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38 鉱山の町 4


 採掘の作業が終わったらしく、酒場に作業員が集まり始めた。

みんなマルチナを見ると、次から次へと酒をおごるとか食べ物をどうぞ、などと言い寄ってきた。

 マルチナは、愛想よく相づちをうちながら適当に話を合わせる。そしてそれとなく鉱山の情報を収集した。

 さすがサキュバスだけあって、男の扱いは見事だった。


 ユージはマルチナの脇で男達との会話を聞いていたが、どの男の話も店主と概ね一致した。

 曰く、ゲシュトは守銭奴、ルアンはクソガキ、そしてジェンスは裏切り者である。


 また、ジェンスの配下の守備兵達も、盗みやケンカが原因で町にいられなくなって、この辺境の鉱山に流れ着いたような犯罪者まがいの者ばかりとのことであった。

 ただし、作業員の男達も、借金を踏み倒したり他人の奧さんに手を出してバレたりとか、それぞれ何かしら後ろ暗い過去を持つ者ばかりではあった。



 夜も遅くなり、これ以上新しい情報はなさそうだと判断して、ユージとマルチナは酒場を出て小屋に戻った。

 ユージはベッドに腰掛け、マルチナと今日集めた情報を整理した。


「いろいろ分かってきたけど、ルアンに近づけないのは問題だな」

「んー。クソガキなら、殺しちゃて問題ないでしょ」

「なら問題はジェンスか。実力はゴールデン級以上かもしれない」

「まあ、そっちも私に任せてよ」

「ああ、頼りにしてるよ」


 ユージはマルチナに応えた。





 月明かりに照らされた暗い森に、黒いタキシードを来た中年の魔人の男が宙に浮かんでいた。

 背中からは黒翼が広げられている。その背後にはまがまがしいばかりのオーラがあふれ出ていた。

 その魔人の男は目の前の二人の男女に問いかけた。


「それがお前達の答えか……」


 魔人の男はニヤリと笑い、高く揚げた右手を振り下ろす。

 その指先から白光の槍が放たれた。


 その白く輝く槍はジェンスのすぐ前にいた女魔道士の胸に吸い込まれる。

 女魔道士は血を吐きそのまま地面に斃れた。見開いた目にはもやは生を感じさせる光はなかった。


「ユリアーっ」


 ジェンスが叫んで駆け寄ろうとするが体が動かない。もどかしさに体をくねらせた。

 そんなジェンスに向かって、黒いタキシードの魔人の男が高笑いをしながら声を上げた。


「さあ、人の町に帰って我が名を広めよ。我が名を恐怖の別名とするのだ。我は最強の魔道使い、我が名は……」


 ジェンスはベッドから身を起こした。悪夢であった。全身から汗が吹き出している。

 かつて毎晩のようにうなされていた悪夢であった。

 久しぶりにこの悪夢を見たのは、ゲシュトからグリフの名前を聞いたからに違いない。

 ジェンスは舌打ちした。


 グリフのところの女魔道士……

 ジェンスの記憶では、グリフとペアを組んでいた魔道士は男でケニーだった。

 女魔道士と言うことはパーティーにもう一人魔道士を増やしたか? もっとも奴隷売りの使いに出すくらいだから、配下のような位置づけなのだろうか……。

 ジェンスは頭の中にある断片情報をつなぎ合わせようともがく。


 「ちっ、ヤツのことなど、もうどうでもいいはずだ」


 ジェンスは小さく吐き捨てると、ベッドの脇においてあるウエストバッグを引き寄せた。バッグの中には一枚の石版と魔導を発動させるスクロールが一本のみ。

 ジェンスはバッグから石版を取り出した。石版には一人の女魔道士の肖像が魔導により焼き付けてあった。


「ユリア……」


 ジェンスはしばらく肖像を見つめ、ため息とともにバッグに戻した。

 そして側のテーブルの酒瓶を(あお)ると、ベッドに横になった。




 翌朝早くジェンスはベッドを出た。結局あれから一睡もできなかった。

 自分でも認めたくないが、またあの悪夢を見るのが怖かったのだ。

 部屋にいても特に何もすることはない。ジェンスは部屋を出た。

 朝焼けの光がまぶしい中、ジェンスは自分の足が奴隷買取りの建物に向かっていることに気付いた。


 建物の前の柵に囲まれた広場に着くと、ユージが連れてきたオーク達が横になって寝ているのが目に入った。ジェンスはそんなオーク達を柵の外からぼーっと眺めた。

 どれも、若く屈強そうなオークだった。これならどこの市場でも高く売れそうだ。


「ヤツも腕は落ちてないか……」


 グリフの能力を思い出し呟いた。その時、ジェンスはオーク達に違和感を覚えた。

 ジェンスはもう一度オーク達を眺めた。しかし、これといっておかしいところは見当たらない。ここらによく出没する部族に属するオーク達である。


 しかも完全に隷属化されていることが剣士であるジェンスにも分かった。いや、実際ここまで完璧に隷属化されているオークは見たことがなかった。相当上位の魔導使いの技で初めてなし得るものである。


 違和感の正体はこの完璧なまでの隷属化か……?

 ジェンスは呟くが、違うような気もする。が、他に不審な点も見つからない。


 ケニーもゴールデン級、これくらいやるか。いや、そういえば奴隷を売りに来た女魔道士がオークの族長の隷属化も成功したとゲシュトが言っていたな……。となると女魔道士か?

 ジェンスは再度オーク達を眺めながら頭を巡らす。


 ジェンスの中で何かがアラームを鳴らしている。胸騒ぎがした。

 あの悪夢を見たのも何か関係があるのか……。


「一度、会ってみる必要があるな」


 ジェンスは独り呟き、自分の部屋へと戻っていった。





「おはようございます。ご主人様」


 ルアンは耳元でささやかれる猫なで声に眠い目を擦った。

 枕元には、黒いメイド服に身を包む雌のウサギ型亜人が並び立っていた。

 どの亜人も若く顔に幼さが残る。しかし着せられたメイド服は胸元が大きく開き、短すぎるスカートからは白いストッキングがガーターベルトに止められて白い太ももを(さら)している。

 ルアンの趣味に合わせたものであった。


 ルアンが一六歳にして子爵家を継いで最初に行ったこと、それは年老いた使用人を全て解雇し、若い亜人の雌を奴隷市場から買い集めたことであった。その亜人に自分の趣味に合わせて作ったメイド服を着せて、身の回りの世話をさせた。もちろん、夜はその中の一人を、時には数人を自らのベッドに呼び、もてあそぶかのように(むさぼ)った。一年が過ぎる頃には、さらに数人の新たな亜人を買い求めた。


 ルアンの父であるオーエンは早くに妻を亡くし、将来のためとして息子であるルアンに対して厳しく躾をした。しかし、それが裏目に出た。ルアンは表面的には父に従順な姿勢を見せたが、その裏では自尊心だけが肥大しひねくれて大きく育った。


 ルアンは朝食を終えるとメイドに口元を(ぬぐわせ)わせた。同時にメイドのスカートの中にに左手を差し入れる。小さく肩を震わせ耐えるメイドにサディスティックな笑みを浮かべ、さらに下着の中へと指を這わせた。

 ビクッと体を震わせたメイドの右手を掴み、自らの股間へと導く。 


 そのとき、リーダー格のメイドが扉をノックし、ゲシュトが面会を求めて応接の間で待っていることを告げた。

 ルアンはお楽しみを邪魔されたことに不機嫌を露わに返事をし、面倒くさそうに立ち上がった。



 ルアンが応接の間に入ると待機していたゲシュトが直立の姿勢のまま頭を下げた。

 ルアンはどかっとソファーに腰を下ろし、脇にメイドを座らせた。そしてメイド服の上から胸の膨らみをもてあそびながら、ゲシュトに話をするようにあごで指示した。


「閣下におかれてはご機嫌麗しゅう。本日参ったのは、いくつかご報告がありまして……」

「面倒事はお前に任せてるはずだぞ。俺は忙しいんだ。いちいち手を焼かせるな」

「ですので、あくまでご報告でございます」


 ゲシュトは卑屈な作り笑いを浮かべた。



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