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un call  作者: 月団子
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15/16

Part14 心細い味方

宮原 梨沙(過去)


好きなもの

・長谷川 伊織

・読書


嫌いなもの

・自分の家


当時中学三年生の十四歳の少女。長い黒髪と普段の柔らかい表情が特徴。誰も見ていないところでは、時折暗い表情を浮かべていることもある。

唯一の友達である伊織をとても大切に想っており、その気持ちが少々行き過ぎてしまう事もあるが、その様子は伊織には一切見せないようにしている。

「さて」


 長谷川と梨沙をソファに座らせ、オレンジジュースのコップを三つ乗せたテーブルを挟んでその向かい側に摩耶が座った。


「何しよっか」

「本当に無計画だったんですね……」

「そりゃあ、ヒマつぶしに呼んだだけだしね」


 そう言って摩耶はジュースをほんの少し飲んだ。


「あー、じゃあこういうのはどう? 黒崎さんのお悩み相談室ー!」

「お悩み?」

「そ、君たち二人のね。特にそっちの……梨沙ちゃん、だっけ」

「は、はいっ」

「話しかけないとあんまり喋んないし、さっきもくらーい顔してたし、なんかあるんじゃない? お悩み」

「悩み、ですか……」


 真っ先に浮かんだのは両親の顔と、トイレで蹲る自分の姿だった。帰るべき場所に帰りたくない、そんな現状と、帰りたくないと思ってしまう自分に嫌気が差し、再び表情が曇る。


「もしもーし」

「あっ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしちゃって……」

「りさちー、聞いてもらえる内に話しといた方がいいよ。そのうち私みたいに訊いてすら貰えなくなるかもしれないから」


 伊織が梨沙の方にポンッと手を置き、そう言った。


「ああ、誤解されてそうだから言っておくけど、別に伊織ちゃんに悩みが無さそうだから訊かなかった、という訳ではないよ」

「えっ」

「君は何か困り事があれば都度梨沙ちゃんに相談してるんじゃない? 勉強とか、恋愛とか、家庭事情とか」


 そう言われ長谷川は自身の行動を頭の中で振り返る。確かに何かに困ったとき、いつも隣には梨沙の姿があった。時に話を聞き、時に解決するため一緒に動いてくれていた。


「言われてみれば……」

「二人雰囲気からなんとなく推測しただけだけど、伊織ちゃんは人に頼る勇気を持ってて、梨沙ちゃんにはそれを受け入れる優しさがある。助けてもらうことで好きになり、頼られることで好きになる……君たちはそんな関係かなって。ただの憶測だけど」


 互いに何故二人でいることに安心感を感じているのか、その理由を深く考えたことはなかった。趣味も性格も抱える物も全く異なる二人の関係は絶妙なバランスで成り立っているのだと、長谷川は摩耶の言語化に関心した。


「良いね、そういう関係。あたしは一人だからさ……」


 ソファーにもたれて天井を見ながらそう言った摩耶の表情は少し寂しげ……と言う訳ではないが、とてもご機嫌な様子とは言えなかった。高くないはずの天井を見ているようで、どこか遠くの空をみつめてるかのような……。


「りさちー、明日からはあたしの家じゃなくてここに通おう!」


「えっ」


 ソファから勢い良く立ち上がり突然謎の提案をする長谷川を、摩耶は見つめながら困惑する。


「ふふっ、わたしにはいおりんの考え、伝わったよ」

「待って、あたしには何も伝わってない。伝えて、ちゃんと」


「私たちが毎日ここに来たら、私もりさちーも黒崎さんも寂しくないじゃないですか!」

「あー」


 左の手のひらを右手の拳で叩き、「なるほど」というような表情を浮かべる。


「えっと、何ですかその微妙な反応。嫌でした? 初対面の大人相手に結構勇気振り絞って言ったつもりだったんですけど……」

「嫌とかじゃないけど……あたし、この時間まだ仕事だよ?」


 そう言われ、梨沙は壁に掛けられた時計を見る。


「確かにまだ五時半ですもんね。普通の会社員なら大抵まだ職場にいる時間」

「今日はああいうお手伝いみたいな依頼だったし、君たちにお礼もしたかったから勝手に早めに切り上げたけど、内容によってはほぼ一日居ないこともあるしね」

「そうですか……無理な提案をしちゃってすみません」


 長谷川は少ししょんぼりとした様子で軽く頭を下げる。


「謝る必要なんてないって。仕事とはいえ、依頼がなければどうせあたしはここで暇してるから、いつでもおいでよ。あぁでも、鍵閉まってたらごめんね」


 そう言いながら、長谷川の頭に優しくそっと手を乗せた。頼れる友達は居れど、目上の誰かに長く甘えられなかった彼女にとって、髪の毛を挟んでもなお僅かに感じられる手のひらの温もりがとても心地良かった。

 今日初めて会ったばかりの人にこんな感情を抱くなんて……と思いつつも、 自分の感覚に抗うことができない。

 摩耶と目を合わせぬよう、顔が見えない程度に少し俯く。


「あの、黒崎さん」


 そんな長谷川の様子を感じ取った梨沙が声をかける。


「なーに?」

「わたしたち、もう少しここに居てもいいですか……?」

「全然いいけど、なんで?」

「えっと……」


 梨沙は言葉を詰まらせる。ここに居心地の良さを覚えているいおりんのためだから……それは嘘ではないが、最も大きな理由は自分が家に帰りたくないからだ。けれど、何故か「家に帰りたくないから」と口にするのが怖い。

 友達のためと偽って、本当は自分のためだから?

 両親を愛していない子だと思われるから?

 両親に愛されていないことを自覚してしまうから?

 不出来な私が悪いのに、両親に罪を押し付けることになってしまうから?

 帰るべき場所が、逃げ出したい場所。どこへ帰れば、どこへ逃げれば私は満足するのだろう。それが判らないのに誰かに迷惑なんてかけられない。

 梨沙は喉まで出かかった言葉を無意識に押さえ込み、歯を強く噛み締めながら、表情を曇らせる。


「ははは……君たち二人とも苦労してそうだね」


 摩耶が苦笑いをしながら、もう片方の手を梨沙の上に乗せた。


「よしっ、それじゃあ二人のためにお姉さんふた肌ぐらい脱いじゃおっかな!」


 そう言い残し、バタバタと足音を立てながら駆け足で部屋を出て何処かへ行ってしまった。


「大丈夫? りさちー」


 当然、梨沙の様子の変化には長谷川も気がついていた。声をかけながら、ソファに置かれた梨沙の左手を優しく握った。


「うん……心配かけてごめんね。大丈夫だよ」


 いつもこうだ。何かをキッカケに凹むわたしを、いおりんが隣で支えてくれる。いおりんだっていつも寂しくて辛いはずなのに、わたしの前ではほとんど弱みを見せない。時々愚痴をこぼす程度で、いつもわたしばかりが支えてもらっている。

 その優しさが嬉しくて、強さが羨ましい。その反面、いおりんが弱音を吐ける場所になれないわたしのことが、どんどん嫌いになっていく。

 わたしの前で弱音を吐かないのに、黒崎さん(あの人)の前では弱気になるいおりんを見て、少し寂しくなる。わたしじゃ駄目なのかな……って。そして、そんなことを考えてしまうわたしのことが、また嫌になる。


「ホントに? 私の目にはとても大丈夫そうには見えないんだけど」

「そう……かな。ごめんね、また心配かけちゃって」

「謝らなくていいから」


 梨沙は、心配しながら優しく微笑んでくれる長谷川の瞳の奥に、何かに対する微かな不安が見えたような気がした。そして、私が心配ばかりかけるからだと、また自分を責めた。


「お待たせお二人さん。ほれっ」


 戻ってきた摩耶が手に持っていた筒状の何かを突然放った。


「うわわっ」


 長谷川はそれをキャッチした瞬間滑り落としそうになったが、なんとかその手で掴んだ。

 これが何なんだろうと真っ赤なその筒を見ると、“ポテトスター″と書かれている。


「懐かしい、小さい頃買ってもらってたなぁ」

「気分が沈んだときはやっぱ塩と芋と油とカロリーでしょってね」

「いや、初めて聞きましたけど……」

「そりゃ今考えたからね。この感覚はあたしがオリジナルであってほしい……そしてあわよくばあたしが発祥として広まっていってほしい……」

「そ、そうですか……」


 意味不明なことを言い出す大人の相手をするのが面倒になったのか、それについて長谷川はそれ以上何も言わなかった。


「ところで、なんで急にポテトスターなんですか?」

「え? あげるってことだよ。仕事手伝ってもらったし、そのお礼も兼ねて」

「仕事のお礼が……スナック菓子……」


 長谷川は不思議そうにポテトスターを見つめる。


「まー、成果挙げたのは梨沙ちゃんだけなんだけど。でも、こういうのは皆で食べる方が美味しいと思う。多分」

「それもそうですね、ありがとうございます」


 長谷川はポテトスターの筒を両手で持ち、蓋を外すため上下に引っ張るようにして開けた。中に入っていたビニールも破ると、中には薄っぺらい物が同じ向き同じ角度で綺麗に並べられていた。そこから一枚取り出し、梨沙の口の前に持って行く。


「はい、あーん」

「わ、わたし?」

「もちろん。功労者は贅沢をすべき」

「うーん……」


 お菓子がすぐそこにあるのに、それを食べるどころか何かに頭を悩ませている様子の梨沙。


「どうしたの?」

「制服に塩が落ちちゃわないかな……って」

「ぷふふっ」

「なっ、なんで笑うのっ」

「いーや、もっと難しいことで悩んでるのかと思ったら、食べようとはしてたんだなって思うとなんか面白くて」


 長谷川は今にも粉が落ちそうな程に身体を揺らして笑う。


「いおりん、笑いすぎっ!」

「あははは……ごめんごめん」


 二人のやり取りを見ていた摩耶が、長谷川の手に持っていたポテチをつまみ、そのまま奪うように持ち上げた。


「これ、粉が落ちないように食べる方法教えたげよっか?」


 自信満々の表情を浮かべながらそう言う。


「梨沙ちゃん、目を瞑って大きく口を開けてみて」

「え、こ、こうですか……?」

「りさちー、素直すぎない?」


 変な要求を簡単に飲んでしまう親友のことが少し心配になってしまう。


「それじゃあ行くよ……ほいっ」


 大きく開いた梨沙の口にお菓子をまるごと一枚をそのまま突っ込んだ……はずだった。大きく口を開いたものの、元々口が小さい梨沙にはまるごとは厳しかったようで、口角に少量の塩が付着しただけになってしまったのだ。

 口を開けていることに疲れた梨沙が口を閉じると、自然とお菓子をはむっと咥えた状態になった。


「どう? 美味しい?」


 梨沙の顔を覗き込みながら長谷川が訊く。


おいひい(おいしい)えど(けど)……」


 梨沙はそのまま口でパリッと割り、残りを手を使って口の中へ入れた。

 数秒ほどバリバリと音を立てながら咀嚼し、飲み込む。


「粉落ちちゃった」


 摩耶と長谷川が梨沙のスカートの上を見ると、室内灯を反射しキラキラと光る粒がいくつか落ちていた。


「ごめん」


 それから三人はしばらく談笑した。仕事の話、学校の話、自分の話……少しずつぬるくなっていくオレンジジュースをちびちびと飲み、ポテトスターを一枚ずつ食べながら。

 しかし、元々それほどなかった時間はあっという間に過ぎて行き、いつしか時計の針は“6″を少し過ぎたあたりを指していた。チラチラと時計を気にしていた梨沙だけが、そのことに気づく。


「すみません、わたしそろそろ帰らないと門限が……」

「えっ、もうそんな時間?」

「すごい慌てようだね。お家の人厳しいの?」


 慌ててソファから立ち上がる二人を見ながら、摩耶が不思議そうな表情を浮かべて言う。


「私は大丈夫ですけど、りさちーのお母さんとお父さん、厳しいらしくて」

「ふーん……子供も大変だ」


 摩耶はそう言って、コップに少し残っていたオレンジジュースをぐいっと飲み干した。


「ま、あたしにしてあげられることならしてあげるから、いつでもおいでよ」


 右手に持ったコップを勢い良くテーブルに起き、ジャケットのポケットから名刺を二枚取り出したあと、一枚ずつ渡す。そこに書かれていたのは職業、名前、連絡先の三つだった。


「来る前にそこに連絡してくれたらサプライズが有ったり無かったりするかもねー」

「無かったりもするんですか」

「そりゃあ、基本は仕事中だし」


 適当な発言をする摩耶に少し呆れながら、二人は手に持った名刺を見る。それに載っていたのは電話番号と、メールアドレス……ではなく、メッセージでやり取りするアプリで友達登録するためのQRコードだった。現代的だなぁ、と長谷川は密かに思う。


「ほらー、アレだよ、要するにあたしは君たちの味方ってこと」


 摩耶はにひっと笑みを浮かべ、顔の横で右手でピースを作って見せた。


「味方……」


 梨沙はその笑みを見たあと、再び視線を名刺に戻した。“探偵″という文字をじっと見つめる。

 もしかしたら、探偵ならわたしの家をどうにかしてくれるかもしれない、家族の誰にとっても幸せでない空間になった元凶を見つけてくれるかもしれない……誰にも縋れなかった梨沙からそんな思いが溢れ出し、ゆっくりと、小さく口を開く。


「味方、なんでしたら……黒崎さんは、私たちのこと、助けてくれますか?」


 梨沙が瞳を潤ませながら、言った。「助けてほしい、でもどうすればいいかわからない、どうしてもらえばいいのかわからない」そんな思いから放たれた全力の言葉だった。

 そんな梨沙にどんな言葉を返すのかと、長谷川は梨沙の隣で黙ったまま摩耶の顔を見た。


「もちろん、君たちがそれを望むのなら、あたしは君たちを助けるためになんだってやるよ。あぁもちろん、法律の範囲内でね」


 それが摩耶の答えだった。味方であり、大人でもある彼女の答え。どんな場面でも軽口を挟む余裕のあるその姿が、梨沙にはほんの少しだけかっこよく見えた。


「ありがとう……ございます、えへへっ」


 思わず笑みが溢れる梨沙。時間がかかってでも、いつかこの生活を変えてくれると信じてみることにした。

 そんな様子を隣で微笑みながら見る長谷川。少しずつ前に進めそうな梨沙の姿を見られた嬉しさと、何年もずっと一緒にいる自分には悩みの元凶を言えなかったのに、知り合ったばかりのこの人には近いうちにそれを伝えるんだろうという寂しさがあった。

 私じゃりさちーの力になれないのかな……と。


「ところで、君たち帰らなくて大丈夫?」

「やばっ、急ごうりさちー!」

「う、うんっ」

「黒崎さん、今日はありがとうございました!

「ありがとうございました」


 ドタバタと音を立てながら慌ててその場を後にする二人。


「気をつけて帰るんだよー」


 ソファに座ったままニコニコと笑顔で手を振る。二人が事務所を出て扉が閉まると、その笑顔は消え、真顔になりソファにもたれかかりながら再び天井を見つめる。


「味方、か。心細い味方だなぁ」


 他の誰もいない場所で、誰にも聞こえない小さな声で、一人小さく呟いた。

よく思うんですが、なろうで毎日更新とかしてる方って毎日どんな生活送ってるんですか……?学業とか仕事とか、小説を書く以外の時間が大半を占めているはずなのに、毎日さも当然かのように数千文字投げてる方居ますよね。

毎日お話がどんどん思いつく創造力と、それを文字に起こす行動力、すごいなと。私は現状アレも違うコレも違う……となりながら書いているので、早くても月一が限界です。

だから見てもらう機会が増えないんですけどね〜〜〜〜〜!!!!!!

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