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27 辺境の町・新しい仲間 14

 思わぬマルチナの言葉にユージは唖然とマルチナを見つめる。

 そんなユージをよそに、マルチナはセルリンの腰に止めてあったバッグを体から外すと、マグナスに向かって投げた。

 

 マグナスは慌てて目の前に投げられたバッグを掴むと乱暴に開ける。

 バッグの中にはレベル四の治癒ポーションがあった。マルチナに渡したものよりさらにレベルが高いものである。

 レベル四の治癒ポーション--これを飲めば今の腹の傷を治すだけでなく、一・二時間は治癒効果が持続する。つまり新たに受けた傷も直ちに治癒させるだけの力がある。

 これを飲めば新たな攻撃を受けても即死しない限りマルチナから逃げ切ることができる。


 やっぱり甘ちゃんだな……

 マグナスは内心ほくそ笑み、治癒ポーションを掴み出すと、一気に飲み干した。

 その瞬間、マグナスの体がうっすらと光に包まれる。

 服はまだ血で濡れているが、傷は塞がり出血は止まった。痛みまでは完全に消えないが、体は動く。

 マグナスは体の回復を確かめるようにゆっくりと立ち上がった。

 その様子を眺めつつマルチナが冷たく言い放った


「でも、騙したことは償ってもらうわ。ただの死をもっては償えるとは思わないことね」

「ただの死? 一体何のことだ?」


 マグナスの問いかけを無視して、マルチナは地面に向けて手をかざした。

 ほどなく手のひらの下に黒い影が浮かぶ。

 その影の色は次第に濃くなり、やがて四匹の浅黒いハイエナのような(けもの)の形となった。

 マルチナが魔導で魔獣を召喚したのだった。


 魔獣たちは周囲に漂う冒険者達の流した血の臭いに反応して、早くもよだれを垂らし唸り声を上げる。

 正面にいるマグナスを獲物と定めたのか、睨み付け今にも飛びつきそうに前足で地面を蹴り上げている。



「弱肉強食だったわね」


 マルチナは先ほどのマグナスの言葉を繰り返した。


「そ、そいつらに俺を殺させるのか……?」


 マグナスは(かたわ)らに投げ出されていた自らの剣を拾い上げる。

 そんなマグナスをマルチナは冷たい目で眺めた。


「勘違いしないで。この()たちは獲物の生き死には興味がないの。興味があるのは空腹を満たすことだけ」


 マグナスはマルチナの言葉の意味が分からないのか、黙ったままマルチナを見つめる。


「分からないなら教えてあげるわ。この()たちは敢えてお前を殺しはしない。ただ喰らうだけ。お前は生きたまま腸を引き(ずり)り出され、血を流し、この()たちに喰われる。どれだけ肉を裂かれ血を流そうと、今飲んだポーションの効果が切れるまでは死ぬことは出来ない」


 マルチナの意図を悟りマグナスの表情に恐怖の色が浮かんだ。


「ゆっくり時間をかけて償いなさい」


 そう言い終わると、マルチナが魔獣たちに向けてあごでマグナスを指し示す。それを合図に魔獣達が血で濡れたマグナスの腹部目がけて突進した。


 マグナスは慌てて魔獣たちに向け剣を構える。

 しかし、四匹の魔獣対一本の剣。同時に飛びかかる魔獣を全て払い除けることは出来ない。

 一匹の魔獣が剣をすり抜けマグナスの胸に飛びつき引きずり倒す。残りの魔獣たちもマグナスの体の上に群がった。一匹が腹を食い破り腸を引き摺り出すと他の魔獣がそれを奪おうとして腸に噛みつき、引き千切(ちぎ)る。


 マグナスは激痛のあまり悲鳴を上げる。

 マグナスの悲鳴に魔獣達もますます興奮の度合いを上げた。魔獣同士が他を威嚇する唸り声をあげる。

 腹部を諦めた一匹がマグナスの左脚に喰らいつきももの肉をちぎり取る。別の一匹は右腕に噛みつくと骨ごと噛み砕いた。

 魔獣達にのし掛かられ寝返りすら打てない。魔獣たちのなすがまま、抵抗もむなしく排除されるのみ。


 もっとも魔獣達に食い破られた傷は治癒ポーションの効果ですぐにふさがり始める。

 しかし腹の裂け目が塞がる前に魔獣が鼻先を突っ込み再び腸を引き出す。そしてまた他の一匹は再び復活した脚の肉に食いついた。

 その度に激痛がマグナスを襲った。そしてまたポーションの力で傷口が塞がる……


 浅黒い魔獣たちの顔はマグナスの血で赤く染まった。そして、マグナスも自らが流した血の海でのたうち回り、全身を自らの血で赤く染め上げていった。



 マグナスの悲鳴と魔獣の唸り声がいつまでも止まずに草原にこだました。


 ユージはマグナスが魔獣に喰われる様を呆然と眺めていた。余りの惨状に寒気に襲われ思わず身震いする。さすがに気分が悪くなりそうだった。

 顔を背けると、マルチナが隣に立っているのに気づく。


 マルチナは手こずることもなく六人の男たちを片付け余裕の表情。一方ユージは、セルリン、マグナスとの死闘を経てぼろぼろ。クタクタに疲れ果てていた。

 なんで自分だけこんな目に……。

 ユージは納得いかない思いがこみ上げる。


「もっと早く助けてくれればよかったのに」

「それじゃあ、ユージの修行になんないでしょ」

「修行って……。とんだOJTだな。それならそうと先に言っといてよ」

「本番と同じくらいの真剣さがないと意味ないでしょ」


 ユージの恨み言にマルチナが正論で答えた。


 避難訓練の校長先生の講話かよ……

 ユージはふて腐れ気味に呟いた。

 そして、ふと思いつき、マルチナに尋ねる。


「いつ嘘だって分かった?」

「もちろん最初から。バレバレでしょ」


 知らなかったのは自分だけ。情けなさと恥ずかしさで消えてしまいたい。

 ユージはため息をついた。そんなユージを眺めマルチナが追い打ちをかけた。


「あの農夫も言ってたじゃん? 冒険者なんてみんな詐欺師かゴロツキの類いだって」


 ユージは街まで荷馬車に乗せてくれた気のいい老いた農夫を思い出し、再び深いため息をついた。

 マルチナは落胆して肩を落とすユージの背を軽く叩いた。


「時間がないよ。早く行こう」


 そう言うとマルチナは黒翼を大きく開く。ユージも真似ようと思ったが飛べるほどの羽は出せないことは分かっている。


「魔獣たちはどうする?」

「死体も含めて人間達を食い尽くせば、自然と消えるわ」


 マルチナは右手でユージを抱えると、未だ止まないマグナスの悲鳴と懇願の声を無視して、空へと羽ばたいた。

 ユージを抱えたマルチナはあっという間に地上一〇〇メートル程の上空に至る。


 目指すオーク達の防衛陣地の位置は直ぐに分かった。

 上空から見渡せば森の一部にぽっかりと木々のない空間が存在している。


 マルチナは地上から見つからないようにと高度を落とし、森の木々を縫うようにオークの防衛陣地に向かって飛んだ。


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