っている。


割れたメガネをかけ直してこちらに気づく。


「お疲れ様ですベゴニアさん」


ギギの死骸を見て興味深そうに顔を近づける。状況を説明すると難しい顔をする。


「…戻って詳しく見るまではなんとも言えませんね」


「そうだね。集落の人達の治療。ありがとう」


「死者は二名。負傷者に再起不能な者はいません」


それだけ言うとキキョウは治療に戻った。平時になると急に口調が硬くなる。もう少しフランクに話してくれてもいいのに、と少し思う。



集落の人達の治療が一通り終わる。お礼にと僕の斧の修復、改造を行ってくれ、マユラが6人全員を泊めてくれた。


「皆様、籠を救って頂きありがとうございました」


「…あいつを殺してしまってすまない」


「とんでもありません。あれは既に終わる命でした。なにより、我々はタネ様と共に生きる者。まだ使命がございます故」



虫のシチューは、カリンとシライシは抵抗を示した。既に受け入れてる僕とリズを見て『マジか』という顔をしている。

キキョウは気にせず口に入れる。


「キキョウは抵抗無いのか?」


「サルビアさんに食わされた経験はありますから。その時よりも遥かに美味しいですね」


それを聞いて2人も恐る恐る口に入れる。表情が変わり、食べ盛りのカリンはおかわりをすると、それを見てリズが笑う。



戦闘の疲れで寝てしまっていた。目を擦り欠伸をする。同じ部屋でみんな簡単な布団を並べて寝ている。もう昼だが、回収員にはよくある事だ。


カリンだけ居ない。起きているのだろう。立ち上がり部屋を出る。


集落の広場の焚き火の近くで、カリンが座っている。近寄って横に座る。


「…ベゴニアさん。僕、役に立ちましたか?」


「もちろんだ。ありがとう」


焚き火を見つめるカリンの表情は暗いままだ。手には壊れたマチェットが握られている。


「…カワイのか?」


「はい…借り物だったんですが…怒られてしまいますね」


「それは…一緒に謝りに行くよ」


パチリと火が音を立てる。暑さが顔に当たって酸の傷跡が痒い。カリンが同じように顔にできた裂傷を掻く。


「…僕、ベゴニアさんみたいに強くなりたいんです。強くなって、リズを守りたい。これからもっと、色々教えてください!師匠!」


「…"師匠"は少しむず痒いな」


カリンがこちらを向いて、真っ直ぐな視線を向けてくる。もちろん、嫌な気はしない。ただ、僕にない部分を持つ奴は沢山いる。


「…そうだな。ではまず、俺以外の"強い奴"からももっといっぱい学ぶといい。キキョウとかさ。そうすれば、カリンはもっと強くなれるさ」


こういう感じでいいのだろうか。カリンが年相応に笑うので、とりあえずはこれでいいのかもしれない。


「そうだ。ひとつ聞いておきたいんだが」


「はい。なんでしょうか師匠」


「リズはケラ喰いに妙に気づかれにくいんだが。何か特別な力があるのか?」


カリンの笑顔が消える。不安そうな顔で僕の手を掴む。


「リズは、何かおかしいんですか!?」


「…いや、少し、気になっただけさ」



鍛冶場に行く。カリンはどこか落ち着かないようだが、リズの事は僕も不明なところが多い。


鍛冶場で待っていたマユラにお辞儀をする。


「お待ちしておりました。こちらになります」


裏から取り出したそれは、僕の斧。黒光りした新しい刃は、特徴的な波紋模様が光に反射している。


「本当に助かるよ」


「これは我々のお返しです。お気になさらずにお使いください」


受け取った斧を持つ。軽い。重心が変わらないように工夫されている。

元々あった圧縮空気ブーストも残してある。


そこにキキョウとリズが来る。カリンはリズを不安そうに見つめるが、それを見てリズが笑って返す。


「なぁに?」


「…いや、なんでも……」


キキョウが真剣な顔で僕を見る。斧を仕舞い向き直る。


「着いて来てください、見せたいものがあります」



集落の端、教会のすぐ裏の崖。その壁に描かれた大きな落書き。


向日葵の絵に腕が生えたその不思議な絵の右下に、ふたつの花弁でVの字のサイン。


「…ツユクサのサインだ」


「そうですね、彼のサインです」


回収員は、建物内の状態を他の回収員に伝える為に落書きを残す。〇とか△とか。

これも、意味のある落書きなのだろうか。


あいつは口は悪いが、行動までバカだとは思ってない。


「これは、調べる必要がありそうですね」


キキョウの言葉に静かに頷く。

回収員は通信手段を持たない。個々で探索に出る彼らは、そこが安全か、物資が残っているかを仲間に共有するため、建物の壁などに“落書き”を残す習慣がある。


落書きの記号はある程度定型化されており、次のように使われる:

•〇:安全かつ物資が残っていない建物。

•△:探索済で、物資が取りかけ。見つけやすい場所にまとめてある。

•×:虫の巣がある、あるいは崩落の恐れがあるなど、侵入を推奨しない場所。

•二重線(=):すでに物資を完全に取りきった建物。以前の記号の上から引かれる。


この習慣は、古参回収員であるベゴニアが、獣のマーキングなどをヒントに始めたものであり、徐々に他の回収員にも広がっていった。


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