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39 鉱山の町 5

 ゲシュトはユージから買い取ったオークとオークの族長を隷属化したことを説明し、明細が記載された書類をルアンに差し出した。別のメイドがその書類を受け取るとルアンまで運んだ。

 しかしルアンは面倒くさそうに首を振り、書類を受け取るどころか、目をやることもしない。


 買取額を誤魔化していることに全く気づく気配もない。

 ゲシュトは腹の中で笑いつつ、支払の依頼をした。


 ルアンはぶつぶつと小言を続け、金貨の入った小袋をメイドから受け取るとゲシュトの足下に投げた。ゲシュトは小袋を拾い、懐にしまった。

 それでも立ち去ろうとしないゲシュトにルアンは苛立ちを露わにした。


「まだあるのか? 俺は忙しいんだ。いつまでも(わずら)わすな」

「実は、例の件でございまして」

「例の件? ……もしかしてアレか?」


 ルアンの目の色が変わる。メイドを脇に押しやり身を乗り出した。


「はい、あの荷です。オークの族長を隷属化した魔道士、腕はかなりのものと見受けられます。ヤツであれば、あの荷の封印を解くことができるやもしません」

「ホントにできるか?」

「試してみる価値はあるかと」

「大丈夫であろうな? アレは万が一にも外にバレたらまずい物だぞ」

「そこはご心配なく、封印解除の際にはジェンスを同席させます。事が終われば魔道士は口封じのため始末させます」


 ルアンはジェンスの説明に納得し、口の端に笑みを浮かべた。


「ゲシュト、時間が惜しい。すぐにでもやらせろ」

「かしこまりました」


 応接の間を退出すると、ゲシュトはまたも笑いをかみ殺す。

 これであの荷の開封が成功しようが失敗しようが女魔道士は連れの小僧共々ジェンスに始末させる。そして懐の金貨は丸々自分のもの……。


 ゲシュトはまさにこの世の春を謳歌している気分であった。




 小屋で朝食をとっていたユージとマルチナはゲシュトの使いから至急にと呼ばれ、一体何事かと慌ただしくゲシュトの執務室を訪ねた。

 ドアを開けると、予想外にゲシュトは上機嫌に笑っていた。


「さあさあ、そこに掛けて」


 ユージとマルチナは促されてソファーに腰を下ろした。

 あのゲシュトがこんな愛想のいいはずがない。良からぬことを企んでいることは明らかだ。

 ユージは身構えた。


「実を言うとな、もう一つ仕事をしないかと思ってな」

「……」

「おお、そうだそうだ、おぬしら閣下にお目通りを希望していただろう。この仕事には閣下も立ち会われる。お目通りが(かな)うぞ」


 ゲシュトは不自然なまでの笑顔を作った。

 この鉱山を乗っ取るには領主の身柄は必ず確保しなければならない。願ってもないチャンスではある。

 ユージとマルチナは顔を見合わせ頷く。そしてマルチナがゲシュトに尋ねた。


「で、私は何をすればいいの?」

「おお、その気になったか。そうでなくてはな」


 マルチナはうさんくさそうな目でゲシュトを眺めていた。しかし、領主に会えると聞いて、断るつもりはなかったのであろう、仕事を引き受けることを告げた。

 ゲシュトは破顔し、上機嫌に笑った。


 ゲシュトは下手なお世辞を並べ、領主の館へとユージとマルチナを連れて出た。




 ゲシュトの執務する建物から五分と歩かず、大きな屋敷の門の前まで来た。

 ゲシュトに続いて門をくぐり建物の前に立った。

 ゲシュトの開扉の命令の声に応じて、入口の扉が左右に大きくゆっくりと開いた。


 そこには左右に亜人のメイドが総勢一〇人ほど列を作り、深々と頭を下げていた。

 黒のベースに白いエプロン。そして不自然なまでに短いスカートからは白い足が伸びている。

 深くお辞儀したメイド服の胸元が広がり胸の谷間が露わになり、ミニスカートからは下着が見えそうであった。


 自前でメイドカフェ作ってる……。しかも、しかも超セクシー・コス。

 ユージはスカートの中を覗きたくなる衝動をなんとか押さえて、メイドを見ない振りをする。

 しかし、そんな様子をマルチは見逃さない。意地悪な笑みを浮かべてユージを見る。


「もしかしてユージもああゆうのが好き?」

「……」


 図星を突かれ、ユージは思わず無言になる。


「ユージが頼むなら特別にああゆうカッコしてもいいよ?」

「えっ!? いや、どうせ頼んだら、また、うっそーとか言うんだろ?」

「はは、バレた?」


 笑うマルチナにユージはメイドに気を取られないよう注意しようと心に刻んだ。

 

 ユージ達はゲシュトに連れられ、応接の間に通された。待つように指示されたが椅子などはない。

 その待遇にマルチナは不機嫌を露わにする。


「ちょっとー、立って待ってるわけ? 椅子はないの?」

「当たり前だ! 閣下の前だぞ。立っているのが嫌なら(ひざまづ)け」

「なら、立ってるわ」



 応接の間の奥の扉が開き、一人の男が現れた。ルアンであった。

 やや小太りで、歳はユージとほぼ同じくらい。しかし、態度は全然違った。

 ルアンが尊大な態度で口を開いた。


「おまえらが奴隷売りか?」

「さようでございます、閣下」


 ゲシュトの回答の声に、ユージとマルチナが頭を上げた。

 ルアンはマルチナの顔を見て、思わず感嘆の声を漏らした。

 女好きだけあって、目ざとい。


「おまえ、名前は何という?」

「ハンナ・ウィルヘルムでございます」

「おおっ、ハンナか。宜しく頼むぞ」


 さっきまでの尊大な態度に変化が現れた。美人には弱いようだ。

 ルアンはマルチナのつま先から頭の天辺まで舐め回すように視線を走らせた。一方ユージに対しては存在すら気づかない、というかあからさまに無視していた。

 ゲシュトの咳払いに、ルアンが我に返ったように口を開いた。


「おおっ、そうだった、では荷のところへいくぞ」


 ルアンは応接の間を出て、地下と続く階段を降りた。ゲシュトがルアンに続き、それにユージとマルチナも後に続いた。




 地下へと続く階段を降りると、広い廊下が延びていた。ルアンは途中の扉を通り越して奥へと進んだ。 突き当たりにひときわ大きな扉があり、その脇に3人の男が立っていた。そのうちの一人が歩み出た。


「ジェンス、待たせたな」


 ルアンの声にジェンスは無言のままお辞儀をする。そして頭を上げると同時にマルチナに目をやった。


 こ、こいつ……。

 マルチナを一目見てジェンスはアドレナリンが体中を巡り、鼓動が早くなるのを押さえられなかった。

 ふたたびジェンスの中でアラームが鳴った。

 きつい目でマルチナを睨むジェンスに向けて、ルアンが(そば)へと呼び寄せる。そして、耳元で小さくささやいた。


「女は殺すな。生きたまま捕獲しろ」

「えっ?」


 ジェンスは思わず聞き返した。


「声を出すなっ。計画変更だ。殺すのは男だけだ。女は殺してはならん」


 無茶だ!! この女は普通じゃない。夢でも見てるのかこのバカは……

 ジェンスは何とかルアンへの反論を呑み込んだ。



 ルアンは扉に歩み寄り、手にした鍵で扉を開けた。

 魔導が使える兵士の一人が進み出て、エターナルライトを詠唱した。光の玉が浮きがあり、学校の教室程の広さの地下室全体が照らし出された。


 部屋の奥に、幅二メートル、高さ一メートルほどの大きさの木箱が置いてあった。


 まるで棺桶のようであった。



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