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un call  作者: 月団子
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16/16

Part15 優しいんだね

段々月一投稿が習慣化してきましたね。このまま続け……というか本当はもっと更新頻度上げたいんですけど時間と体力がそれを許しません。

最近はりさちーへ感情移入しながら書いてるため執筆が苦しいんですよ、本当に。助けてください。

 桜の季節が過ぎ去り、五月の末。梅雨の訪れを予感させるように、空を灰色の雲が覆い、空気が湿っていた。


「こう雨と曇りが繰り返されると気分が沈むねー。これから更に雨が増えるかと思うとゾッとするよ」

「わたしは雷さえ落ちなければいいかな」


 昼食を終えた昼休みの残り時間に、梨沙の机で雑談をしていた。


「でも六月になったら制服半袖になるし、なんとかやり過ごすしかないかぁ。動きにくい長袖から解放されるっ」

「半袖ってお肌が変な風に焼けちゃうし、わたしは苦手だなぁ」

「じゃあ長袖のままがいいの?」

「それもちょっと……夏は暑さで倒れちゃうよ。春や秋の気候がずっと続いて、長袖を着続けられたらベストかな」

「りさちー、それが出来ないから人々は半袖を着るんだよ」

「そうなんだけどねー、つい夢見ちゃうよね」

「ううーん、私は冬にお洒落なコートとかも着たいからギリギリ賛同できない……」

「じゃあ、春と秋と冬!」

「ついにハブっちゃったねー、夏」


 二人は今日もまた、他愛ない会話を繰り広げていた。

 昼休みの終了を知らせるチャイムと共に、長谷川は梨沙に軽く手を振って席に戻る。制服の首元をパタパタと扇いだり、片や落ちてくる瞼の重みに耐えながら、二人はなんとか授業を乗り越えた。

 それから学校を出るまではあっという間で、2人はそのままいつもの帰路に着く。はずだったのだが……。


「ごめんいおりん、今日は一緒に帰れないの」


 校門を出てすぐのところで、梨沙がそう言って深く頭を下げたのだ。


「まさかりさちー……彼氏、できた……?」

「ち、ちがうよ!」


 両手を振りながら慌てて否定する。


「なーんだぁ、ケーキでも買ってお祝いしようかと思ったのになー」

「お祝いじゃなくても、ケーキは一緒に食べたいな」

「お、それじゃあ今度食べよー……じゃなかった、なんで帰れないの?」


 逸れかけた話題を無理やり軌道修正する。二人は何の話をしていてもすぐ脱線しがちなのだ。


「えっと、今日は早く帰ってこいって言われててね、寄り道できないの」

「ふーん……珍しいね、りさちーの親がそんなこと言うなんて」

「そうなの。だから、今日はごめんね」

「いいよいちいち頭下げなくて! 私のことは気にしなくていいから、また明日会えればそれで」

「う、うん。ありがとう」

「それじゃ、ばいばーい」

「ばいばい」


 長谷川は梨沙から離れて行きながら大きく右手を振る。それに小さく手を振り替えしながら微笑む梨沙。何度も振り返って手を振り、時には転びそうになる長谷川だったが、しばらくすると前を向いて歩き始めた。梨沙も振っていた手を降ろす。


 ごめん、いおりん。


 心の中でそう呟いて梨沙は振り返り、歩き出した。学校を出て徒歩一分にも満たない位置にある大きな公園の方を見ながら。遊具は無く、トイレ、水道、芝生、屋根の下のベンチしかないこの場所で、今日も元気に走り回る小さなこどもたちが、傾き始めた陽の光に照らされている。

 そんな様子をぼーっと眺めながら日陰になったベンチに足を組んで座る女性が一人。


「いいなぁ、子供はこんな時間から遊べて」


 摩耶だった。元気な子供たちを見ながらぼやき、梨沙が近づいてきていることにすら気づいていない。細く閉じかけの瞼の隙間から乾いた瞳が見える。


「黒崎さん」

「えぁっ」


 不意に声をかけられた摩耶は変な声を出してしまい、くるんと振り向いた。


「ようやく来たね、待ってたよ」

「遅くなってすみません」


 梨沙が軽く頭を下げると、座ったまま手を伸ばし梨沙の頭に優しく触れた。


「違う」

「違う……?」

「今更カッコつけても遅いですよってツッコむところだよ、今のは」

「ご、ごめんなさい」

「違う違う、なんでわたしツッコミの指導されてるんですか、だよ」

「な、なんでわたしツッコミの指導されてるんですかっ」

「おっ、いいねぇ。一見ただ真似をしているだけのように見せて、本当になぜツッコミの指導をされているのかと問いかけるツッコミ……」

「あの、分析と解説するのやめてください……恥ずかしいので……」


 気を取り直して、梨沙は摩耶の隣に座る。陽の傾きにより屋根の下にも少し光が差し込んでいるが、顔には当たらないよう摩耶は事前に避けており、隣に座った梨沙も同様に光に触れずにいた。ちょっと嬉しいらしい。


「んで、わざわざ公園になんて呼び出して何の用?」

「事務所だといおりんが来ちゃうかもしれないので」

「来ちゃダメなの?」

「ダメではないですけど、いおりんに聞かれるのは……その……」

「心配かけたくない?」

「はい……。いつもわたしの側で元気に振る舞う姿を知っているからこそ、わたしのせいでその元気を失わせてしまうのが怖いんです。暗い気持ちにさせちゃうんじゃないかなって」

「そっか……優しいんだね」

「優しいなんて、そんな」

「でも安心して、今日話すことはあたしと梨沙ちゃん二人だけの秘密にするから。こう見えてあたし、口は堅いんだよね」


 摩耶はそう言って得意げな表情を浮かべる。その様子を見た梨沙は少し元気が出たのか、くすっと笑う。


「んで、何を聞いてほしいって?」


 そう訊いた途端、梨沙の顔から笑顔がすうっと消えた。太ももを隠したスカートの上で、ぎゅっと拳を握る。


「えっ、と……」


 声を出そうと口を開いても、喉でつっかえる。伝えるための言葉も浮かばず、声も出ない。ちゃんと自分の口で伝えなきゃと思うほど、頭の中が真っ白になっていく。


「ぁ……」


 掠れた声なら口から漏れるのに、それは言葉にならない。誰かに首を握られ、話せば絞め落とすと脅されているような感覚にさえなる。

 だけどそれをしているは、他でもないわたし。わたしの心を守るために、わたし自信がしている。そんなことをしたって苦しくなるばかりで、意味が無いのに。


「大丈夫?」


 震える梨沙の手の上に摩耶が優しく手のひらを乗せ、そう言った。


「大丈夫……です。ごめんなさい、忙しい中わたしのために来てくれたのに、中々言えなくて……」

「あーあー、あたしのことは気にしなくていいよ、ゆっくりで大丈夫だからさ」


 誰のために何をしているんだろう。誰かに迷惑をかけることを恐れながら、今現在わたしは黒崎さんの時間を奪っている。

 そうだ。わたしが何もできないから、弱いから、いおりんや黒崎さんに心配かけて、時間も奪って、パパとママも喧嘩ばかりして……他の誰かも、わたしも、苦しめているのはわたし自身……。


「あの、本当にごめんなさい。やっぱり、今日お話するの……やめてもいいですか?」


 今にも消えてしまいそうな細い声で、梨沙は摩耶の目も見ずにそう伝えた。わたしのせいなのに誰かを巻き込んじゃいけない、と。

 本当に伝えたいことは考えても考えても言葉にならなくて、ただ口や手を震わせることしかできなくて、声すら出なかったのに、逃げるための言葉はすんなりと口に出すことができた。

 そんな自分に嫌気がさし、また表情を曇らせる。


「ダメだよ」

「え……」


 思わぬ返答に梨沙が思わず摩耶の顔を見ると、摩耶は真剣な眼差しでありながらも、どこか温かさを感じる優しい目をしていた。


「辛くてさ、苦しいんだよね。でも自分じゃ何にもできなくてさ、そもそもどうしたらいいのかも分かんないから、考えて考えて、疲れ果てて、何もかもが嫌になって、結局最後は逃げてしまう……解るよ」

「……」

「でも、ここで逃げたら梨沙ちゃんはこのまま苦しみ続ける……あたしはそれが許せない。苦しみから逃げることから逃げないで、辛いことに囚われ続けないで」

「黒崎さん……」


 それは、いつになく真っ直ぐな瞳で梨沙を見つめながら放たれた摩耶の言葉だった。言葉一つで大きく変わるほど人の心も現実も甘くないが、変えるための第一歩を踏み出すためのエールなのだと、梨沙は思った。


「わたしの、家のことです……」


 梨沙はゆっくりと口を開き、掠れそうな声で言葉を紡ぐ。伝えるために、未来のために、一つ一つ丁寧に。それは普段の梨沙からは想像もできないほど拙い言葉たちだった。それでも、ただ必死に心を言葉に乗せて、震える声で伝えた。帰るべき家が苦しい場所であること、友人に心配をかけたくないこと、何をどうすればいいか分からないこと、全部を。


「お父さんとお母さんがずーっと喧嘩してる、か。苦しいよね、家に居場所がないと」


 梨沙は黙って頷く。


「昔からそうなの?」

「いえ、わたしが小学生のときぐらいから少しずつ……きっかけは分かりませんが」

「何の理由も無しに人は変わらないと思うんだけどなぁー……まだ現状じゃ判断できないね。ご本人たちと話せたら一番なんだけど」

「えっ、直接ですか?」

「そだよ」

「探偵って、どちらかといえば隠密に調査を進めるイメージだったんですけど、違うんですか?」

「一般的にはそうなんじゃない? あたしはあたし以外の探偵のこと知らないし、頭も良くないし、回りくどいことするの苦手だから」

「あはは……なるほど」


 梨沙は初めての相談相手が本当にこの人で良かったのかと少し不安になり、苦笑いを浮かべる。


「でもあたし、誰かを助けたいって気持ちだけはとんでもなく強いから!」


 摩耶はそう言いながら自信満々にドヤ顔でウィンクをして見せた。おまけに右手の親指まで立てた。


「はい、頼りにしてます」


 その様子を見て、確信した。これから彼女が何をし、どんなことを成すのかまでは分からないが、摩耶の発言が偽りではないことと、自分の味方であるということを。


「とは言え、何から始めようか」

「何か考えてからドヤ顔してくださいよぉっ!」

「お、いいツッコミ」

ポン・デ・リング食べたいなぁ。

上にかかってるあの白い甘いやつ、アレ本当に好きなんですよね。でもアレだけ食べたい訳じゃないんですよ、アレと一緒にもちっとした丸くて柔らかいドーナツを口に含めるから美味しいんですよ、どちらかだけじゃ駄目なんですよ。

昔は100円とかでしたよね、確か。物価高と改良による値上げでしょうが、100円はやっぱ羨ましいですねぇ。

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