28 辺境の町・新しい仲間 15
「そろそろ時間か……」
ケニーは脇に控えたシルバー級の魔道士のコリンにつぶやいた。
二組送った迂回ルート開拓隊のうち、北側に送った一隊ーーマグナス隊がまだ戻ってきていなかった。
森の踏破に手間取っているのか、敵に補足されすでに殺されたか……。
ケニーは腕を組む。もちろん彼らは捨て駒、捜索隊を送る考えは全く頭にない。
それより、すでに日が傾きかけている。日が落ち森の暗闇の中での挟撃戦は同士討ちを招きかねない。ケニーとしては日没前には戦いを終わらせたかった。
迂回にかかる移動時間も考えると奇襲作戦のために残された時間は少ない。
ケニーは決断すると、後発隊に進軍を命じた。
ケニーに率いられた後発部隊は森の縁に沿って南方向に一キロ程すすみ、森へと入った。
「まったく、やっかいなことになったな」
斥候隊が開拓したルートを弦や下草を掻き分けながら進み、ケニーは愚痴を洩らした。
隣ではシルバー級のコリンが同じく、弦や下草に苦戦している。
目標は戦略上の拠点というわけではない。ただのオーク狩り。時間的な制約もない。本来なら出直して、しっかりした準備を整えて再度出撃した方が確実である。
しかし、相手が所詮オークという侮りと出直しにかかる追加の費用が、そこまでの慎重策を取る決断を阻んだ。
とはいってもケニーはゴールデン級である。ケニーは不可視化魔導を使える魔道士を 斥候として先行させ、オークの警戒線に触れないよう慎重に部隊を移動させた。そのおかげもあってか敵の斥候との遭遇もなく斥候部隊の誘導もあり順調に進むことができた。
一時間ほどで、斥候に送った魔道士が防衛陣地に籠もるオークたちを五〇〇メートル程先に発見したとの報告を持って戻った。
「なんとか、グリフとの約束も果たせそうだな」
ケニーは報告に頷いた。
加えて報告に依れば、防御壁は前面のグリフ側にだけ作られ、オーク達の背後を守る壁はなにもないとのことであった。
やはりオーク。まあ頭が回るといってもこの程度か……
コリンが安堵の表情で思わず笑みをこぼしている。それを横目で見つつ、ケニーは思考を進める。
奇襲を仕掛けるのであれば、可能な限り敵に近づきたい。中途半端な攻撃では反撃を招きかねない。そうなるとケニーらは数に劣る分だけやっかいである。
とりあえず五〇メートルまではできる限り気配を消して進む必要があるな……
ケニーは作戦を決める。
後発隊五〇人を自分の側に集めて密集隊形を作り、その周囲を防音魔導で覆った。
これで落ち葉や枯れ枝を踏み分けて進む音はオークには聞こえない。ケニー達も外からの音も拾いづらくなるが、敵は目視できるところにいるから支障はない。
ケニー達は低い姿勢を取り進行を始める。少しづつだが確実にケリーの部隊はオーク達の背後に近づいていく。
ついに肉眼でオーク一体ずつまで確認できる近くにまで至った。
オークたちは防御壁の前方のグリフらの先発部隊と睨み合っており、後方振り向く者はいなかった。
◇
「間に合わなかったか……」
ユージとマルチナがオークの防衛陣地の少し北側に降りたときには、既にケニー率いる後発隊はオークの防衛陣地の背後に展開済み。ゆっくりと距離を詰めつつあった。
オーク達はケニーの侵攻に気づく気配はない。奇襲は成功しつつあった。
腰をかがめ木々の間に身を隠しながらシンが溜息を漏らす。
しかし、落胆してばかりはいられない。少しでもオーク達の損失を防がなくてはならない。
「オークに奇襲を知らせなきゃ」
ユージンがオークの防衛陣に向かって駆け出そうと上体を起こした時、マルチナがユージの肩を掴んだ。
振り向くユージンに向かって、マルチナは自らの口に人差し指を当てて、静かにするようにと無言の合図を送くる。
ユージはマルチナの指示に従い、再び草木の陰に身を屈めた。
◇
「もらったな」
ケニーが隣のコリンと目を合わせうなずき合う。
オーク達との距離は四〇メートルを切った。ここまで近寄れば確実にダメージを与えられる。
一撃で戦意を挫く。敵を恐慌に陥れることがその後の包囲から隷属までをスムーズに実現させる。
ケニーは冒険者達に横に広く展開するように指先で示す。魔道士達は静かに広がり、一斉に魔導攻撃を発動できる態勢を整えた。
「ファイヤーボールでヤツらの尻を焼いてやれ」
ケニーの攻撃命令が下った。
何十人もの魔道士たちが魔導発動のため詠唱すべく立ち上がった。
その瞬間、一人の魔道士が前方に体を持っていかれるように勢いよく倒れこんだ。
倒れた魔道士の背中には投げ槍が突き立っていた。




